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2025年8月9日(日本時間10日)米国ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Dolidze vs. Hernandez』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)が開催され、三角絞めを持ち上げられてのスラムによりKO負けを喫した風間敏臣が、試合後すぐに待機していた救急車に搬送されCT検査。「異常無し」と診断されたことがUFCから報告された。
風間敏臣の容体に関して、病院で受けたCT検査の結果、頭部・顔面・首、いずれも異常は確認されなかったとのこと。
— UFC Japan (@ufc_jp) August 10, 2025
オクタゴン上で医療スタッフによってあらゆる予防措置が講じられたあと、病院に搬送されましたが、まもなく病院をあとにする予定です。
素早い回復を願っております。#UFCVegas109 pic.twitter.com/BocEeyxCl6
この項では、日本MMA界随一の柔術家である風間の足関節を含むサブミッションのトライがなぜ極まらなかったのか。その後のスラムKO後のUFCの迅速な対応がなぜ可能だったのかを、検証したい。
仕掛けは悪くなかった
この日のバンタム級では、風間敏臣(日本)が、エライジャ・スミス(米国)と対戦。前週の中村倫也、平良達郎のフィニッシュ勝利に続く、UFC日本人選手の「8月決戦」の3人目。翌週の8月17日には朝倉海、22日に鶴屋怜の試合も控えるなか、風間はUFC APEXのケージに立った。
風間は、2021年の『ROAD TO UFC』で中村倫也と決勝を争い、準優勝でUFCと契約。23年8月のUFCデビュー戦は、ギャレット・アームフィールドに1R TKO負けも、24年8月のハラランボス・グリゴリオウに2R、逆転の三角絞めでオクタゴン初勝利を掴んでいる。Me, Weに移籍して初の試合。28歳。
レスリングベースのスミスはMMA8勝1敗。2024年9月の『Contender Series 2024: Week 6』で欠場選手の代役として緊急出場。豪州XFC王者で当時無敗のアーロン・タウ(※RTU205でリオ・ティルトに1R KO勝ち)にアナコンダチョークを仕掛け、オーソからの右を当てるなどタフな試合を制して判定勝ち。
25年2月の前戦では、RIZINで元谷友貴に判定勝ちしているヴィンス・モラレスと対戦し、モラレスのダースやペルヴィアン・ネクタイ、終了間際のRNCを凌ぎ、ジャブ&ロー、右アッパーを効かせて判定勝ち。2012年、17年の『TUF』に出場した父・ギルバート・スミスが果たせなかったUFC初勝利を挙げている。MMA8勝のうち4KO・1一本勝ちをマークする22歳。
風間のセコンドは中田大貴、良太郎、柔術家の兄の風間大五郎。エライジャのセコンドには父ギルバート・スミスがついた。
試合は、風間の積極性と変化が見える展開だった。
ともにオーソドックス構えから、スミスの左ジャブのダブルにブロッキングとステップでガード。頭の位置を動かして角度を変えての入り。そのため、スミスの跳びヒザもクリーンヒットさせずに胴をクラッチしてのテイクダウンに成功。
そのまま浴びせ倒してのニアマウントを奪う風間に、スミスはすぐに亀になって立ち上がりへ。その際でバックを奪いに行く風間だが、両足はフックできず。
スミスはケージ際で腰を上げて背後の風間を前に落とすと、下になった風間は、スミスの右足を左手で手繰り、トラックポジションへ。しかし、その顔を上から殴り、ヒジを落とすスミス。
風間は両手を胴にクラッチし、頭を胸につけて殴るスペースを減らすと、両足をスミスの両ヒザ裏につけてバタフライガードから、左足をスミスの左鼠径部に差し込む形に移行。
そして、胴クラッチを解いて再び左腕で下から右足を手繰って崩しに。この瞬間、顔を曝け出すことになるが、スミスの右パウンドの瞬間に右足を跳ね上げてバランスを崩して被弾を避けると、相手の足を広げさせていた右足を解除して内がけで右足にからみ、股間に差し込み、内側から鼠径部に当てて、左足はスミスの左ヒザ裏に当てて固定。
左肩に挟み両手で掴んでいた右足を、自身の右脇に抱え直して内ヒールフックへ! 右足は左ヒザ裏で三角に組んで相手のヒザで固定することに成功。
ここでスミスは右手でケージを一瞬掴みながら(※反則)左手で鉄槌。被弾しながらもヒールを絞って、両足で煽って尻もちを着かせた風間。ここが極めの最大のチャンスだったが、身長より5cm長い180cmのリーチを持つスミスは、右のパウンドを届かせると、その瞬間に右ヒザを曲げて右踵を外すと、上からパウンド。
ハーフから半身になって潜ってスミスの腹の下に頭を隠そうとする風間だが、それを剥がしたスミスに、風間は再び今度は正面からの50/50から足関節狙いに。ヒザを曲げ、いったん後ろを向いてから右回りで正対して足を抜いたスミスに、風間は再びバタフライガード。
上のスミスを右でアンダーフック、左で背中越しにクラッチしてスミスを引きつけると、スミスの左腕を右側頭部と肩で固定して、チョイバー、ストレートアームバーに。スミスが左手を引いて右手とクラッチすると、風間は右のパウンドを被弾しながらも、ディープハーフからバタフライガードに移行。
そこから右足を鼠径部に置いた風間は、スミスの左のパウンドの瞬間に右足で左手を越えて左足とロック──三角絞めを狙った。この段階ではまだ左ヒザ裏では組めていない四角の形。
エライジャ・スミスがスラムを決めて1ラウンドフィニッシュ💥
— UFC Japan (@ufc_jp) August 9, 2025
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頭後ろで両足を組まれたスミスはすぐに迷うことなく風間を高々と肩口まで持ち上げ、その頂点で左手を風間のアゴ下に置いて受け身を取り辛く固定してから、マットに叩きつけた。風間は失神。そこにスミスは2発のパウンドを中腰で叩き入れて、レフェリーが間に入った。
1R4分10秒、スラムによるKO。
試合前の本誌のインタビューに、「相手を持ち上げてぶん投げる、あの感じが大好きなんだ。観客も盛り上がるし、俺はそのエネルギーを受けてファイトするタイプだからね。ダブルレッグはマジで大好き。誰かを持ち上げてスラムするのが快感なんだ」と語っていたスミスは、前戦で風間が極めた三角絞めについても「彼のガードからのサブミッションは上手いと思うよ。でも、トップポジションからの攻めはあまり見たことないし、正直言って、彼が上になる展開は考えてない。こっちはしっかり準備してきたし、俺がトップにいる以上、風間とグラウンドに行くのは全然怖くないよ」と語っていた。
また、風間も「受けから始まるものって、結局受けで終わっちゃう部分が多いと思うので、それを待つのではなく、やっぱり自分でどんどん展開を作っていきたい」と語っていた通り、相手のテイクダウンにカウンターで引き込むのではなく、自分から攻めて、有利なポジションからの展開を望んでいた。それが最初のテイクダウンでトップからのバックへの動きに現れていた。
ではなぜ、風間から攻める流れのサブミッションはチャンスを迎えながらもフィニュシュに至らなかったのか。「たら・れば」を承知で、際の勝負どころを検証したい。




