人として人生に向き合うこと
【写真】「ソウザ兄弟やクレベルたちが、いつかもっと大きな世界へ飛び出す時が来たら快く送り出したい」と坂本は言う。
現在、在留ブラジル人は20万人を超えている。それでもブラジル人の増加率は他国よりもゆるやかで、総数で1位は中国人、2位は韓国人、3位はベトナム人、4位はフィリピン人、ブラジル人は5番目だ。
少子高齢化が止まらない日本は、今後も海外からの人材がなければ経済が立ちゆかないのが現実で、すでに日本は移民大国と言える。そんななかで、いかに対立から相互理解を深めるか。
ボンサイ柔術とその仲間たちは、浜松・磐田の地で、行政より先に、コミュニティーの一員として共に歩む道を進んできた。少なくとも坂本は、サトシやクレベルたちの「人生」を受け入れてきた。
坂本は、サトシやクレベルらボンサイ柔術の面々が試合に向かうとき、必ず行っている儀式を、控え室や柔術会場の片隅で見守ってきた。
父アジウソンが遺した擦り切れた本の写真と言葉を前に正座し、戦うことを誓い、気持ちを集中させて、リングや畳に向かう。
【写真】父であり師でもあるアジウソンの言葉を噛み締めて、時に涙を流し戦いに向かう。
“O jiu jitsu sempre foi a alegria da minha vida.
Todas as vezes que amarrei minha faixa honrei meu kimono.
Dos adversarios que perdi, aprendi a licao de como fazer certo.
Dos que ganhei, a certeza de que percorri o caminho da vitoria
sem nunca me sentir melhor ou pior.
「柔術は私の人生で常に幸福をもたらしてくれました。毎回、帯を結ぶ度に私は、自分の道衣の労をねぎらってきました。戦いに負けた時は、私は戦った相手から正しいやり方を教わりました。戦いに勝った時は、勝利に向かって進んで来た道が正しかったことが確認できました。それにより、最高や最悪といった気持ちに支配されることはありませんでした」
“Tirei de cada treino, todo o prazer que o esporte de kimono
pode oferecer.
A maior verdade que encontrei foi a alegria dos meus filhos,
o amor da minha esposa e o respeito dos meus amigos.
Sigo em paz certo de haver cumprido minha tarefa.”
Adilson de Souza
「私は日々のトレーニングで、柔術の中で幸福を感じていきました。柔術は私にそれらを提供してくれました。そして私の見つけた最大の真実は、私の子供たちの喜び、妻への愛、そして友人たちへの敬意でした。私は安らかに、自分の使命を果たしたことを確信しています」──アジウソン・デ・ソウザ
勝つこと・負けることより、真に戦うこと──それはタタミの上だけではなく、リングでも日常でも、相手だけでなく自身の心とも戦い、敬意を持つこと。それを父は柔術の“息子”たちに伝えていた。