フリースタイルレスリングのU23世界選手権(2017)で61kg級優勝を果たした中村倫也は、東京五輪を待たずにMMA転向を表明。LDH martial artsと契約した。
すでに難関を乗り越えての契約のはずだったが、『格闘DREAMERS』に一次オーディンから参加。試合形式のスパーリングも勝ち上がり、チームを牽引する姿を見せている。
もともとMMA(総合格闘技)とも縁の深いレスラーだ。父・中村晃三氏はPUREBRED大宮のオーナーで、バーリトゥードジャパン開催にも尽力した人物。倫也は、5歳のときに山本美憂がPUREBRED大宮で始めたキッズレスリングに参加したことで、格闘技にのめりこんでいった。
エンセン井上、山本“KID”徳郁、朝日昇……「いつも遊んでくれているお兄ちゃんたちがカッコ良かったように、“僕も絶対こういう大人になるんだ”という想いがあった。将来、世界のトップの舞台で自分が活躍していることを想像してワクワクしていた、その少年時代の僕が今でもずっと、いるんです」と、目を輝かせる。
「簡単に『UFCのベルトを巻く』っていう言葉が日本では出せなくなっている」なか、ここには何の衒いも無く「『UFCのチャンピオンになる』って真っ直ぐに言える子たちが集まっている」と、倫也は言う。
頂きの高さを知る中でも、目指すのは世界最高峰。夢みる男は、『格闘DREAMERS』を生き残り、夢を掴む男になるつもりだ。
5月15日(土)20時30分から、ABEMAにて配信される「最終審査」での“外敵”との試合を控えた中村倫也に、その想いを聞いた。【関連記事】
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海外遠征で一緒に練習してたアーロン・ピコがMMAへ
――フリースタイルレスリングU-23世界王者(61kg級・2017年)など、レスリングで輝かしい戦績を残した中村選手です。お父様の中村晃三さんはPUREBRED大宮のオーナーということもあり、総合格闘技は幼い頃からやろうと思っていたのでしょうか。
「もう物心ついたときからですね。他の競技選手になりたいとか、なんか別のことをやりたいなと思ったこともないです。気付いたら総合格闘技をやりたい、と思っていました」
――1995年生まれの中村選手が幼い頃のPUREBRED大宮というと……。
「僕の記憶だと、エンセンさんがボスで、KIDさん、池田久雄先生、朝日昇選手、加藤鉄史選手、坂本光広選手……もうたくさんの選手がいましたね。柔術で片岡誠人さんとかもいましたし」
――当時のシューター、PUREBRED大宮の選手たちを、幼心にどう感じていましたか。
「僕にとっては、いつも遊んでくれているお兄ちゃんみたいな存在でした。もうなんか、ただめちゃめちゃふざけてるお兄ちゃんたち(笑)。ジムだけじゃなく、よく家にも来たりしてたのですが、とにかく面白い人たちだなって」
――面白いけど怖いって思ったことはなかったですか?
「怖くはなかったですね。でも、エンセンには抱っこされるとなんか泣いてたらしいんですけど(笑)。ああ、でも修斗くん(ピットブル)が一番怖かったですね。飛びつかれて、それが最近まで大型犬が怖いトラウマで、触れなかったという(笑)」
――元々キッズレスリングは山本美憂さんに習っていたのですよね。
「そうです。美憂先生がレスリングで現役を辞めて、アーセン(1996年生まれ)もレスリングできる歳だし、俺もいるし、じゃあ弟と3人でキッズレスリングやりたいって言って、うちのジムで始めたようなんです。そこからずっとレスリングをやってきました」
――レスリングを最初にやったときはどう感じましたか。
「ウチのキッズレスリングはもう本当に基本をずっとやってたんです。サイドステップや手を叩いたらバーピーとか。もう落として入る、落として入る、の繰り返し。楽しいというよりは、ちょっとしんどいなと感じました」
――基本の反復練習が多かったと。2017年にフリースタイル61kg級のU-23世界選手権で優勝。当時のレスリング仲間でMMAに行った選手は、世界にもいますか。
「海外遠征で一緒に練習してたのはアーロン・ピコですね」
――ピコ! 階級は同じくらいですか?
「僕の1個上(66kg)で戦ってました」
――先に彼が2017年のBellatorでデビューして、ピコはボクシングの全米ジュニアゴールデングローブでも優勝していますから、MMAの申し子といえるかもしれませんね。
(C)Bellaotor
「僕はそれを知らなくて、レスリングがただ強いやつだと思ってたら、ボクシングもすごいじゃん、と。あの体幹であんなアッパーもボディも打てる」
──組んでどう感じましたか。
「組んだときも、やっぱりアメリカ人特有のスクランブルが上手でした。ただ、僕も日本の中ではそこを軸として戦うスタイルなんで、そこで勝てないなと思ったことは特に無かったですね」
――カレッジレスリング的な要素が中村選手の中にもあるのですね。
「そうですね。コントロールすること、エスケープすること、いまのMMAのスクランブルにも繋がります」
――総合格闘技は幼い頃からずっと近くにはあったけれど、それは簡単なものではないということも感じていたりしたのでしょうか。
「いえ、簡単なものだと思っていました、ずっと。自信もすごく持っていたし、いつでも行って大暴れしたいなと思ってたんです。でも、自分が大学の途中くらいから、レスリングベースだけの選手が勝つのが難しくなってくる時代で、打撃がすごく強くて、レスリング選手がテイクダウンしても、下からも全然極める選手も出て来た。レスラーが簡単には通用しない時代になってきているのを見て、今まで簡単だと思ってたけど、全然そういうものじゃなくなってきてるんだなって感じていました」
――実際にMMA転向にあたって、練習に取り組むようになって、中村選手は、ひと足先にLDH martial arts とプロ契約を結んでいるわけですが、今回の『格闘DREAMERS』では、ほかのアマチュア選手とも横並びでした。“一からなのか?”とは思わなかったですか。
「いや、むしろ本当にさっき言ったように、そういうレスリングだけでは通用しない時代になってきているからこそ、丁寧にキャリアを作っていきたいなという気持ちはあるので、この機会はありがたいなと思いましたね。しっかり育成してもらえるので」
――打撃練習は、レスリング時代はやってはいなかったのですか。
「やってなかったですね。ただ、総合に対しての焦りというのを感じ始めたときには、もうオリンピックが近々で、手のかかるところにあったので、他のことにエネルギーを割く余裕はなかったですね」
――全日本レスリング選手権大会を拝見したのですが……。
「僕が頭を剃っているときですか?」
──剃っていないとき、2018年の天皇杯ですね。乙黒拓斗(65kg東京五輪代表)選手との接戦で、最後、敗れましたが、あの試合のときの敗因をどうとらえていましたか。
「あれは、単純に触ったときの四肢、腕と足の強さが、ちょっと向こうのほうが上だったなというのと、通常体重が、僕が61から上げていく中で、まだフィジカルを作っていかないと駄目だなと感じた試合でした。でも、その中でも、ボタンの掛け違いで最初に一つ取られたことで、トントントンと開いてしまった。最初に取っていれば展開は絶対変わっていたと思うし。だから、攻略で見えた部分もあったんです。ちゃんと身体を作っていかなきゃいけないとか」
――最後は自分から入りながら、左で差されて持っていかれました。
「あれ負けパターンなんです。最初に2つくらい取られると駄目なタックルが出ちゃって、まさにそれがあの試合は出ちゃって。そこから足を着く角度とかもしっかり修正してやってくぞというふうに再確認した試合でした」
――しかし、中村選手のシングルレッグ(片足タックル)は凄まじいです。レスリング時代の得意技は、アンクル・ホールドのほかにどんな動きがありましたか。
「レスリング時代の得意技は、やっぱり頭外のシングルレッグですね」
――総合の練習の中でも使っていますか。
「だいぶ生きていますね。それもあって、僕が立っているだけでタックルのプレッシャーはもう相手にかかっているので、それを利用して、いろいろなことも出来るようにちょっとずつなってきています」
――頭外でギロチンを取られることはあまりないでしょうか。
「ギロチンは、まだ取られちゃうことはあるんですけど、でも相手がトライして、そこを脱出する率というのは確実に上がってきていますね」
――スクランブルが強いなというのを感じていましたが、その中で、最初の試合形式のスパーリングで、漆間將生選手との試合では優勢でしたが、足を効かされて、立たれる場面がありました。あれは……。
「あれは、立たれたんじゃなくて、僕が第1次オーディションで求められているのは、豪快な投げだったり、完全に一本取ることだと思っていたので、上で揉み合っている展開が長く続いちゃうことを避けて、1回立たせて、思いっきりぶん投げようと思ったんです」
――その意味では、途中のダースチョークだったりが極まらなかったのは、課題として残った?
「そうですね。コントロールして極め切るところが課題だなと思いました」
――合宿では齋藤奨司選手と岡田達磨選手とも試合形式のスパーリングが放送されました。
「初日に齋藤選手とキックボクシングの試合をやって、2日目に岡田選手とグラップリング。3日目に齋藤選手とMMAマッチという状況でした。だから、齋藤選手とは2回やっていますね」
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高谷さんの言葉で、本当にチーム一丸で本気になって、あの舞台を目指していいんだなって
――あの齋藤戦を見ていて思ったのですが、中村選手、サウスポーに構えてましたよね。右足前で。でもレスリングのときも右足前でした。レスリングでは利き腕と同じ側の足を前に出して構える選手が多いですが、中村選手はちょっと違うなと感じたんです。
「……よく、分かりましたね。左利きなんです」
――あのスーパーマンパンチを見て、左利きじゃないかと思いました。吉田沙保里選手の逆バージョンですね。なぜレスリングではサウスポー構えだったんですか。
「それは、美憂先生が教える初めての子だったんで、全部自分と同じように構えを教えちゃって(笑)。『レスリングは右足が前!』って。自分も“ああ、そうなんだ”と思って、右足を前にして構えて。左利きなのに右のレスリングで覚えちゃったんです」
――レスリングのときにも時折、スイッチしてましたね。怪我の功名というか、左右どちらでも戦えるようになった。
「たしかに、レスリングのスイッチは途中から採り入れるようにしていましたね」
――あのスーパーマンパンチからのテイクダウンの流れは圧巻でした。得意技なんですか?
「いや、全然そういうわけじゃなくて。スーパーマンパンチを打って距離詰めようと思って。そうしたら、相手の顎がパーンって顔浮いてくれたんで、そのまま勢いを殺さずにテイクダウンに行こうと、切り替えました」
――そこからは一気に試合を決めました。
「そうですね。フィジカルで圧倒って感じですかね」
――パンクラスイズム横浜でもトレーニングをされているのですね。
「レスリングのキャリアの後半くらいから、横浜でタケダイグウジさんにフィジカルを教わっていたので、その延長線上で松嶋こよみ選手や、それに北岡悟代表もすごく良くしていただいて」
――あの肩固めも……。
「はい! 北岡さんから」
――そしてEXFIGHTでの練習も。
「高谷裕之さん、岡見勇信さん、石田光洋さん、門脇英基さん……達人ですよね。たとえば、門脇さんの身体の使い方は、自分がレスリングで感じていたことに近いんです。もう、いろいろなタイプの全然違うスタイルの選手から習うことができています」
――プロMMAファイターの取組みを見て感じていることはどんなことですか。
「人それぞれですけど、例えばこよみさんは、スイッチしながら両方とも攻撃で出せますし、僕もそれは世界ではスタンダードな標準装備になってきているので、そこに早く到達しないといけないなと思っています。そこに到達するためにダイグウジさんからムーブメントとか、こよみさんからいろいろパターンを教わってもいます」――バックボーンを持ち、LDH martial artsと契約をする中で、中村選手がこの『格闘DREAMERS』で切磋琢磨することに、どんな意義ややりがいを感じていますか。
「やっぱり世界を知れば知るほど、みんなを見て思うのは……簡単に『UFCのベルトを巻く』っていう言葉が日本では出せなくなっている。そんなことを口にするのも駄目なんじゃないかな、みたいな空気感がある中で、ここにいる選手たちはもう、『UFCのチャンピオンになる』って真っ直ぐに言える子たちが集まっている。最初からそういう意識を持てる環境に身を置けるというのは、絶対に大事だなと思いますね」
――頂きの高さを知ろうとする中でも、目指すところは最高峰なんだということを言える面子だと。
「そうですね。この間、僕が練習で足首を挫いたときに、高谷さんが言った一言目が、『UFCって足首テーピングありだっけ?』って。まだ、僕がデビューしてないのにそういうことを言ってくれたのがすごい刺激になったんですね。ああ、ほんとうにチーム一丸で本気になってちゃんとあの舞台を目指していいんだなって思える環境なんだって」――その中でも中村選手は、キャリアとして抜けた部分と、課題もある。どんな形で存在感を示していきたいと思っていますか。
「存在感を示すためには、もちろん最終選考でも勝つだけじゃなくて、内容も問われてくると思います。それは難しいところですけど、アマ2試合とも寝技で取って、練習でも取れることが増えてきているので、打撃面での成長もしっかり見せることが必要だと思っています。あくまでも一番の武器であるレスリング軸に、それを生かすために打撃もしっかり使っていく姿を試合で早く見せたいです。この間の試合も結局、相手が来たのにタックルをどーんと合わせて、殴ってフィニッシュする形だったので」
――それがいまの段階で出来ているとも言えます。
「そのくらいのものを求められていることも分かっています」
――プロを見れば見るほど、途方もない頂が雲の上にある。そこへ行けるのかなって悩んだりすることはないですか。
「もちろんそれはあります。でもやっぱり、小さい頃に、そういう世界のトップの舞台で活躍していることを想像して、ワクワクしていた自分というのが、毎回毎回支えになってくれていて。あれだけ遊んでくれたお兄ちゃんたちが、あんなかっこ良かったように、僕も絶対こういう大人になるんだという想いがあって、その少年時代の僕が今でもずっと、いるんです」
――世界を目指す修斗の子が、ここにもいたわけですね……。「最終審査」の試合の相手は、すでにプロで活躍している新井拓己選手(ストライプル新百合ヶ丘)に決まったそうですね。
「レスリングで足利工業大学附属から大東文化大に進んで、そこからプロ修斗でも戦っていますね」
――ビデオも見て、どう感じていますか。
「ちゃんと決着つけて、越えるべき相手だなと思います。大学卒業して、身体を動かす延長から始めたようなファイターたちには絶対負けたくない。思いの強さの違いというのをちゃんと見せなきゃいけないなと思っています。自分のルーツはプレッシャーでもありますが、強さでもあります」
――PUREBRED大宮で見て来た格闘家たち、そこで学んだレスリングを軸に上がっていきたいと。
「そうですね。どれだけアメリカの強いレスラーでも、実際に肌を合わせてきてるし、何十人も。心が折れる瞬間というのは何回も体験してきてるんで。心の折り方は分かっています。レスリングを通してですけど、何が嫌なのかを学んできてるので」
――この『格闘DREAMERS』の中で自分はどういう存在になりたいと思っていますか。
「初代のリーダー的な存在に。一足先に契約選手になっているので、みんなが背中を追いかけてこれるような、全てを背負って戦う頼もしい存在になりたいです。越せるもんなら越してみろとも」
――MMAファイターとしての目標を教えてください。
「将来の夢はUFCのベルトを巻いて、防衛を重ねることです」
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