「ちょっと格闘技界の生態系が変わると思います」(榊原CEO)
それぞれのスタンスで、会見のみならずSNSでも、発信を続ける選手たち。
そこには、このコロナ禍の「ビッグマッチ」に、“格闘家”としてのみならず、視聴者に見せるコンテンツや興行の“演者”としての役割を求められること、また限られた“出演枠”に生き残る意味合いも込められている。
大晦日に向け、ファイターが強さやベストの戦いのみならず「視聴率」まで口にするのには、エンターテインメントのひとつとしての「興行」の厳しい状況にもある。
2007年のPRIDEの活動停止から、2015年にRIZINを始動させた榊原信行CEOは言う。
「6年目の大晦日にフジテレビ、地上波でしっかりとした数字を獲りたいという思いがある。RIZINが、というより格闘技が対世間からどう評価されるか。やっぱり今年も“ガキ使”が民放1位で、その下の馬群に消えるような数字に甘んじたくない。0.何パーセントでも数字を上乗せできるようなチャレンジをしたいので、あらゆる話題を積み上げたい。それが次の格闘技の未来において、いまの放送環境を維持していくためには絶対的に必要なのかなと」と、地上波の枠組のなかでの格闘技番組の巻き返しを図りたいという。
そして、強さを競う格闘技においても世界的に新たな潮流が急速に広まっていること、それが日本では十分にマネタイズされていないことへの危機感もある。
「このコロナ禍で世界的にいろんなことが動いている。純粋な格闘技だけを突き詰めてトップアスリートに登り詰めた人たちがこれまで通り活躍できないことがある。いま米国で起きているのは、PPVということだけにとらわれると、ローガン・ポールとかジェイク・ポールとかYouTuberの試合が、マイク・タイソンの試合のアンダーカードに組まれ、それなりに格闘技の覚えがあるけど必ずしもトップアスリートではない選手たちが爆発的なPPVの売上を上げている」と、“聖域”と思われたボクシングに置いても「本戦」の中に、ニューノーマル時代の新たな著名人の試合が組み込まれていることを、榊原CEOは例に挙げた。
ローガン・ポールは、2260万人の登録者数を持ち、57億8239万回の再生回数を誇るYouTuberとして有名なインターネットセレブリティ。タイソン戦のセミファイナルに出場した弟のジェイク・ポールも、YouTuberとして知られている。
ローガン初のボクシングマッチ配信は世界を轟かせた。2018年に英国の“YouTubeボクシング王者”のKSIと、ヘッドギアと12オンスグローブを着用した3分6Rの「史上最大のアマチュアボクシングマッチ」を戦い、YouTubeのPPVを視聴価格10ドルで世界配信。マイケル・バッファーがリングアナウンサーを務めるなど大規模なイベントとなったこの試合の販売件数は、120万件に達するなど成功を収めた。
2019年には、ローガンがアスレチックコミッションでプロ選手ライセンスも取得しKSIとの再戦に臨んだが、この試合が、WBO世界スーパーミドル級王者ビリー・ジョー・ソーンダースと、WBC世界ライト級王者デヴィン・ヘイニーによる、2つの世界戦の前座として行われたことで、関係者やファンから批判を浴びた。しかし、「ボクシング界に利益をもたらす」として支持を表明するボクサーも少なくなく、興行面でも、DAZN米国が中継したボクシングの歴代最高視聴者数を記録し、興行としては再び成功を収めた。
2021年2月20日には、フロイド・メイウェザー・ジュニアとの「エキシビションマッチ」が発表され、“マネー”メイウェザーが、コナー・マクレガーとのプロボクシングマッチ、那須川天心とのエキシビションマッチに続き、このローガン、そして、2021年2月28日に東京ドームで開催される「MEGA2021」で朝倉未来と対戦する案も浮上している。
榊原CEOは、「メイウェザーのアンダーカードも、そのうち発表になると思うけど凄まじいカードになる。ちょっと格闘技界の生態系が変わると思います。必ずしもトップアスリートに登り詰めた人たちの凄い試合や、タイトルマッチに数字があるわけじゃなくて、2000万人もフォロワーがいると、“朝倉未来の化け物”版みたいな人たちが“格闘技”というカテゴリーの中で戦うことで爆発的に売上げが上がるというマーケットが生まれてしまった。そういう中で僕らもモノの作り方とか考え方とかを変えなくてはいけない。その意味ではMEGAというイベントは話を聞いているととんでもないイベントになりそうな気がします」と、“何を見せるのか・売るのか”の再考と、2月の「MEGA」が既存の格闘技イベントの枠を超えたラインナップになる可能性があることを語った。
また、幻に終わった亀田和毅vs.皇治に代わり、賛否両論が巻き起こった皇治と五味隆典による階級差を越えたスタンディングバウト(※パンチのみ。エキシビション扱い)についても、「今回、皇治と対戦する五味隆典も、こういうときに話が回ってくるのが五味隆典だし、いいところを持っていくのが五味隆典。ここでチョイスすべきか・しないかの五味の嗅覚は凄い。(本人に)刺さるだろうなと思ったら刺さった」と、急ごしらえでも見所を作れたとした。