音楽も格闘技も、誰かの真似からオリジナリティを出さなきゃいけない
――しかし、箕輪選手は21歳の若さでとても冷静ですね。
「たしかにあんまりワーッとパニックになったことはないですね。冷静かどうか。でも平常心でやってます。普通にいつも通り試合をする。まだ先があってここ(ONE)に来れてるというのは、僕的には、かなりキャリアとして大きいと思うんです。今後を考えたときに、まだ戦える選手でここにいるのか、もうあと1、2年じゃないかという感じでいるのかで話が変わってくるので。
僕がまだ若くて、一応ランカーを当ててもらえている。キャリアとしても、今、格闘技を始めて10年になるんですけど、それなりにいろいろな人たちと戦ってきて、データはあるけど、今後まだ“現役を続けていける時間がある”というのは結構デカいかもしれないです」
――なるほど。ところで箕輪選手が取材でかけている眼鏡が、ちょっとやんちゃな感じを受けるんですけど(笑)、ジュニア修斗からやっている真面目な子が、いまに至るまでどんな十代を過ごしていたのでしょうか。
「基本的に吹奏楽部から格闘技を始めたので、グレたりはしてないですよ(笑)」
――吹奏楽部では何の楽器を担当していましたか。
「フルートをやってました。3歳からピアノをやってたんですよ。それで吹奏楽部に入って、それがなぜか親的に良くなかったみたいで水泳もやって。水泳のほうは辞めちゃって、ピアノはそのまま続けて中学で吹奏楽部に入ったら、親が身体を動かす一環で格闘技をと。なんで格闘技かわからないですけど(笑)」
――ご両親が身体を動かして、と格闘技ジムを勧めてくれた。それでいまの箕輪選手が見られるとは、感謝したいです(笑)。音楽にはテンポもリズムもある。格闘技と通じることはありますか。
「楽譜を渡されても、5人が5人同じように演奏出来ないんです。ピアノとか特にそうなんですけど。逆に色を出していかなきゃいけない。ピアノ的には強弱しか譜面では書いてないところを、どれだけのメリハリをつけるのかとか、あと、楽譜を変えちゃったりする人もいるくらいなんです。
結局格闘技も、“打投極”をどれだけの割合でやるかってたぶん人それぞれだし、同じ技の精度をどれだけ自分なりに上げていくかというのは、誰かが真似してその技に入っても、誰かの真似でしかない。そこにオリジナリティを入れたりしなきゃいけないというのは、何となくですけど、音楽も格闘技も似ているなと。
今回、コーナーについてくれている飯島(浩二)コーチも、アーティストで、現代美術家なんです。やっぱりアートと音楽とで、なんとなく話が噛み合うのもあったりして、展覧会に僕が呼ばれてパフォーマンスしたこともあるんです。今は格闘技が僕のパフォーマンスですけど、そういうアートを通して、共通で格闘技をやってると、イメージとしてただ戦うというよりは、構成して、創り上げていって試合でパフォーマンスするというのがあります、僕らの中では」
――チームで作品を創るように、試合を組み立てる。
「そうですね。プランニングして、案を出していって、削るところ、削って付け足すところを付け足して、実際にやってみて、計画段階から実践してみて、最終的に試合でそれをやるという。だから緊張しないのかもしれないですね、あんまり。もうやることがパンパンパンと僕の中で決まってるので」
――それが冷静さにつながっているかもしれないと。
「かもしれないですね。だから、一本取るときは、プランとして一本取ろうというのがもうあるんです。前回のリト・アディワン戦は、インタビューとかでは『一本取りたい』とか言っていましたけど、実際のプランニングとしては、『とりあえず勝とう』という。『あわよくば一本・KOできたらいいよね』というプランニングだったので、そこまで深追いする気もなかったんです。そこで1個ブレーキをかけられる。あそこで一本取りに行ってたら、もしかしたらひっくり返されたかもしれない」
――同じように、今回のアレックス・シウバ戦もそれを考えているということですね。
「まあそうですね。創り上げていって。けっこう仕上がっているという状況です」
――まったくプラン外のことが起こって、動揺することはないですか。
「今のところ、想定外のことが来てびっくりするということはない。むしろ、想定を下回ることのほうが多いんですよ。基本的にこれはこれで行こう、出来なかったらこうしよう、というプランニングなんです」
――グレッグ・ジャクソンのファイトツリーのようなイメージですね。
「そうですね。これをいく、出来なかったらこうする、それも出来なかったらこうするって、どんどん創っていくんですけど、基本的にそれが出来なかったことがあんまりないです。やってみたら出来ちゃったということが多いので。修斗でジャレッド・アルマザンと戦ったときの1R目はちょっと想定外だったくらいです」
――今回5位のアレックス・シウバに勝てば、このストロー級では対日本人ということも視野に入ってくると思います。そこはどのように考えていますか。
「あんまり対日本人だから、というのはないので、決まったらぜひやらせていただきたいです。ただ、どちら(猿田洋祐、内藤のび太)とも一時期、一緒に練習してたんです。そこですよね、少しネックなのは。その2人が日本のトップ戦線にいたので出稽古に行ってたんですけど、いずれ戦うつもりで僕は行ってましたし、それはたぶん向こうも承知だったと思います」
──世界タイトル挑戦まで、あとどのくらい勝利して掴みたいと考えていますか。
「できればシウバに勝って、そのまま次はタイトルマッチってなってくれたら有り難いですけど、少なくともあと1試合、多く見積もっても2試合くらいでタイトルマッチに挑戦させてもらえるんじゃないかなって思っています。一番タイトルに使いのはランキング1位か2位の選手だと思うので、そういう選手たちと試合をやって自分の立ち位置っていうのを証明したいです」
──現在のONEストロー級世界王者、ジョシュア・パシオについてどんな印象を持っていますか。
「もちろんチャンピオンということで試合は何試合か見ました。自分がいつか戦うことになるとは思うので、研究ではないですけど、全体的にパシオ選手のレベルに自分の実力を合わせられるようにはしています」
――ファンにメッセージをお願いします。
「たくさんの応援ありがとうございました。アディワン戦は判定決着ではあったんですけど、勝つことができて、今回またとてもいいチャンスをいただけました。今後も、必ず結果として見せて、恩返しができればと思ってます。引き続き、応援よろしくお願いします!」