試合もジャッジも「生もの」
「ダメージ」とは主観だ。
たとえば、脳を揺らす頭部へのダメージと手足へのダメージをどうとらえるか。
脳震盪に直接繋がる可能性のある頭部への打撃は、ミドルやローキックよりも早くKOに繋がりやすいという見方もある。
しかし、もしミドルキックを腕でブロックし続けたら、そのダメージにより腕は上がらなくなり、パンチは打てなくなるだろう。もしローキックを足にもらい続けたら、ステップを踏みづらくなり、蹴りはもちろんパンチも手打ちになるだろう。
斎藤vs.朝倉戦で、勝者は鼻骨骨折し、敗者は顔を腫らさず会場を後にした。
「MMAでもモニターによるジャッジが必要だ」という声も聞く。たしかに反則行為の検証に動画をスローモーションで見返すことはあるだろう。
しかし、試合もジャッジも「生もの」だ。
血の通ったファイター同士が戦う、“いま・ここ”で起きていることを、その場でジャッジするのは、スローモーションで見返す動画とは異なる。
ジャッジするための共通の基準や認識は必要だが、各ジャッジの採点が異なることがあるのは当然だ。ジャッジの立ち位置によって、見える攻撃と見えない攻撃、見える防御と見えない防御がある。だからこそ、ジャッジはリングの3方に分かれてチェックしている。
そして、どの攻撃が効いている・あるいは効いていないのかは、そのメカニズムを知ることが必須だ。
打撃はクーリンヒットしているのか、あるいは避けてダメージを軽減させているのか。極め技では、技術的にどこがどう極まっているのか。たとえば絞め技では、選手の息遣いなどからもその極まり具合を感じ取ることが出来る。
1994年の「UFC 2」から試合を裁き続ける“ビッグ”・ジョン・マッカーシーは言う。
「誰もがMMAのすべてを知ることはできません。見たことも聞いたこともないことが常にありえます。このスポーツは急速に進化しています。あなたは、それと共に進化するか、遅れていくか、どちらかです」
いまなおMMA(Mixed Martial Arts)は進化し続けている。それがこのファイトスポーツの難しさであり、面白さでもある。その進化を、見る側もアップデートしていくことで、より格闘技を愉しむことが出来るのは間違いない。