MMA
インタビュー

【RIZIN】なぜRENAの逆転のヒザ蹴りは山本美憂に当たったのか? 5年2カ月ごしの再戦をひもとく

2021/11/22 10:11
 2021年11月20日(土)、沖縄アリーナにて『Yogibo presents RIZIN.32』が行われ、メインイベントでは、RENA(SHOOTBOXING/シーザージム)が山本美憂(KRAZY BEE/SPIKE22)と5年2カ月ぶりに再戦。RENAが2R 3分35秒、右ヒザからのパウンド連打でTKO勝ちを収めた。  前戦では、MMA2戦目のRENAがMMAデビュー戦の山本を1R 4分50秒、ニンジャチョークで極めて一本勝ちしている。  その後、RENAはMMA戦績を11勝3敗とし、2019年6月には米国Bellatorにも参戦。リンジー・ヴァンザントに1R リアネイキドチョークで一本負けも、2019年大晦日にヴァンザントを3R TKOに降してリヴェンジを果たし、2020年9月の前戦では富松恵美にも判定勝ちするなど3連勝中。一時は引退も示唆したが、今回の試合に向けた練習の過程で、新たに目標を北米に定め、引退を撤回。1年2カ月ぶりの試合に臨んだ。  対する山本は、デビュー戦から1年は1勝3敗と苦しんだものの、2018年7月から石岡沙織、アンディ・ウィン、長野美香、浅倉カンナを相手に怒涛の4連勝を飾るなどMMA6勝5敗に。2020年12月31日の前戦ではRIZIN女子スーパーアトム級タイトルマッチで浜崎朱加に挑戦も、1R ネックシザースで一本負け。今回はかつて、2年間にわたり移住して練習を重ねた“ホーム”と呼べる沖縄での再起戦だった。  この5年ごしの再戦で、そのときリング上では何が起きていたのか。両者の動きと証言から、再戦を紐解く。  試合の序盤は一進一退の攻防だった。 「本当に入場した時から歓声を感じて力になりましたね」と山本が言う通り、会場の後押しを受けた美憂は、先に圧力をかけていった。  サウスポー構えの山本に対し、オーソドックス構えのRENAは前蹴り、ローキックで牽制し右ストレートを見せるが、山本の前手のフック、大きな左オーバーハンドを嫌いペースを掴めず。詰める山本は相手の足を触りながらプレッシャーをかけて、RENAのワンツーの打ち終わりにダブルレッグ(両足タックル)から右腕で差して前に出た。  左手はRENAのパワーハンドを掴む山本に、コーナーまで歩いて移動し、コーナーマットを背にして崩されないRENA。山本は右ヒザ、左手でパンチもRENAは山本の顔にヒジを押し付けてフレームを作り、スペースを空けて右ヒザを突き上げ、山本の組みを剥がすことに成功する。  ここまでシュートボクシングのシーザー武志会長から伝授されたカーフキック、そして、宮田和幸代表率いるBRAVEでの出稽古で習得した壁レスリングの成果を披露した形だ。 腕十字は「来た」と思って、焦らずセコンドの声の通りに動けた(山本)  しかし、山本もMMAの打撃の進化を見せる。  スタンドでRENAは左ジャブ・ローを当てるが、その蹴りにカウンターの左をヒット! さらにRENAの得意の右前蹴りを右回りでかわす動きのなかで前手の右フックをヒットさせている。続く山本のシングルレッグ(片足タックル)は切ったRENAはその離れ際に蹴り上げを狙い、前足重心の右足にも左ロー。  しかし、山本のテイクダウンプレッシャーと同じ軌道で頭を下げた左オーバーハンドフックをRENAは被弾する。  通常なら大振りのそのパンチは、山本が右で足を触りに行くフェイントからの左のため、RENAにとってはタックルと見分けがつき辛く、テイクダウンディフェンスに長けてきたがゆえに、その差し上げや、腰を動かす反応がパンチのディフェンスを遅らせているのだ。  そして左を当てることで、今度は下への攻撃も活きてくる。  RENAの左ジャブをしっかりかわした山本はダブルレッグへ。カウンターで懐に入られたRENAは右足を後方にスプロールしようとするが間に合わず、両ヒザ裏を掴んだ山本はそのまま前方に走ってドライブし、テイクダウンに成功する。  頭を腹につけてのダブルレッグテイクダウン。この頭を外に出さないタックルに、RENAはそのままガードポジションで下に。  ガードを取るRENAに対し、その両足の中に入り、パウンドを落とす山本。このとき、山本はRENAの右手首を左手で掴んで、あるいは上腕を押さえてコントロールしながら右のパウンドを落としている。 いったん中腰になり振りかぶってのパウンド。  しかし、RENAは下からその手首を対角から掴んで内側に流すと、三角絞め狙いから腰を外に切って逃がして腕十字へ移行! 両手をクラッチして伸ばされないよう防御する山本は、RENAをまたいでヒザを頭に突くが、山本の顔に足をかけているRENAは、腕を引き付け巻き込む。  若干、ヒジが抜けて来ていた山本は一気にまたごうとするが、その動きに合わせてRENAが頭を刈ると、山本が前転する形になり、仰向けになって左腕が伸びてしまう。  しかし、肩が回せた山本は、レスラーらしい見事なブリッジから後転して上を取り返し、左腕は抱えられたままながらヒジは抜いており、空いた右手で5発の鉄槌をRENAの右目に落とし、1R、終了のゴングが鳴らされた。  この1Rのヤマ場を、両者はどう感じていたか。  セコンドについた浜崎朱加が「AACCでもRENAは一本を取っている」という証言の通り、RENAは「腕十字、三角(絞め)も狙っていました。あと30秒くらいあれば良かったですけど、美憂さんも上手くて(技を断ち)切られちゃいました。もっともっと極め力が欲しいですね」と、手応えを得ながらも極めに至らなかったサブミッションのトライを語る。  一方の山本も「(腕十字は)“来た”と思って、焦らずこっちだなという形で防御が出来ましたね。(ブリッジで返せたのは)あの練習、あんまりしていなかったですけど、あそこで極められたら旦那(カイル・アグォン)に怒られちゃうので(苦笑)。一応(セコンドのアグォンとアーセンの)声は聞けてその通りに動けたので、あんまり極まっている感じはなかったです」(山本)という。 [nextpage] カットした瞬間は「全く覚えていない。14年プロやっていて初めて」(RENA)  試合は2Rに、大きく動いた。  RENAの腕十字を防いだ山本は「今まで以上に落ち着けました。序盤は距離が遠すぎて近くになれなくて、“タックルもいつ入ろうかな”というほど固く、焦っていたと思うけど、ちゃんと仕切り直せたことで落ち着きがありました。想定していた動きの中で、組み立ていくことができるようになって。  2Rは1Rよりリズムは取れていてパンチが当たって、タックルも決まっていたのは楽しかったというか。前に出れば良いという攻めの姿勢はどんどん出てきましたね」と、2Rの入りを語る。  前足への左ローから入るRENAに、左ボディストレートを突き、左オーバーハンドと上下に圧力をかける山本。テイクダウンを警戒するRENAはいつもより半身気味に後ろ足を引いて詰め。その分、利き腕の右のパンチ、蹴りは遠くなる。  左ジャブで前に出るRENA。前がかりになると、ここもカウンターで懐に飛び込み、右手は左ヒザ裏、左手は腰を抱いて右で持ち上げテイクダウン! 両足の中に山本を入れるフルガードのRENAのアゴ下に頭をつけて、背中をマットに着けさせてボディにこつこつと拳を入れる山本。  RENAは1R終盤同様に、対角から山本の左腕を引っ張り内側に流そうとするが、今度はさせない山本。正対してRENAの中央にステイすると、RENAの右手首をオーバーフック、あるいは掴んで殺してから、振りかぶって左ヒジを狙う。  クローズドガードのRENA。足が上がって来ていないため、インサイドの山本は中腰になりRENAの頭を左手で引き寄せて右の強めのパウンドを打ち下ろす。さらに左ヒジ、右の鉄槌! 下からヒジを返すRENAだが、山本のヒジの後、右目尻から出血が見えている。  RENAの右手を左でアンダーフックして手首を掴みながら、離し際に左ヒジを押し込む山本。さらに右腕を掴まれたまま、右の鉄槌を受けたRENAは傷口が開いたか、右瞼から流血する。  カットした瞬間を「全く覚えていないです」というのはRENAだ。「(試合後コーナーの浜崎)朱加さんが心配していたので『何ですか?』と聞くと腫れているのは分かってたんですけど、『血が……』『切れてる』と。まったく──14年くらいプロやっていますけど、(切られて腫れたのは)初めてでした」  それでもRENAは、山本の右腕を掴んで後方に押し込むと三角絞め狙いからラバーガードに移行。中腰になりヒザを突く山本は右肩を押し込んで防御し、ガードの中からのパウンドに、RENAは右目尻から出血が多くなり、右目周辺を腫らす。  下からの関節技を凌がれ、カットもしたRENAは、細かいパウンドを受けながらも、ここで足を解き、エビを打って、両ヒザを山本の脇下まで上げている。 [nextpage] なぜRENAはパウンドから立ち上がることが出来たのか?  下で削られジリ貧状態だったRENAの、フィニッシュに繋がるスタンドへの動きがここで起きた。  ここまで両ヒザをマットに着けていた山本だが、RENAの出血を確認してか、メインの重責からか、漬けて細かいパウンドから、中腰で立ち上がり、振りかぶっての強い鉄槌・パウンドへ。  タイトだった山本の圧力が解け、スペースが空いた瞬間に山本との間に足を入れることが出来たRENAは、左足で胸を蹴り、右足で蹴り上げて山本を後方に飛ばすと、離れた瞬間に立ち上がり、スタンドに戻している。  その立ち方は、右手をマットに着き、左手でガードしながら、右足を後方に引く「柔術立ち」だった。  グラップリングを学んだ初期に教わった立ち方。ストライカーでありながら、いちから組み技・寝技を学んだRENAは、その基本の動きが身体に染み付き、最も得意とする立ち技に繋げることが出来た。  その立ち際に右ストレートで飛び込む山本だが、左手を前に顔は相手から遠ざけて立つためヒットせず。RENAはついに立ち上がることに成功する。  RENAはその瞬間を「圧力をすごく感じてやっぱり強いなと。蹴り上げは練習はしなかったですけど、立つ時には蹴り上げなのか、胸を蹴るのか、そう(下に)なった場合には作戦としてあったので、それが出来てよかったです」と、自身のフィールドに戻した動きを語る。  RENAにダメージを負わせながら、立ち上がりを許した山本は、「ちゃんとリストコントロールも出来てなく起き上がってしまって……それまでしっかりコントロール出来ていたのに、一つひとつが雑になってしまったかなと思いました」と、チャンスに相手をコントロールしないまま勝負に出たことを悔やんだ。 [nextpage] 全身にグシャっと伝わって、これは終わったなと(RENA) 「立ちではいけてるなと思ったので」というRENA。立ち技の距離にしたくない山本はすぐに詰めて、右足を触りながら左オーバーハンドへ。コーナーマットまで詰まったRENAだが、頭を押さえて右回りにステップし、山本の組みを断ち切る。  山本が左を振りかぶり身体を沈めたフェイントに、左オーバーハンドを警戒し、右手で右目をガードするRENA。反応が速い。  フィニッシュはその次のアクションだった。  立ち会ったRENAは軽く左足で前蹴り。そこに呼びこまれるように打ち終わりに右手でヒザ裏を掴みにタックルに入った山本に、RENAは一転、右ヒザ一閃!  顔面にもらい、脳を揺らされた山本はダウンしながらそれでも必死に右足を手繰り行くが、足を後方に引いたRENAはがぶりから左の鉄槌を17連打。ダメージの中、足を掴んで亀の体勢のまま殴られる続ける山本を見て、レフェリーが間に入った。  2R 3分35秒、TKO。  フィニッシュについて、陣営は「タックルにヒザ蹴りが入る」と狙っていたという。しかし、左の蹴りのフェイントでその着地際を狙って飛び込んだ山本の頭に、入れ替えた右のヒザ蹴りを内側にピンポイントで当てるのは、離れ業だ。女子選手としては驚異的なフィニッシュ力を持つRENAならではの追い込まれてからの一撃だった。  勝者は「ほんとうに体が勝手に動いたっていう感覚に近いです。感覚的に練習で1回、以前、偶然に顔に当たったことがあって、グシャっという感覚があった。それと同じ、全身にグシャっと伝わって、これは終わったなと思いました。私の中で衝撃が走りました。狙ったというよりは、練習通り、身体が覚えていたんだなと思います」と、フィニッシュの瞬間を語る。  敗者は、「ちょうど良いタイミングでフッと(ダブルレッグに)入ってしまったところを合わせられたという感じですね。集中してどんなタイミングで攻めるのかを見ていなかったのが、大きな原因かなと思います」と、立ち上がりを許してからの詰めが甘かったと語った。  リング上では、「山本美憂さんがいてくれたからここまで女子格闘技を作れました。5年ぶりの再戦でぼろぼろになるくらいいい試合になりました。喋ることも考えていなかったけど、またリングで戦います。沖縄には毎年来ていますし試合をしたいです。大晦日もあるんで、ちょっと分からないですけど(笑)」とコメントしたRENA。  山本は、ホームの観客に「……ただいま。いまここで私のことを愛してくれる沖縄のみんながいることを感じました。帰ってきて強くなったところを見せたかったですけど……ごめんなさい。でも、ここまで戦えたのはみんなの愛の力だと思います。ほんとうにごめんなさい、負けてしまって」と言葉を振り絞ると、「最後に家で待っている、子供達に言わせてください。“ママは負けちゃったけど、もうすぐ帰るよ”」と英語でメッセージを贈った。 [nextpage] 負けても落ち込まず次を考えている自分がいるということは、まだまだ伸びしろがあると思っています(山本)  試合後会見でRENAは、「色んな思いがあった大会でした。率直に楽しかったなと思いました。本当に2回戦ったことは今でも実感がない。3回目があるかどうかも分かりませんが、(5年前と)全然違う美憂さんでしたね」といい、山本も「(前回と違いRENAは)寝技、一本で極めてこようという姿勢がありましたね」と、互いに再戦では新たな2人として戦っていたと語る。  RENAは、2007年のプロデビューから、類い稀なスタンドテクニックでほぼ顔を腫らすことなく勝ち続けてきた。それはMMAになっても変わらなかったが、オープンフィンガーグローブのスタンド打撃のみならず、グラウンドでも打撃のあるMMAで、綺麗な顔のまま戦っていられるのは稀有な例で、まだ相手も含め、競った厳しい戦いをしてこなかったともいえる。 「まだこの勝利が嘘のようです。『衝撃的な勝ち方をする』と言っていて、本当に衝撃的になりました。私の顔も衝撃的ですけど(苦笑)。初めてだったので縫うとき震えていましたもん。痛かったです、麻酔。たぶん4、5針くらい。両目腫れて、初めてじゃないですかね、こんなになったのは。でも今回、意味のある試合で傷が残っても、これはすごくいい思い出になると思います」と、腫らせた顔で充実の表情を見せた。  ヒザ蹴りを受け、足を掴んだまま鉄槌を浴びて動けず、試合を止められた山本は、ゴング後も顔を覆い、マットにひざまずいたまま号泣。しばらく動けなかったが、顔を上げると、同じレスリング仲間で反対側のコーナーに立ったAACCの阿部裕幸代表から「ほんとうに強かった」とハグを受けた。  リング上で山本は、RENAを抱き寄せ、「『試合をしてくれてありがとうございます』という話をしました」という。  会見では、「あと一歩のように見えたが」と問われ「はい、そうですね。悔しいです。私のホームですし、ほんとうに勝ちたかったです。(KIDに)見せたかったですね。それだけじゃないけど、その想いは凄く強かったです」と唇を噛んだ。  今後については、「まずは、ゆっくりしてジムのこともありますし、ウチの選手のことなどやることをやってから考えます」としたが、「負けて悔しいけど、負けても毎回落ち込まない。次のことを考えたりするので。そういう自分がいるということはまだまだ伸びしろがあると思っています。それがいいのか悪いのかは分からないけど」と小さな笑顔を見せた。  逆転勝利とも言えるフィニッシュの、その瞬間だけを切り取っても、勝負は見えてこない。そこに至るまでの流れがあり、その心技体の結実が勝敗を決める。  同時にあの時、もし山本が抑え込み続けていたら、もしRENAが立てずにいたら……の「たられば」は結果論で、3Rにはまた新たな展開が待っていただろう。ただたしかなのは、両者の動きの様々な局面で攻防があり、それがフィニッシュに繋がっているということだ。  両者ともに前戦から確かな進化を見せた名勝負。  リヴェンジを阻んだRENAは、「もっともっと上を目指していけると感じた試合でした。今回、すごく楽しかったので、やっと“帰ってきたな”って、輝けるのはこのリングだなって強く思ったので、大晦日も行けるかな、無理かなって(笑)、傷もあるので相談しながら、来年も羽ばたけるように頑張ります」と語っている。
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