仕事をしている皆さんと一緒です(扇久保)
朝倉海が自ら振った左でバランスを崩して倒れ、最後のゴングが鳴らされたとき、扇久保は勝利を確信したという。
6カ月という短いスパンだったバンタム級GP。トーナメント戦は、試合の予定が立てられるものの、怪我があったとしても延期は困難だ。短い期間での連戦は、減量による内臓へのダメージも危惧される。また、ファイナルの1日2試合は、「イコールコンディション」という競技の前提を満たさない。大きなダメージの残る負傷は、結果的にトップ選手の次戦のスケジュールにも影響を及ぼす。
海外にもMMAのワンデートーナメント自体はあるが、アスレチックコミッション管轄下では、1日の総ラウンド数が限定されていたり、各ラウンドの試合時間が限定されることが多いのが現状だ。また1Rの試合時間が短縮されたり、1Rで試合の勝敗をつけることは、MMAの醍醐味が失われる可能性がある。
ファイターはGPの過酷さと、得るものを天秤にかけて、覚悟を決めて試合に向かっていた。
もっとも長い一日を勝ち抜いた優勝者は、「もう2度とワンデーの2試合はやらない。精神的にも肉体的にも疲弊した。鼻もおかしいし頭も痛いし、ちょっと休みたい」と苦笑しながらも、特別な一日を「みんなと一緒」だと評した。
「みんなと一緒ですよと。皆さんにとっての仕事が、僕の練習や試合ですけど、今日も行きたくないなと思うし、会社務めの人のプレゼンで緊張するな、嫌だなと思うように、僕も頑張ってやってる、一緒ですよ、同じなんです」
日々を一生懸命、生きること。ほんとうに望むことを諦めないこと。
「あの日は世界で一番、運が良かった。去年の8月(朝倉海に1R TKO負け)はマジで消えてなくなりたかったけど、あそこで格闘技を辞めようと思ったけど、諦めなくて良かった。こういう風になるとは1ミリも想像できなかったけど、目の前のことを一生懸命やっていれば、結果は出るんだと。絶望だったけど、最後は喜びに変えられて良かったと思います。人生って面白い。諦めずに続けて行けばいいことあるんだなって。煉獄さんも『悲しんでいても時間は止まってくれない。心を燃やせ』と言っていますし」と、最後は大きな笑顔を見せている。
勝利者インタビューでYouTubeの「おぎちゃんねる」をアピールしなかったことを後悔している扇久保だが、「大晦日、生放送で勝ってますから、普通に7万人くらいは……」と期待。しかし、7日現在、チャンネル登録者数は、2万9千人。34歳にしてまだまだ伸びしろを持つGP王者は、2022年、世界へのリベンジも見据えている。