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宇佐美正パトリック、高校6冠ボクサーのMMA転向がネットニュースで話題となったが、その宇佐美は日本拳法を学んだ父ととともに立ち技を習得し、フルコンタクト空手でも高い実績を持っている。
“地獄の合宿”でのフィジカルトレーニングでの脱落から、試合形式のスパーリングでの唸る左ボディ──見るものを魅了する宇佐美はどんなMMAファイターになろうとしているのか。
5月15日(土)20時30分から、ABEMAにて配信される「最終審査」での“外敵”との試合を控えた宇佐美に、その想いを聞いた。
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『悔いのない』選択が出来ました
――高校6冠ボクサーの宇佐美選手ですが、岡田達磨選手との再試合のときに、いきなり見事な右ハイキックを見せて、この蹴りはボクサーの蹴りじゃないと感じたのですが、空手の経験があるそうですね。
「そうですね。最初に始めた格闘技が空手でした。小さい頃なのであまり覚えてないんですけど、蹴りも得意で、離れていてもなんとなく身体が覚えています。極真空手から始まって、その流派の試合しか出られないということで、父と話して無所属でやろうなり、一緒に頑張っていた感じです」
――極真空手では極真会館世界ジュニア親善大会で2位、新極真ジュニア全日本2位、他のオープン大会にも出ていた?
「出てました。ジュニアの重量級で、正道会館の大会は4回出て、最初の2回は負けちゃったんですけど、その後2連覇して、MVPももらいました(正道会館全日本ジュニア選手権優勝)」
――宇佐美選手が近い距離でも戦うのは、フルコンタクト空手をやっていたことも影響しているのでしょうか。オーソドックス構えからのあの左ボディ、突きとか。
「そうですね。左ボディとかに関しては、正道会館の試合、準決勝くらいまで全部左ボディで倒していました」
――あれは宇佐美選手の強力な武器ですね。
「あれで1個カウンターを合わせるだけでも全然変わってきます。試合の雰囲気が」
――それはボクシングの中でも武器になったわけですね。
「そうですね。ボクシング6冠も、やっぱりボディを効かせることで自分のいいボクシングにだんだん繋げていけた部分はあります」
――しかし、ボクシングと空手はまた距離が異なります。アジャストするのに苦労はしなかったでしょうか。
「距離感の違いですよね。ボクシングって、けっこう速いスピードで踏み込む。でも空手って、蹴れば距離を離せられるし、思ってる以上に長かったり、短かったりもする。そこに自分のいろいろな工夫をするのがちょっと難しかったですね」
――MMAをやろうと考えたのは?
「ボクシングをやっているときは、オリンピックを目指してました。ただ、総合格闘技がすごく好きだったんですよ。父とUFCをめちゃくちゃ見ていて、東京オリンピックの選考会で負けてしまったときに、父とインターネットでこの格闘家オーディションを見つけて、“うわ、これだ”と思って。それですごい夢をもらって。これを叶えるしかない。諦めないで挑戦しようと思って、今、ここにいます」
――名門校の高校ボクシングで6冠を取ったことは、ご自身の中でどんな手応えを得られましたか。
「6冠自体は特別にすごいとは思わなかったんです。1冠を取ってから『これは他も取らないと、取って当たり前だろう』と思ってました。それなりの練習もしてたんで。(尾崎)優日さんが、同じ興国高校の先輩で、6冠も取って世界3位にもなったんですけど、そのときに校長先生が『6冠取って、これからいろいろな人生あると思うけど、悔いのないように生きや』と言っていたんですね。その『悔いのないように』という選択が出来ました」
――立ち技系競技に行こうとは思わなかったですか。
「思わなかったです。自分は今、世界的に一番盛り上がっているのはボクシングと総合格闘技、MMAだと思ってるんですよ。僕はオリンピックに行けなかった人間で、でもこのオーディションはそのMMAでチャンスを与えてくれる。これを受けないと自分が損すると思ったんですよね。それで、総合の練習もそこから始めて、まだ間もないけど、こうやって受け入れて、挑戦する機会・環境を整えてもらって戦わせてもらっている。それが、すごく嬉しいですね」
――なるほど。ところで、さきほど幼少時はお父様が主に先生だったというのは?
「空手のときは父に習っていて、すごく格闘技オタクなんですよ。日本拳法をやっていて、ボクシング、総合格闘技、キックボクシング……全部好きで。いつも格闘技のことを2人で話していました。試合のときの相手の動きの研究も一緒にやって。だから、今回の挑戦をとても喜んでくれましたね」
――オーディションに応募して、MMAを始めたわけですけど、実際にやられて戸惑いはありませんでしたか。
「もちろん苦しい世界というのは想像していたんですけど、やっぱり自分が今までやったことのない世界に、こうやって入っていくというのは……寝技の部分に関してはとても苦労をしていますね。ただ、打撃面に関しては自信があるので、アドバイスをもらいながら、思った動きが出来るようになってきています。負けた試合から、いい勝ち方も出来た。EXFIGHTの環境に感謝しています」
――GENスポーツの出稽古では、中・重量級の猛者たちと肌を合わせているようですね。
「はい。岡見さん、それにストラッサー起一さんに基礎から習っています。どんなときも常に冷静に動かないと、グラップリングは絶対に上手くならないなと思いました。焦って変に動いたら詰んでしまう」
――岡見選手と組むこともありますか。
「はい。組ませていただいて、岡見さんとやってたら……他にこんなヤバい人はいないだろうという、逆に自信になるんですよね。寝技もまともにできない人間を相手にしていただいて、教えてくいただくことにすごく感謝の気持ちを持っています。チャンピオンを目指して、世界一になるためには、岡見さんにしっかりぶつかっていかないと駄目だと思います。それに、苦しんでいる部分はすごくありますけど、楽しいんです、やっていて。出来ないことをやるのは苦しいけれど楽しい」
――それは途方もない頂きだと感じることはないですか。
「いまは迷うことなく、ひたすらぶつかって、ぶつかってという感じですね」
――合宿では、宇佐美選手が今までアスリートの練習をしてきて余裕が見えたのか、首脳陣から「もうちょっと本気度が見えないと」と厳しい言葉をかけられたこともありました。
「ああやって言ってもらえたおかげで、しっかり3日目のラントレもマススパーリングも全部ついていきましたし、スパーリングでも結果を残すことが出来ました。あのの言葉があってこそ、自分もしっかり火がつきましたね」
――宇佐美選手といえば、『格闘DREAMERS』の岡田達磨選手との2試合が印象に残っています。レスリング出身のグラップラー相手にがぶってマウントを取って、チョークにいった。でも反則の絞め方でした。
「あれは本当に申し訳なかったです。首の絞め方のルールを分かっていなくて、ああなってしまって……岡田さんに反則行為をしてしまって、正直僕が負けと言われてもおかしくなかったんですけど、岡田さんは拒否してもいいはずなのに『もう1回やりたい』と言ってくれて……感謝しかありません」
――あの岡田戦のときに先にマウントを取られたのは宇佐美選手でした。それを前方に送り出して立ち上がった場面に、がむしゃらさを感じました。
「あのときの緊張感は半端なかったんです。あれはほんまに野生の本能でした。国体5位にまでなってる岡田選手だし、その前に何回か組ませてもらってたんですけど、やっぱパワーがある選手で、すごく組みが強いなと思っていたんです。そんななかで、試合形式のスパーリングのことを、正直、あまり覚えてないんです。映像を見て、こういう感じだったんだって初めて分かった。だから、あのスクランブルも打撃も、勝手に身体が動いたんだと思います。もう狙ってるとかなかったですから」
――『格闘DREAMERS』の試合映像を見ると、大きな振りでも打っています。対戦相手との相対的なものではあると思いますが、アマチュアボクシング時代とは違う打撃になっているのではないかと思いました。
「動き自体は総合っぽくなってきているとは思います。組みの免疫もついてきて、ボクシングは手だけでコンパクトに打たないとパンチを合わせられたりするんですけど、もちろん総合でもそれはあるんですけど、組みの動きと繋げています」
――いよいよ「最終審査」の試合では、宇佐美選手は“外敵”の日高健太郎選手と対戦します。KRAZY BEE所属で、DEEPフューチャーキングトーナメント2020ウェルター級優勝者。決勝戦では、右ミドル・左フックで1R KO勝ちを収めていました。ビデオも見ましたか。
「映像、見ました。けっこう打撃メインの選手で、気持ちの強い、身体の強い選手という感じです」
――そういう相手にどういう試合を見せたいと思っていますか。
「僕の試合、一番盛り上がるんじゃないかというくらいの勢いですね。たぶん打撃勝負になるとは思うんですけど、相手は、僕がグラップリングできないと思って、テイクダウン取りに行こうと絶対すると思うんです。でも、僕はちゃんとそれに対処するので、絶対にテイクダウンさせないです」
――テイクダウンさせない?
「はい。させないです。正直、そうする前に僕が倒そうと思ってるので。絶対、面白いと思います」
――テイクダウン耐性に、成長の手応えも得ているようですね。
「そうですね。岡見さん、起一さん、石田(光洋)さんにも、いろいろ教わっているので、その自信はめちゃくちゃありますね、今」
――世間的には注目度の高いオリンピックの夢から、今こうしてMMAをやっていて『格闘DREAMERS』に出ている。あらためて、そのことをご自身ではどう感じていますか。
「オリンピックを目指していて、それが叶わなかった。そこでこの『格闘DREAMERS』に夢をもらえたことに関してとても感謝しています。夢が砕けて、自暴自棄になりかけたときに、夢をもらって、またさらに頑張ろうと思えた。LDHが皆に投げかけたチャンスを掴みにいけることに感謝しています」
――それは、世界と繋がっていると。
「自分はここにいれば絶対チャンピオンになれると思ったんです。そのためにもLDH martial artsの所属を掴みとりたいです」
――ちなみに好きなMMA選手は誰でしょうか。
「打撃系の選手でいったら、ショーン・オマリー選手、それにやっぱりコナー・マクレガー選手が好きですね。マクレガー選手はパンチのタイミングと打つ軌道が、もう相手に対して完璧に合わせてる。あれはすごいです」
――今後の目標を教えてください。
「『格闘DREAMERS』の中でLDH martial artsの所属を勝ち取ること。その後に皆さんに恩返しをするために、自分がUFCに出場し、チャンピオンになることが一番の夢です」
――みな、衒いなくUFCと言いますね。
「世界最高峰を目指したいんです。それを言うだけでは終わりたくないですし、やっぱり言って目指さないと絶対できないことだとも思うので。まずは次の試合を楽しみに見てください!」
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