命運を賭けた「テイクダウン」
「ダメージ」に続く「アグレッシブネス」(ノックアウト、一本を狙う攻撃)と考えられる斎藤の動きのひとつに、テイクダウンが挙げられる。
2R、斎藤は右の蹴りを当てて、ワンツーの連打から四つに組むと、朝倉を引き出してテイクダウンを狙った。この場面、朝倉は思わずロープの下から腕を2度ひっかけ、バランスを保っている。ケージではないリングでは起こりうることだが、この行為は場外逃避により「口頭警告」となっている。
イエローカードであれば採点上マイナス20%だが、減点は無し。柏木氏は本誌の取材に、「『口頭の警告・注意』はジャッジングに反映されません。ただ、ロープ掴みをする注意を受けたということは、そもそもが相手の方がアグレッシブだからという見方は出来ます」と語る。
1Rに一度、斎藤は朝倉の左を掻い潜って組むが、残り時間も少なく本格的にクリンチを仕掛けてはいない。ここで力を使うと後半に消耗する可能性もあるからだ。
そして、2Rに2度、勝負のテイクダウンに入った。テイクダウントライにはパワーと勇気が必要だ。テイクダウンを取るために、相手の間合いに入ること。崩して倒し、殴る・極めるポジションまで奪うのにどれほど腕が張り、スタミナを使うか。
試合の命運を賭けてテイクダウンを仕掛けた側が、ロープ掴みでテイクダウンを逃げられたら明らかに不利。そしてストライカーにとっては、テイクダウンを切ることで試合の流れを掴むことが出来る。RIZINが「リングスポーツ」である以上、再考が求められる反則の裁定になるだろう。
2Rの斎藤のもうひとつのテイクダウン。朝倉が得意とする左の蹴り足を掴んで上半身を押し込むニータップにより、朝倉を尻餅まで着かせている。
ただ、テイクダウンされただけであればダメージは無い。斎藤に背中を預けながら立ち上がった朝倉は、コーナーまで移動し、頭をロープの外に出しながら、ケージレスリングさながらに肩をコーナーマットにつけて正対に成功している。
しかし、この攻防後、朝倉は蹴り足を掴まれることを警戒し、得意の左の蹴りを躊躇するようになる。
そして「ジェネラルシップ」。立ち技・組み技の双方において、いかにリングを支配し、相手をコントロールするか。「エリアコントロール」が「ジェネラルシップ」の採点として評価される。
斎藤は、朝倉よりMMAとしてのトータルの戦いで上回ることで、この「ジェネラルシップ」でも優位に立ったといえる。
ファイターが確実に勝つためには自らの手でフィニッシュすること。だが、それは様々な選択肢と攻防のなかで、何をしてもいいし、何をしなくてもいいMMAで、フィニッシュに向かう積み重ねのなかで生まれることでもある。