MMA
レポート

【UFC】引退試合でアンデウソン・シウバがTKO負け「すべての瞬間が人生の最高の瞬間だった」

2020/11/01 11:11
【UFC】引退試合でアンデウソン・シウバがTKO負け「すべての瞬間が人生の最高の瞬間だった」

(C)Jeff Bottari/Zuffa LLC via Getty Images

 2020年10月31日(日本時間11月1日)、米国ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて、「UFC Fight Night: Hall vs. Silva」が行われ、ミドル級ランキング10位のユライア・ホール(ジャアイカ)を相手に、元UFC世界ミドル級王者のアンデウソン・シウバ(ブラジル)が引退試合に臨んだ。

“ザ・スパイダー”の異名を持つアンデウソンは、長い手足を活かしたムエタイベースのスピーディーな打撃、圧倒的な動体視力と反応速度を誇る卓越したディフェンステクニックを武器に、長期に渡りUFC世界ミドル級王者として君臨し、MMAにおけるパウンド・フォー・パウンドの1人と称されてきたレジェンド。

 UFC全階級を通じて王座の在位期間が史上最長(2457日間)であり、ジョン・ジョーンズと並ぶ最多連勝記録(16連勝)も保持する。王座最多防衛記録でも初代UFC世界フライ級王者のデメトリアス・ジョンソンに次ぐ歴代2位の記録(10回)を有し、UFCミドル級最多KO記録(8回)、UFCタイトルマッチにおける最多KO記録(7回)、UFCミドル級最多KO奪取記録(13回)なども保持している。

 近年では、2017年2月にデレク・ブランソンに判定勝利も、2019年2月にイスラエル・アデサニヤと華麗な打撃戦を展開も判定負け、5月にジャレッド・キャノニアのローキックに敗れて2連敗。ランキングから外れていた。

 対する極真空手出身のユライア・ホールは、2012年の「The Ultimate Fighter 17」準優勝者。「アンデウソンを継ぐ者」として期待をかけられていた。近年では、2018年7月にパウロ・コスタに敗れたものの、2018年にビーヴォン・ルイスをTKO、2019年9月にアントニオ・カルロス・ジュニアにスプリット判定勝ちで2連勝中。ジャカレ、ヨエル・ロメロとの試合がキャンセルになり、約1年ぶりの試合となる。

▼ミドル級 5分5R
〇ユライア・ホール(ジャマイカ)
[4R 1分24秒 TKO]
×アンデウソン・シウバ(ブラジル)

 マット中央で両手を腰に置きレフェリーの説明を受け、両手を合わせたアンデウソン。ユライアとフグローブタッチする。

 1R、ともにサウスポー構えから。ゆっくり作るアンデウソンにユライアはオーソドックス構えに。ユライアの右ローにアンデウソンも左ローを返す。右ハイを打つユライア。アンデウソンは詰めて右の関節蹴り。右ジャブのダブルから左、さらに追っていくが、ガードが低いためユライアのジャブももらう。

 両手を回す木食拳から右のバックスピンキックを低いふくらはぎに打つアンデウソン。さらにワンツースリー、右前蹴りと攻めるが、ユライアも右を返す。

 2R、喧嘩四つの前手争い。右ジャブを上下に繰り出すアンデウソン。サイドキックも。さらに両手を回してフェイント。アンデウソンのジャブに左ジャブを返す。バックスピンキックはアンデウソンも浅い。片足を上げながら近づき、左右の手を回して牽制する。

 右のカーフキックはアンデウソン。ユライアは手数に欠ける。左ジャブをかわすアンデウソン。ユライアもオーソドックス構えから右後ろ蹴りを見せる。

 3R、近い距離にするユライア。細かくスイッチし左を放つ。さらに左ミドルをガード上に。ユライアも右ハイ、前手争いから左前蹴りで詰めるのはアンデウソン。顔面への攻撃が多いのはアンデウソン。ボディキックはユライアの数値。互いにバックスピンキック悟、アンデウソンは左の踵落としも。右の刺し合いはアンデウソン!

 アンデウソンの両手の動きを同じく両手でさばくユライア。左前蹴りから頭を下げて左を振るアンデウソンに、ユライアは右フック! がくりと腰を落としダウンするアンデウソン。ユライアはパウンド。アンデウソンは右足にしがみつきブザーに救われる。

 4R、互いに右の蹴りから左ハイはアンデウソン。ワンツーで中に入るが、両フックで中央が空く。そこに右ストレートを突くユライア! 後方にダウンするアンデウソン。足を効かせようとするアンデウソンだが、中腰のユライアはパウンド、いったん体を離し、パウンドで飛び込むとレフェリーが間に入った。ハーブ・ディーンレフェリーの足にしがみつくアンデウソン。

 TKO勝利に正座して後ろを向く極真空手出身のユライア。顔面を腫らしたアンデウソンが落ち着きマット座り込むと、近づきハグするユライアは涙を流しながら「あなたはずっとグレーテストだよ」と語かけ、アンデウソンの耳元への返答にうなずいて、右手でがっちり握手をかわした。

「TKO」コールに再びマット上で正座したアンデウソン。ユライアも正座し互いに礼。再び固くハグすると、最後はともにオクタゴンで写真に収まり、アンデウソンはユライアの右手を高々と挙げた。



 マット上でユライアは「いろんな感情が渦巻いた。アンデウソンはレジェンドで、この試合の相手を務めて光栄だ」と敬意を込めて語った。

 また、2016年2月に対戦しているマイケル・ビスピンのインタビューを受けたアンデウソンは、「知っているだろう、ファイトイズファイトさ。いつも勝負は50/50で、今日のユライアはベストだった。ベストを尽くして勝ちに行ったんだ。今夜もUFCで最後の試合をみんなに見せることが出来て楽しんだよ」と試合を振り返った。

 続けて、「最後のMMAになるのか」と問われると、「分からない。まずは家に帰り、チームのみんなに会うよ。気持ちを言葉にするのは難しい。引退試合で傷ついているし、今後についてはどうなるか見てみよう。時間というのは難しい。ずっと自分の時代だと思った。今日はUFCでの僕の最後の試合の日で、僕にとって大事な日だった」と語った。

 さらに「どんな試合が印象に残る?」と問われ、「MMAは僕にとって空気と同じようなもの。すべての瞬間が人生の最高の瞬間だ。君と僕との間にもあるだろう? すべての人生をこれに賭けてきたし、戦うことを楽しんできた。幸せだったよ」とオクタゴンでの戦いを表した。

 また、勝者のユライア・ホールは試合後、公式インタビューで、マット上で涙を流したことについて、「当事者だと説明するのが難しい。でも、この瞬間を供給できたこと、これが彼にとって最後の試合になると分かっていたし、彼は自分がどれだけ尊敬しているかも分かってくれている。感情を抑えきれなかった。この瞬間を共有できたことが嬉しい。本当にそれが大事なことなんだ。お互いに尊敬し合っている。でも、それを2人ともあまり見せようとしてこなかった。だけど、お互いにとても尊敬し合っているんだ。それとこれとは別に考えないといけなかったけどね。彼のことを悪く言う必要なんて一切ない。彼だって、俺が彼を見て育ってきたこと、彼のキャリアをほとんど追いかけてきたことを分かってくれている。本当に誇りに思う」と語った。

 また、その後のマット上でのアンデウソンとの会話について、「UFCのことを考えれば、アンデウソン・シウバのことを考えずにはいられない。素晴らしい王者はたくさんいるけど、彼がやってきたこと、彼がそれをどうやってきたか。彼のことも彼の家族のことも心から尊敬している。彼の子どもたちが今回の試合の見届人にならないといけなかったことは悲しいけど、でもこれが仕事だ。アンデウソンは僕に『凄かったよ。俺は君を誇りに思っている。本当によくやったし、泣くな。悪く思わなくていい。君はきっとチャンピオンになるさ』と言ってくれたんだ」と明かした。

 なお、試合後会見でダナ・ホワイトUFC代表は、「アンデウソンは試合後にインタビューを受けるために立つことすらできなかった。(自ら椅子を引き寄せて)座ってインタビューを受けていた。私は彼に試合をさせるべきじゃなかった。このスポーツのレジェンドでUFCのレジェンドに対しやるべきではないことをした。こうなるだろうと思っていたし、それが証明された以上、アンデウソン・シウバは2度と試合をすべきじゃない。彼がやることを邪魔するつもりは無いが、契約はあと1試合残っていても、ここでは試合はさせない。もう引退する時間だ。彼が家族のもとに帰った時にも同じことを言ってほしい」と、あと1試合の契約が残っていることを明かしながらも、それを契約に基づいた形でキャンセルすることを語っている。

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.335
2024年11月22日発売
年末年始の主役たちを特集。UFC世界王座に挑む朝倉海、パントージャ独占インタビュー、大晦日・鈴木千裕vs.クレベル、井上直樹、久保優太。武尊、KANA。「武の世界」でプロハースカ、石井慧も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア