119番で「脳内出血の疑いがあります」
永井はスパーリング後に意識を失った。その異変に最初に気づいて動いたのは石渡だった。
「確か3ラウンドほどやって、スパーリングではパンチも入ったのですが永井がダウンすることもなく、ただ、終了のブザーが鳴った後、永井が泣きながら殴って来たんです。悔し涙は見たりするけど、ブザー後に殴ってくることなんてなかったから、『悔しかったの?』と聞くと『わかんないっす』。『なんで泣いてるの?』『わかんないっす』と、会話にならない状態だったので、おかしいなと思い、一度落ち着かせるために座らせると、『頭がとても痛い』と。目を見ると、ほんの少し眼球の動きが変なようにも感じました。それで、すぐに救急車を呼びました。
この時点で万が一があったらいけないと思い、119番で『脳内出血の疑いがあります』と伝えてもらいました。もしそうなら“時間の勝負”とも聞いていたので。でも、そのときはまだ彼とも会話が出来ていたので、“まあ、そんな訳はないかな”と半分思ってる自分もいました。でも、脳内出血の可能性も考えて、アイス枕を頭の下に入れたりもしました。
5分ほどで救急車が到着し、血圧などを測っているときは、まだ救急隊員の方も慌ただしくはなかったのですが、搬送の準備をしているうちに、どんどん永井の意識が遠くなっていって、ガクガク震えて痙攣し、バタバタ暴れ始めました。『いま救急車が来ているから落ち着いて』と手を握って声をかけると聞こえているようで、手を握り返して意識を保とうとして少し落ち着くのですが、隊員の方が『意識レベル』が危険な状態であることを報告しているときに、失神してしまい、すぐに搬送となりました。
幸いにもICUがある病院が近くにあって受け容れてもらえて。病院でドクターの方が来て、『命の危険があるので緊急手術になります。開頭手術をします』と言われたときは、“ウソだろ?”と、現実なのか分からないくらい混乱しました」(石渡)
倒れた後の永井の記憶は、病院のなかでのものだ。
「手術中に一度、明るい天井を見た記憶があり、次に起きたらナースステーションでした。そこで“病院で手術したんだ”と分かりました」