柔道やレスリングのように「擬制されたもの」ではなく、「リアルなアウト(ノックアウト、タップアウト)」が求められる
繰り返しになるが、日本では各団体によってルールや判定基準は異なるものの、近年は、この「効果的な攻撃」重視は顕著で「コントロール」の“その先”が求められる。打撃においてもエリアコントロールから、インパクトのある打突に繋げること。
組み技においては、テイクダウンするだけでなく、背中を着かせて極めに向かったり打撃を入れることでインパクトを与えなくてはならないことは明白だ。ケージに押し込み、相手が金網やロープを背に上体を立てて座った場合、座りながら小さな打撃を打つことが出来るため、その打たれた状態は完全に「コントロール」しているとは言い難い。
試合会場のマットサイドで様々な角度から最も近くで試合を確認しているジャッジが「有効」と判断する攻撃が採点に反映されるが、それが各ジャッジ、各試合・大会毎にゆらぎがあると選手は混乱する。
『ゴング格闘技』本誌NO.328では、昨年のABC総会に出席したJMOCの松宮智生、豊永稔、福田正人の3氏に「MMA競技運営最前線」として鼎談を行っている。下記にその一部を紹介したい。
(~中略)
松宮 ABCではルール、レフェリング、ジャッジング、メディカルに関わることなどの報告が行われました。レフェリングについては、たとえばブレイク、スタンドアップのタイミングについて、こういう方針で行こうという話がありました。かつては、どちらかというとレフェリーはあまり試合に関与しないという方針があったかったかと思います。ただ、「ネガティブな勝利」に向かう姿勢──勝利には向かうけれども、ゴールに向かわないものであれば、それはスタンドアップを躊躇しない、というような話がありました。MMAはやはりノックアウト、サブミッションを目標とするもので、その目標に向かわない攻防については、レフェリーの介入はありだという姿勢ですね。
――たしかにレフェリーによるブレイクは多くなっているように感じていました。
福田 日米のABCに近い現場レベルでは、その方向で各レフェリーが実践していたと思います。それが正式に言語化された。いきなりここにきてブレイクが早くなったのではなく、徐々に試されていったんじゃないかなと思います。
松宮 判定にあたっては「3D」=ダメージ、ドミナンス(優位性)、デュレーション(支配時間)が考慮されます。ただ、ドミナンスとデュレーションだけでは試合のゴールには向かっていない。
――さきほどのブレイクの件にもつながりますが、ジャッジの採点としても、たとえばテイクダウンして抑え込んで、それがフィニッシュに向かっていないものだったら、評価は低くなると。
松宮 そうですね。テイクダウンを評価しないわけではなく、ポジショニング自体も評価されますが、ただ単にポジションを取っているだけではなくて、そこから何をするかということが重視される。ゴールはここだと。その目標に向かう姿勢を評価していこうということですね。
――たとえば背中を何秒くらい着かせないとポイントになりにくいとか、そういう評価は?
豊永 無いですね。組技格闘技の柔道やレスリングは背中を着ければ勝つ。でもMMAはそこに重きを置いてるんじゃなく、“その後”のことが重要ですから。グラップリングが得意だとして極めに行く。だけど、極めることが出来なかったら他の手段を講じてフィニッシュに向かいなさいというのが、今のジャッジだと思います。
松宮 タックル、投げ技、抑え込みのポイントでいうと、たとえば柔道の一本とか、レスリングのフォールというのは、落ち方にもよりますが、実際にダメージを与えるというよりは、ダメージを「擬制」しているわけですよね。これだけの勢いで背中から落ちたら勝負があったと言っていいだろうと。レスリングも両肩をつけたらそれで勝負あったと見ていいだろうと。あるいはこのポジションをキープしたら勝負ありと擬制する。
でも、“MMAのゴール”というのは実際のノックアウトやサブミッションであって、それらはもうリアルなものですよね。だから、向かう方向は、私は「リアリティ」だと思っています。擬制されたものではなくて、リアルな「アウト」(ノックアウト、タップアウト)であること。
――それは実際にダメージを与えてフィニュシュすることであると。
松宮 そこがMMAの独自性なんじゃないかなと感じています。