MMA
コラム

プロMMA3戦、永井佑虎に起きたこと──頭部の怪我で引退した永井と練習相手の石渡伸太郎が事故防止を呼び掛ける

2020/07/04 04:07

「頭が痛いので出来ません」と気軽に言える関係を

 ドクターによれば、頭部へのダメージは蓄積されたものである可能性があるという。

「あとで主治医の先生に聞いたところ、頭のなかに400ccくらい血が溜まっていたようで、でも幸い脳には傷が無くて、脳の外側の『硬膜』の脳側に出血があって、その出血で脳が圧迫されて、意識を失って倒れたようでした。倒れた日の以前から、『出血して固まった痕がいくつかあるから、少しずつ出血はあったんじゃないか』と言われています。CT(検査)ではそれは分かなくて、MRIじゃないと分かりませんでした」

 石渡は、普段から怪我について考えていなかったら、今回のように早めの行動は出来なかったという。

「夜中に『手術が終わりました』と報告を受け、本人に会えたのは数日後でした。無事手術が成功し、意識が回復し、奇跡的に後遺症も無く、いま彼は元気に生活しています。格闘家にとっては、日常のなかで起きた事なので本当にショックな出来事でした。でも、あの時早く119番していて良かったと、ほんとうに思います」

 2017年の年末に石渡は、3試合を戦い抜くなかで記憶を失い、入院。その後、長期欠場となっている。

「僕も定期的にMRIを撮るのですが、過去の出血した痕はあったんです。“あのときかな”とかいろいろ思うのですが、その出血がもし広がっていたら死んでいたかもしれない。選手は、それ(リスク)を分かっていなくて、中途半端にやっているんだったら、辞めた方がいいと思います。このことはジムの後輩たちにも伝えています」

 文字通りのフルコンタクトである格闘技で、プロのファイターとして戦う、あるいは戦うまでのプロセスは常に危険が伴うものであり、傷つき・傷つかせるなかで、その覚悟とともに知っておくべきことがある。

「後から聞いた話ですが、本人はその日、頭痛があったそうです。状況によっては、防ぐことが難しい部分もあるのですが、そういう状況を作らないこと。『今日、頭が痛いので出来ません』と気軽に言える関係であれば……。たとえ、互いに試合前で勝ってもらいたいと考えたとしても、『練習を休みます』と言いづらくさせた関係性を作った自分も反省でした」

 石渡の告白に、SNSでは様々な反響があった。永井は、「この件について頭痛がありながらやったのは自分で、前の試合で負けて強くなろう! 強くなろう! と焦った結果です。石渡さんは何も悪くありません」と記している。

 リスクを伴わないスポーツはない。それは人生においても同様だ。しかし、ファイトするという行為が、長年、特殊なメンタルを育んだのもたしかだ。

「試合後や練習で時々、永井が『頭が痛いです』という日があって、気になっていました。僕も結構、頭痛が多いので、脳内出血のことなどを調べていたことがあって、あの時“もしかして”と思ってピンときました。今回、脳内出血について、自分の頭のなかにあったから、多少なりとも動けたというのもあります。

 ただ、ボクシングを習っていたときも『殴られたら頭は痛いのは当たり前だから』『もう何ラウンド行くぞ』とか、周囲からよく言われていたので、初期の頃はそういうものだ、という刷り込みもありました。それを格闘技界の多くがやっているから、頭部へのダメージについて麻痺しちゃっている。ネガティブにとられると困りますが、『とても危険なことをしている』ということに目を逸らしてはいけない」と、石渡はあらためて警鐘を鳴らす。

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.331
2024年3月22日発売
UFC参戦に向け、ラスベガス合宿の朝倉海。「プロフェッショナル・ファイターの育て方」でチームを特集。『RIZIN.46』鈴木千裕×金原正徳インタビュー、復活K-1 WGP、PFL特集も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア