なぜ内ヒールは極まらなかったのか
冒頭の跳びヒザをキャッチしてのマウントからバックまでの流れは風間も身についた動きながら、足を巻くことができず、首を狙いに行った際で背後から両脇を差すダブルアンダーでのバックキープも間に合わなかった。それをさせなかったスミスは素早く腰を上げて風間を前に落としている。
そこからの展開も風間は作り込んでいた。
前に落ちながらの足関節のセットはフィニュシュに近づく動きだったと、元同門の高橋“SUBMISSION”雄己はいう。
グラップラーの高橋は、MMAでもプロ修斗に参戦し、『EBI』ではグラウンド掌底ありのコンバット柔術ルールのバンタム級16人制トーナメントで優勝を果たしたばかりだ。
高橋は、「相手の足にしがみつくような状態から、自身の右足を相手の股下に入れていく所謂“マトリックス”の形で仕掛けていきました。敏臣さんはこの状態から相手の踵を自分の右脇の下に抱えにいきます。こうする事で、マトリックスから50/50を裏側から仕掛ける“バックサイド50/50”という足関節を狙うためのポジションに移行出来ます。
ここから狙う足関節は内ヒールが最も効果的です。補足すると、内ヒールというのは、ヒザが自分の股間で固定可能な状態から、相手の踵をキャッチして、ヒザの可動域以上に踵を捻る事によって極まる技です。
敏臣さんもここから内ヒールを狙いますが、この後スミス選手がターンして敏臣さんの方に向き直った事により、バックサイド50/50の状態から、一般的な50/50の体勢になりました。
この50/50も、バックサイド50/50と同様に内ヒールを狙えるポジションになります。敏臣さんも、相手の踵を脇に抱えて内ヒールのアタックを仕掛け続けています。この時点において、50/50のポジションは内ヒールが極まるために十分な深さにありました」と、そのセットアップが有効だったと解説する。
しかし、ヒールフックは極まらなかった。高橋はこのときのグリップに注目する。
「外から見た印象では、踵のキャッチが不十分であったように思えました。自分はいつもサブミッション塾などで指導する際に、ヒールが極まる条件について、
・ヒザが固定出来ている事
・踵がキャッチ出来ている事
と伝えています。上記2点の『条件を満たしているのに、上手くヒールが極まらない』というご相談を会員さんからまま受けるのですが、この時の原因は踵のキャッチの仕方が上手くいってない場合が多いです。
今回はヒジの内側のあたりでキャッチしてしまっていたのですが、これだと固定が甘くなってしまう。そのため、相手の足を脇で挟んでいる側の手首を90°に立てて、立てた手首の内側に踵を引っ掛けるようにフックを作ります。
その上で逆の手とクラッチを作っていくのですが、この時のクラッチは親指を出さずに手のひら同士を合わせるゲーブルグリップが望ましいです。そのゲーブルグリップの向きですが、今回のように仰向けでヒールを仕掛ける場合、先ほど言ったように必ず踵は手首の内側で引っ掛ける必要があるので、踵を引っ掛けてある側の手の親指が天井を向くようにします」と、極めの瞬間を語った。
同時に「観ていた人が“極まった!?”と思ったあのシーンで逃げられてしまった原因については、概ね上記が考えられますが、試合はメンタルやフィジカル、コンディションなど様々な要因がパフォーマンスに影響するものです」と、ケージでパウンドがあり、オープンフィンガーグローブも着用するなかでグリップする難しさにも言及している。
そして「結果は本人の納得いくものではなかったかも知れませんが、日本を代表してUFCの舞台で勇敢に戦う姿を僕達に見せてくれた敏臣さんには拍手を送りたいです」と、攻め続けるなかで下になっても展開を作った風間のトライを称えた。





