MMA
インタビュー

【UFC】フライ級が覚醒した日──ロイヴァルと歴史に残る打撃戦、王者パントージャに挑戦を決めたジョシュア・ヴァン「僕が数年前にMMAをやっているのを見て、ミャンマー国民やビルマ民族がこのレベルに達するなんて誰も思ってもいなかっただろう」

2025/07/01 12:07

なぜ、ロイヴァルは組まなかったのか?「サソリとカエルの話」

 一方、敗れたロイヴァルは、リーチを活かしたアウトキックボクシングで守ることなく、圧力をかけることで自身の打撃で勝負した。その反面、距離が近くなったところでヴァンの打撃も被弾。そして、最大の疑問は、得意の組み技を混ぜて戦おうとはしなかったことだった。

 試合前の本誌のインタビューでは、急遽の対戦相手の変更に「マネルの方が爆発力があって足使いも上手いから、むしろそっちに合わせてた方が大変だったかも。ジョシュアは前後の動きが中心だから、そこまで大きな切り替えじゃなかったよ」と語っていたロイヴァル。

 MMAとしての引き出しの多さについて、「おそらくヴァン選手からあなたをテイクダウンする動きは少ないかと思います。相手が組んで来ない、ということはMMAにおいて有利と感じますか?」と問うと、「いや、正直どっちでもいいよ。俺も彼を寝かせるつもりはないし、殴り合う気満々だ。ボクシングが得意なら、俺も打ち合いに付き合うよ。“レッツ・ボックス”さ。必ず面白い試合になるはずだし、理想を言えば一方的に俺が勝って終わりたいね」と、打撃戦を予告していた。

 その言葉通り、打ち合いで上回ろうとしたロイヴァル。ヴァンと同じ20歳でプロデビューしながら、当時は少年更生施設で働いていたロイヴァルは、適正階級で戦えない時代や、フライ級不遇の時代を経て、いまのメインカードにたどり着いている。フライ級に注目が集まり始めたこのタイミングで、T-モバイルアリーナのファンを沸かせる試合をあらかじめ選択していたともいえる。

 この試合を見たパントージャに本誌は「ロイヴァルはヴァンにテイクダウンに行かなかったのか・行けなかったのか、どう考えますか?」と問うと、王者は、「ロイヴァルは大きなミスを犯した。俺もジョシュア・ヴァンの試合をいくつか見るなかで彼がとてもテイクダウンディフェンスが上手いことは知ってたし、それはロイヴァルも見て知るところだったろう。だから彼は消耗したくないからテイクダウンを狙いにいかなかった。だが、それは大きな間違いだ。自分のほうにグラウンドで優位性があるなら、そこはトライしなくてはいけない。テイクダウンとグラウンドのプレッシャーがないから、ヴァンにアドバンテージを取られた」と、敗因を語っている。

 なぜ、ロイヴァルは組まなかったのか。正確には、近い距離では首相撲ヒジ・ヒザなど、組みも混ぜていたが、鶴屋の投げ以外のテイクダウンを切ったヴァンを相手に、そこから組み技・寝技で勝負する動きは見せなかった。

 ファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞した試合後、ロイヴァルはSNSを更新。今回の試合を「“サソリとカエルの話”」(※)と寓話に例えている。

※川を渡りたいサソリがカエルに運んでくれるよう頼む。カエルはサソリに刺されるのではないかと躊躇するが、サソリは川の真ん中で殺したら自分も溺れてしまうと言い、刺さないと約束する。カエルは運ぶことに同意するが、川の中ほどでサソリはカエルを刺し、二人とも溺れる。死の間際、カエルは「結末が分かっていながらなぜ刺したのか」とサソリに尋ねると、サソリは「申し訳ないが、仕方がなかったんだ。自分はサソリだから、その性質は変えられない」と答える。

「“サソリとカエルの話”一部の人は、本能が自己破壊的または有害な行動につながっても、制御不能な本能によって動かされる。僕が変われたらいいのに、僕はいつもこれだった。長い間僕を支えてくれた人たちに感謝します」と、記したロイヴァルは顔を腫らして、オクタゴンを後にしている。

 ロイヴァルを撃破したヴァンを見たパントージャは、「なにしろ相手は、23歳の若くてハングリー、しかもヴァンはガンガン出てくるタイプだ。俺にとっても現状、いちばん大きな挑戦となる。だから月曜からすぐ練習だ。もう相手は分かってるんだから、相手に向けての練習を始める」と、ジムに戻れば再びハングリーな挑戦者に戻るとコメント。

 コンテンダーとなったヴァンは、負傷でサスペンド(出場停止)期間が空くことを明かしている。10月10日に24歳になるミャンマーの“The Fearless”(恐れ知らず)は、引退したジョン・ジョーンズと並ぶ、最年少23歳での戴冠を望んでいる。

 以下は、試合後のヴァンとの一問一答だ。

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