2025年8月2日(日本時間3日)、米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Taira vs. Park』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)が開催され、プレリミナリ最終試合のバンタム級で、中村倫也(ATT)が、ネイサン・フレッチャー(英国)に1R、左三日月蹴りを効かせて左ストレートでダウンを奪い、パウンドで62秒、TKO勝ち。2025年1月のムイン・ガフロフ戦でのキャリア初黒星から再起し、MMA戦績を10勝1敗とした。
試合後の会見で中村は敗戦後、自分を見つめ直して米国フロリダのアメリカントップチームに長期滞在で試合まで作るように決めたこと、チームメイトでセコンドについた堀口恭司のアドバイスが自身を落ち着かせ、フィニュシュに繋がったことなどを語った。
また、試合後の堀口恭司のYouTubeでは、試合前の中村を「脱力」させた堀口の言葉、チームATTとしての取り組みなどが語られている。
中村は、「前回は怪我して、やることやれてない自分がいて。“こんなんでちゃんと戦えんのかな”っていう“毒”を取りきれないままそこに上がっちゃった。判定勝ちが続いて最初、KO勝ち狙いすぎてポカしたりした」と反省しつつ、その気負いは実は実は今回もあったという。
「今回もちょっとはあったんですよ。“やっぱこれ2連敗したらリリースとか見えてきちゃうよな”とか(心配)もあったんですけど、メンタルコーチングの方が……」と、堀口が試合前に、中村の緊張をほぐしたことを明かした。
(C)Zuffa LLC/UFC
堀口は、「俺、メンタルコーチングじゃねえよ!」と笑いながらも、「プレッシャーなく感じたよね? だって俺がもうずっと“関係ねえよ! そんなの、楽しんでいこうぜ!”みたいな。“やったろうぜ”みたいな。“それで負ける時はしょうがねえ。俺らやることやって来ただろー!”って」と中村が負のスパイラルになると鼓舞。
「それをもう飯を食いながらずっと言ってもらって」という中村に、堀口は「そう、ずっと。もう洗脳だから(笑)」と、そのポジティブ思考が普段の練習から来ていることを語った。
「それが“自分を信じる”ってことだから。俺もずっと言ってたもん。試合前もたまに弱気な顔してたんだよ。俺がちょっと近く行って“行くぞ! 楽しめよ!”って何回も言い聞きかせた。やっぱりもともとの練習で培ったものがあるから、試合前にメンタルとその動きの微調整ができる。(最後の調整が効くのは)もう練習ありきのものだから、だから自分で練習してきたものが出た、っていうだけで、本当は全部、直結してる。動きもそう」と、堀口はATTでの練習が、強いメンタルと動きの調整を可能にしているとした。
(C)Zuffa LLC/UFC
それが、フィニュシュの三日月蹴りにも繋がっている。
試合後は「たまたま足を上げただけ」と語っていた中村だが、その無意識下の動きは、直前の堀口によるアドバイスが生きていたと中村は明かす。
練習では、「用意してたものはまだまだ別にいっぱいあった中で、それを引き出すための三日月蹴り、ぐらいなところだった」という中村に、堀口は「まあ、でもあれよく使ってるよね。練習で俺に超使ってるけど、全部外されて自信を無くしてたらしい」と振り返り。
堀口には「1回も当たったことなかった」と吐露する三日月蹴りだが、中村は試合前に「力抜いてもっと足でフェイントかけたりっていうのを、裏で何回も恭司さんに修正してもらって、すごい力抜けてリングに入ったんで、スピードの差を結構感じた」と、バックステージでの脱力と、距離の確認、堀口との普段の打ち込みが、フレッチャー戦を優位に進めることになったという。
「距離を試合の前に言った。“ここに入ったら危ないよ。ここに入ったら大丈夫だよ”っていうのを言ったの。それが自分の中で分かったんじゃない?」という堀口に、中村は「たしかに。『この距離でローは蹴るな』とか。僕が試合前なんで(堀口は)当てないようにスピードを70%ぐらいにセーブしてるんですけど、そっちの方が全然(フレッチャーより)早い。試合の時は、相手の攻撃が来た時に“このスピード?”みたいな」と、堀口の打ち込みを体感していたことで、相手の動きを遅く感じたという。
ほかに堀口のYouTubeでは、同じくセコンドについたマイク・ブラウンとのやりとりや、本格的なATT体制での取り組みなども語られており、必見の内容となっている。
会見では、今後もATTを拠点に練習を続けること。そのためにビザの再発行が必要であることなども語った中村。会見での一問一答は以下の通りだ。
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できるだけ早くフロリダに戻ってきたい
(C)Zuffa LLC/UFC
──TKO勝ちで試合を終えた率直な感想を。
「本当に幸せです。ただ、幸せと驚きが半分ずつ。なぜなら、この試合はもっとスクランブルゲームやグラップリングゲームになると思っていてその準備をしていたから。でも、そうならなかったことに少し驚いています」──フィニュシュの三日月蹴りは?
「レバーショットでのノックアウトは僕の初めての経験だった。彼の腹部が少し開いていたので、手を上げて彼をブロックしようとしたけど、彼は私に近づこうとしていた。そこで突いた。タイミングが良かっただけです」
──1月の試合以来、初めての敗北をどう受け止めましたか。
「自分に問いかけていました。“人生で何をするのか? 何を実現するのか?”と。そして、“UFCチャンピオンになりたいんだ”と。それが自分をフロリダに移住させ、アメリカン・トップ・チームで試すことを決めさせました。そうしてATTでトレーニングを始めました。ジムで最も高いレベルのトレーニングを受けた。自信を取り戻すために」
──なぜ1月の試合でレスリングをしなかったのでしょう。
「実際、自分のスタイルではレスリングのテクニックとグラウンドコントロールを多用しています。でも観客がブーイングをしたことに少し驚きました。そのため、私は私のスタイルを考え過ぎてしまい、相手をノックアウトすることに集中しすぎていたため、前回の試合でパフォーマンスが良くなかったのです。主にマイク・ブラウンと、多くのATTコーチから『なぜ得意のレスリングを使わないんだ? もっとレスリングを使ってフェイクを混ぜればよりストライキングが機能する』とアドバイスされました。そのために練習しています」
──今後もATTで練習を続けますか。
「今回、4月の半ばから3カ月半ほどフロリダに移りました。(今後は?)私のUSビザが9月に失効します。なので、数週間の休息後に日本に戻り、できるだけ早くフロリダに戻ってきたいと思っています。早くUFCに新しいビザを発行してもらいたいです」
──では、その点を踏まえて、いつ試合に戻りたいですか?
「今年中にまた試合をしたいです。11月、12月頃が最適なタイミングです。まだまだMMAのスキルを改善するポイントがたくさんあります」
──この数カ月間、多くの日本の選手に聞いてきましたが、UFCが日本でのイベントを再開するために何が必要でしょうか? さいたまスーパーアリーナで戦える、非常に優秀な日本の選手がたくさんいますね。
「さいたまスーパーアリーナでの試合は、私の人生で最も大きな夢の一つです。なぜなら、私はずっとPRIDEの試合を見てきたから。スーパーアリーナでノゲイラを見た時の感動は忘れられません。アリーナで戦う多くの選手を尊敬しています。だから、それは私にとって狂ったような夢です」
──いまのUFCに存在する才能を考慮すると、UFCは再びそこに戻れると思いますか?
「もちろん、そう思います」
──ATTで多くのファイターと練習し、あなたのファイトスタイルで最も大きな変化は何ですか?
「私はレスリングキャリアを20年間続けてきました。MMAに移行する前、多くのコーチが『なぜレスリングを使うのか』と指摘しました。そのため、レスリングをもっと離れる必要がありました。レスリングをベースに、ストライキングとグラップリングを組み合わせ、相手を狂ったようなスクランブルゲームに持ち込む──それが私の主なプランです」
──ところでそもそもなぜあなたはレスリングを選んだのですか。日本の多くのファイターは柔道や空手など他のスポーツを選ぶことが多いですが。若い頃からレスリングに興味があったのですか?
「山本KID徳郁の姉である山本美憂さんが、私をレスリングに招待してくれたんです。 私は彼女の隣人でした(※PUREBRED大宮で山本美憂のキッズレスリング教室で山本アーセンとともに習い始めた)」
──そんな隣人がいてレスリングを学んだ。本当にラッキーですね。
「はい、私は幸運です」
(C)Zuffa LLC/UFC
──あの敗北以来、初めての試合に臨んだ緊張はありましたか。それとも、あの連勝記録を背負わなくて済んだ分、試合に集中できたでしょうか。
「実は、少し緊張しました。2連敗は避けたいから、ちょっと。キャリアに大きなダメージになるから。私は少し緊張しやすい性格ですが、私のコーナーの堀口恭司さんが『緊張しているのが顔に出ている』と気づいてくれました。だから『緊張しないで。友達がいる、それが一番強い』と。それが少し、私の緊張を外に逃がしてくれました。ATTと恭司さん、素晴らしいチームメイトに囲まれている。素晴らしいファイターがたくさんいて、長いキャリアを築いている。試合の準備のためのマインドセットを作る方法を、彼らは知っている。それが私を助けてくれました」
──勝利をどう祝う?
「この街で祝う唯一の方法を知っています。ギャンブルです(笑)」
──あなたがそう言うとは思わなかった。良い食事を楽しむだけだと思っていました(笑)。
「今週バカラを学んだんです(笑)」
──勝利おめでとう。そしてカジノでの幸運を。
「ありがとうございます」