勝って力を証明して、世界レベルでありたかった
このがぶりからのバックコントロールは、4点ヒザもあるRIZINルールでの扇久保の真骨頂だった。
相手の立ち際をがぶり、引き落とし、バックテイクから背中に乗っても落とされないように脇下でクラッチ、ネルソンで引き込み、シングルバックから手前の足を内側からからめて、相手が腰をずらしてきても上かバックを取り続ける。決して手足が長くない扇久保流のMMAチェーンレスリングに井上はハマってていた。
陣営によれば、2Rに左の薬指が外れた井上は、ゴング後に自ら「入れ直して」3Rに向かっている。
最終回。井上の間合いに入っていったのは扇久保。ジャブ、カーフを受けながらも、テイクダウンプレッシャーが生きており、片ヒザを着いたシングルレッグから、長い長いMMAレスリングを仕掛けている。シングルレッグから四つ組み、少し離れてもすぐにダブルレッグ、尻下でのクラッチを剥がされてもワンツーで前に出て、しつこくダブルレッグ。さらに脇下を潜ってボディロックから、ついに後方にテイクダウンを決めた。
この地味ながら熱の入る攻防に、場内から大きな大きな拍手が送られている。
ここでもバックを奪った扇久保。バックコントロールで終わらずチョークを狙ったところで、ゴング。判定は2R以降を制した扇久保の判定勝利となった。
「まあ、そうくるだろうなぁと思ってたのが来た……」と想定していた組みで削られた井上。今回のGPに向け、扇久保同様に肋骨を傷め、スパーリングが出来ない時期もあったが、後半に失速したことについては、「いや、まあ、全然練習不足だなという風に思います」と、言い訳をすることなく言葉少なに語った。
井上にとっては、またも過去の敗戦と同じく「寝技巧者」であることでグラウンドの展開が多くなるも序盤のチャンスを極め切れず。寝技につきあったというよりもそこに引きずり込んだ扇久保につきあわされる形となった。
試合後、「ずっと勝ってきて、ここで負けてしまったんで、もう、全然、ほんとうにいちから練習を見直して頑張らないといけないなと思います」と、淡々と語った井上は、バンタム級トーナメントについて、「やっぱり自分の力を証明して勝って、ほんとうに世界に行けるぐらいのレベルでありたかったんですけど……負けちゃったんで、また頑張るだけです」と前を向いた。
RIZINバンタム級ジャパンGPベスト4が、井上直樹の現在地だ。
大晦日の試合後、「セコンドの方々、応援してくれてるスポンサー様やファンの方々に情けない姿を見せてしまってすみません。悔しいですが自分の方が弱くて扇久保選手が強かったそれだけです、またいちから頑張るので成長する姿を見届けて貰えたらと思います」とツイートし、年明けに「過去は何も変わらないのでこれからを生きていきたいと思います。今年もよろしくお願い致します」と綴った。
24歳、GP最年少で大晦日に進んだ井上は、2022年、「未来を変えるために」北米での練習も視野に入れる。