2025年6月28日(日本時間29日)米国ネヴァダ州ラスベガスのT-モバイル・アリーナにて『UFC 317: Topuria vs. Oliveira 速報』(U-NEXT配信)が開催される。
メインイベントでは、イスラム・マハチェフがベルトを返上したUFC世界ライト級王座の決定戦(5分5R)として前フェザー級王者のイリア・トプリア(ジョージア)と元ライト級王者チャールズ・オリベイラ(ブラジル)が対戦。
また、コメインでは「UFC世界フライ級選手権試合」で、王者アレッシャンドレ・パントージャ(ブラジル)に、4位のカイ・カラ・フランス(ニュージーランド)が挑戦する5分5R戦が行われる。
▼フライ級 5分3Rブランドン・ロイヴァル(米国)1位 17勝7敗(UFC7勝3敗)125.5lbs/56.93kgジョシュア・ヴァン(ミャンマー)14位 14勝2敗(UFC7勝1敗)※UFC4連勝中 125.5lbs/56.93kg※マネル・ケイプ(6位) は負傷欠場
その試合の直前に行われるのが、同じフライ級(5分3R)で1位のブランドン・ロイヴァル(米国)と14位のジョシュア・ヴァン(ミャンマー)の試合だ。
当初、ロイヴァルと対戦予定だったマネル・ケイプが右足骨折により欠場。代わって6月7日の『UFC 316』で12位のブルーノ・シウバを3R TKOに下したばかりのヴァンが緊急参戦で連戦に挑む。
4連勝中のプロスペクト、ジョシュア・ヴァン戦を前に、U-NEXTと本誌がブランドン・ロイヴァルに訊いた。
ジョシュアの『Fury FC』のタイトル戦を現地で見たんだ
──お元気そうですね、調子はどうですか?「バッチリだよ。準備万端って感じ」
──今回のキャンプもコロラドで行ってきたのですよね。
「そう、デンバーでキャンプしたよ。チームメイトはコーリー・サンドヘイゲン、ジャスティン・ゲイジー、アレックス・ヘルナンデス、ルイス・ グルレーとか。いつもデンバーに拠点置いてやってるよ」
──垣根をこえたコロラドでの新たな練習環境も軌道に乗っているようですね。
「そう、1年くらい前にトレーニング方法を変更して、自分のジムを設立した。クロストレーニングもたくさんやっているし、コーリー・サンドヘイゲンとトレーニングする機会もあった。カーティス・ブレイズもいる。小さなグループでトレーニングするメリットがあるんだ。自分のニーズに合わせて調整できるし、例えばアレックスが試合がある時は、その人に合わせたトレーニングを組むことができる。そして、もし全員が同時に試合がある場合でも、“この時間は俺、この時間は彼”というように、それぞれに調整するんだ。
これは、俺がファイターとして成長するために具体的に何をするべきか、そして彼らがファイターとして成長するために具体的に何をするべきか、そしてそれらをどう融合させて成功させるか、チームと協力してそれらの小さなスキルを改善し、人々に試す必要があることなど、全てについて影響する。だから、本当に楽しいし、コロラド州の至る所で良い人間関係が築けていて、どのジムにも入って、他の選手たちから助言やサポートを得られるのが本当に嬉しいよ。コロラドやアメリカ全土の選手たちとも交流できている。コロラドには、人口比で最も優れたファイターがいるかもしれない。そんな環境にいるだけで本当にクールだ」
──練習環境も、MMAやフライ級を巡る状況も大きく変わったと思います。あなたとジョシュア・ヴァンは、2人ともプロMMAデビューは20歳ですが、当時のあなたは20代前半に試合間隔が空きましたね。それはどうしてですか?
「ああ、あの頃はフライ級でやってたんだけど、相手が全然見つからなかったんだよ。だからバンタム級とかフェザー級でも戦っていて、今でもその階級での負けが記録に残ってる」
──たしかに。今、ジョシュア・ヴァン選手はデビューから4年で、1位のあなたと戦える位置にいて──もちろん本人の努力の成果ですが──こうしてフライ級の環境が整ってきたのは、あなたたちが道を作ってきたからだと思います。
「マジでありがとう。そう言ってもらえるのは光栄だよ。ジョシュアはマジで危険な相手。すごいチャンスだし、きっと面白い試合になるはずだ。ジョシュアの『Fury FC』のタイトル戦を見たんだ(※2022年12月)。UFCと契約した時の試合を、実際に現地で観戦した。これらの新星や、俺が一緒に練習している選手たちを見て、この階級がどこまで進むのかを考えると──ボクシングファンとして、俺の好きな階級はライト級やスキルが高い階級で──それはMMAでも数年のうちに、彼らのような厄介なキッズたちが登場し、ジョシュア・ヴァンや平良達郎がゴールドメダルを獲得するように、これらの若い選手たちが、すでに大きなストライドを刻んでいることを知っている。彼らのキャリアがどのように展開していくのか、注目しているよ」
──あなたは2020年9月に、今大会でアレシャンドレ・パントージャに挑戦するカイ・カラ=フランスに一本勝ち(ギロチンチョーク)していますが、それまではフルタイムファイターではなかったと聞きました。非行少年を指導していたと。
「ああ、その頃は少年更生施設で働いていたんだ。若い子たちの支援のために、今も週1回、ボランティアをしてるよ。デンバーのどの学校にもアクセスできるパスを持ってて、ギャングから抜けた子たちとか、そういう環境の子と関わってる。あと自分のプログラムもやってて、夏休み明けの学校が始まるタイミング(※米国は9月から新学期)に文房具やリュック、ヘアカットなんかを提供するイベントをやってるよ。最低限のことでも整えてやれれば、人生ってちょっと楽になると思ってね」
──それは、ほんとうにその通りだと思います。さて、ロイヴァル選手にとっては、前戦は10月の平良達郎戦になります。あの試合で一つ聞きたいことがあって。平良選手のバックからのボディトライアングル(4の字ロック)をいったん正座してずらしていました。あれは想定して対策していたのですか。
「あれはパントージャ戦に向けて、バックエスケープをめっちゃ練習してたんだよ。達郎とは何度か練習したけど、あんなに強烈なボディトライアングルは試合で初めて食らった。あいつの圧力は本物。試合を通して俺自身の対応も進化したと思う。いい学びだったよ」
──なるほど。平良達郎選手も8月にアミル・アルバジ選手と試合を控えていますが、何かアドバイスがあれば。
「彼のスキルは本当に素晴らしい。アルバジにはいろんな形で勝てると思うし、どんどん成長してると思う。沖縄で頑張ってるようだし、また一緒に練習できたら嬉しいね」
──ジョシュア・ヴァン選手との試合ですが、対戦相手がマネル・ケイプ選手から変わったのは数週間前でした。それは直前に問題ではなかったですか。
「マネルの方が爆発力があって足使いも上手いから、むしろそっちに合わせてた方が大変だったかも。ジョシュアは前後の動きが中心だから、そこまで大きな切り替えじゃなかったよ。どっちにしろ、相手へのリスペクトは変わらないよ」
──そのジョシュア・ヴァン選手は、前に出るプレッシャーが武器で、あなたも同じ強味を持ちます。今回はどういう展開になりそうですか?
「ジョシュアは足を止めてくれる相手には強いけど、俺は絶対にそこに立ってない。左右に動いて、前に出てプレッシャーもかける。しかも、俺はキックもヒザもヒジも使うし、この階級じゃかなり背が高い。彼はいいファイターだけど、今回はヤツにはキツい展開になると思うよ」
──彼はコーディ・ダーデン戦や鶴屋怜戦でテイクダウンディフェンスの進化も見せましたが、グラップリングスキルについてはどう評価しますか。
「彼のテイクダウンディフェンスは超優秀さ。でも、寝技はまだ未知数な部分もある。けど、柔術の動きは見たことあるし、かなり良いよ。ユニークなポジションからも脱出できる。リスペクトしてる」
──おそらくヴァン選手からあなたをテイクダウンする動きは少ないかと思います。相手が組んで来ない、ということはMMAにおいて有利と感じますか?
「いや、正直どっちでもいいよ。俺も彼を寝かせるつもりはないし、殴り合う気満々だ。ボクシングが得意なら、俺も打ち合いに付き合うよ。“レッツ・ボックス”さ。必ず面白い試合になるはずだし、理想を言えば一方的に俺が勝って終わりたいね」
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もしこの試合に勝ってもタイトル戦が回ってこなかったら日本で──
──同じ大会でカイ・カラ・フランスとパントージャの試合もあります。カイカラは右オーバーハンドが強いですが、パントージャには左の蹴りもあります。簡単にはパワーハンドを出せない可能性もあるでしょうか。
「どっちもあるね。パントージャのボディキックで試合が終わるかもしれないし、カイ・カラフランスのパンチ一発でKOされる可能性もある。カイはテイクダウンディフェンスが最強クラスだから、実力じゃなくタイミングで勝負が決まるかも。パントージャはトップレベルのスキルを持ってるけど、もらう場面も多いからね」
──なるほど。ロイヴァル選手にとっては、このヴァン戦で勝利すれば、次はタイトルマッチを希望しますか?
「もちろん希望はある。ただパントージャが勝ったら俺に(挑戦権が)回ってくるか分かんないけど、カイが勝ったら、俺にチャンスが来る可能性は高いと思ってる。どっちにしても、諦めずに突き進むだけさ」
──日本でもあなたの試合を見る機会が来るかもしれませんね。
「もちろん行きたいね。ずっと行きたかった国だし、俺の好きな格闘家は日本出身が多いんだ。青木真也がいなかったら柔術をやっていなかったかもしれないし、今なら中谷潤人が一番好きなボクサーだね。彼にリスペクトを込めて、土曜の試合でも何か表現できたらいいなって思ってる」
──井上尚弥選手よりも中谷潤人選手なのは……。
「左構えで長身、距離の使い方やジャブも上手いし、自分に近いスタイルなんだよね。俺はあんなハードパンチ打てないけど(笑)。井上尚弥ももちろん好きだけど、自分に似てるのは中谷だと思う」
──たしかに。では、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
「いつも応援ありがとう。みんなのおかげでこのスポーツは最高に盛り上がってる。これからもっと日本のファンに俺の試合を楽しんでもらえるように頑張るよ。いつかほんとうに日本で、目の前で試合できたら嬉しいな」
──平良選手とのあのベストバウトを通して、ロイヴァル選手に興味を持っているファンも多いかと思います。
「マジで嬉しい。もしこの試合に勝ってもタイトル戦が回ってこなかったら、堀口恭司と日本で戦いたい。それが叶うなら最高の夢だね。まずは次の試合、日本のU-NEXTで俺の試合を観てくれよな!」
──ありがとうございました。日本のスタッフも現地に向かいます、また会いましょう。「こっちこそありがとう! 道中気をつけてな」
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歳を取ってからも頭をはっきりさせていたい
本誌インタビュー後に、会見が行われ、ロイヴァルはあらためて、ヴァンについてやタイトルマッチについて語っている。そして、ファイトスポーツにおける「脳震盪」についても発言しており、ここで紹介したい。
──MMA14勝2敗でUFC7勝1敗、UFC4連勝中のヴァンの戦績をどう見ていますか。
「彼の経験は追いついてきてる。俺は“相手は新人だ、初めてケージに入るんだ”なんて思わない。この男は試合を積み重ねてきた。彼は今年の最大のイベントで戦ってきた。そういうことだ。ジョシュア・ヴァンとマネル・ケイプを比較すると、彼らの最高の勝利は同じだ。彼らがもたらすものは少し似ている。ジョシュア・ヴァンはケイプをもっとクールな方法で倒すかもしれない。まだ戦うのが難しい相手がいる。まだ俺から全てを奪おうとする若者がいる。最も危険な人間は、失うものが何もない人間だ。彼は失うものが何もない。全てを得ようとしている。俺は全てを失う可能性がある。だから、どんな状況でも怖いんだ。これは俺のUFCでの初めての経験だと思う。トップ10外と戦うのは初めてなんだ」
──今回のオッズが再びアンダードッグとしてスタートしたことに驚きはありましたか。
「でもすぐに逆転したよね? 俺はまたアンダードッグに戻ったけど、全然驚いてないよ。正直、俺はUFCで最も軽視されているファイターだと思う。マット・シュネルに対してはフェイバリットだったけど、俺のキャリア全体がそうだった。LFAでも常にアンダードッグだった。本当に何も変わらないけど、ファンや誰かが何かしら理由をつけて軽視している感じがする。でも、それは関係ない。試合に勝つたびに、“ああ、こうなった”とか“モレノが過剰反応してる”とか言われる。俺の方が彼より多くの試合を戦ってきたのに。どうでもいい。薔薇をくれないなら、そのクソを受け入れるだけだ」
──王者パントージャとの再戦を得るために声を挙げることが必要だと思っていた?
「ここにいるのは次戦がタイトルマッチの声明を出すためで、お金を稼ぐためだ。このキャリアにおいて、ボーナスを得るため、ここからより多くのお金を稼ぐためさ。ジョシュア・ヴァンも同じだ。この試合はハイライトシーンだらけになると思う」
──この試合に勝利し、もし王座戦が実現する機会を得たら、どう展開するつもりですか。
「俺は自信がある、本当に。パントージャを倒せると思う。俺がそれを成し遂げる者になると思う。あの試合から多くの調整が可能で、多くのことを学び、やるべきことが多く、次回の対戦で彼を倒す方法のアイデアがあると感じている。それが彼を倒す鍵になると思う」──メインイベントはどう予想しますか。
「インイベント(イリア・トプリアvs.チャールズ・オリベイラ)の予想は、当然ながら大きなタイトルマッチで、本当にボーナスが奪われないことを願っている(笑)。本当に興奮する試合だよ。自分より強い相手を予想するのは嫌なので、頭から離しておくけど、心の中では、オリベイラが人生の残りの試合を全て勝ち、引退しないことを願っている。オリベイラを愛しているし、みんなもそうだろうけど、どうなるかは分からないね」
──ところで、NHLのネイサン・マッキノンに会ったそうですね。土曜日の試合に来るとも。
「ホッケーは地球上で一番好きなスポーツだから、本当にクールだった。史上最高の選手の一人を見られるのは。そんなハイレベルな思考やマインドを持つ人、特別な個人と出会えるのは本当にクールだ。そんな人と肩を並べるだけでもクールだよ。ボクシングでもそうさ。テレンス・クロフォードのそばを通りかかった時、興奮しないように努めたんだ」
──あなたはボクサーから学び、試合前に彼らの動きを真似ることが好きだと教えてくれました。今回のジョシュア・ヴァン戦に向けて、どのボクサーを観ていましたか?
「ジョシュア・ヴァン戦に向けては、過去数週間ほぼ同じ。ただ、中谷潤人から多くのことを盗んできた。サウスポー構えのボクサーはたくさんいるけど、最近、日本のボクシングを深く掘り下げていて、中谷潤人は、リーチが長いボクサーで、彼はレンジを活かして、その利点を最大限に活用するから、自分が活用できる人物だと思ったんだ。俺のカットマンは彼のコーチでもあるルディ(エルナンデス)だから、その点も嬉しかったよ」
──最後に、あなたは脳震盪についてかなりオープンに話していましたが、このスポーツで誰も話したがらない“黒い秘密”みたいなものですよね。なぜそのように話すことが重要だったのか、そしてひどい脳震盪から回復する過程はどうだったのか教えてください。
「これは常に真剣に受け止めてきた問題なんだ。16歳からスパーリングを続けてきたけど、昔は『中世の時代』と呼んでいた。つまり、人々がノックアウトされるのを見て、次の週にスパーリングに戻るような状況だった。何が正しいのか分からないけど、少なくともそんな状況は間違っている。だから、少しでも打たれたらスパーリングを休むようにしていた。頭には常に超慎重だった。格闘技って、みんな怪我をするものだよ。何人の格闘家がこのレベルまでたどり着けるのか、わかるだろ? みんな少し興奮してたり、殴られたり、どこかで何らかの形で怪我してるんだ。 でも、脳震盪はみんな隠す。俺にとってこれは最大の問題だ。手首を折って戦ったこともある。足首を折って戦ったこともある。ブーツを脱いで、その週に戦ったこともある。わかるだろ? 俺はそれをオープンにしていた。つまり、タイトルマッチのチャンスを手に入れるために、ブーツを履いて松葉杖で歩いていた。足が折れていたのにその試合に勝った。キャリアの最初期から、肩の関節唇が裂けていた。グラップリングやレスリングはせず、ただ試合に間に合うように祈っていた。そして連続して、ジョシュア・ヴァンが今やっているように、キャリアをブーストして目指す場所に行くために試合を受けてきた。
でも、これらのことは乗り越えられるけど、頭の中は別だ。戻れないものがある。だから俺にとって、脳を揺らして時間を取ることは非常に重要だ。俺のチームは本当に先を見据えていた。神経科医と協力していた。脳震盪を受ける前、ベースラインの検査を全て済ませて何が変化したのか、何が起こっているのかを確認していた。コロラドの神経科医は本当に素晴らしい。3人が定期的に協力し合い、毎日サポートしてもらっている。彼ら全員に感謝している。そして、それは俺の日常のルーティンの一部にもした。自分が吃音にならないように。すでに半分は吃音気味に話しているから。新しい人を見ると緊張するんだ。歳を取って吃音で困りたくない。頭をはっきりさせていたい。UFCは世界で一番好きなもので、ここにいるのは素晴らしいけど、この後の人生もある。家族が成長するのを、姪が成長するのを見たいんだ。これらの全てを見守りたい。そして、吃ったり震えたり、そんな人間にはなりたくない」