▼第16試合 ウェルター級(66.67kg) 3分3R ※ヒジ打ちなし、首相撲無制限
×イ・ギュドン(韓国/Samsan Gym/韓国ミルメカップ60kg級王者)
判定0-3 ※28-29、29-30、28-30
○高木覚清(岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION)
▼第15試合 株式会社ミズケイ presents WPMF女子世界フライ級(50.8kg)タイトルマッチ 2分5R
×タナンチャノック・ゲーオサムリット(王者/タイ/ゲーオサムリットジム/WPMF世界女子フライ級王者)
判定1-2 ※49-48、48-49、47-49
○小林愛三(NEXTLEVEL渋谷ジム/初代ムエタイオープン女子フライ級王者/挑戦者)
※小林が新王座に就く。
岡山ジム主催興行で誕生した広島のムエタイ世界王者・白築杏奈を引きずり下ろして、昨年12月16日、新王者になったタナンチャノックは、スピード豊かで繊細なテクニックを使いこなすムエフィームー(万能タイプ)。
挑戦するは、KNOCK OUTで女子エースとして活躍した“渋谷小町”小林。対タイ人戦績5戦4勝1分の無敗で今回初の世界戦を迎えた。
1R、右ローキックからスタートした小林の攻めにタナンチャノックは余裕の笑み。それは、小林の身上である前進からのコンビネーション、ワンツーからの右キックが強く繰り出されればするほど笑顔が広がる感じで、攻める小林が手数は様子見で少ないタナンチャノックに呑まれている印象がある。
顕著なのはタナンチャノックのバックステップ。愚直に前進する小林の圧力に“下げられる”のではなく“受け流して下がる”のだ。誘い込んで右ミドルキックをカウンターする、フィームーの常套戦術。圧巻は、右ミドルキックを小林にキャッチされたタナンチャノックがリターンの攻撃が来る以前に片足のまま右ストレートを連打してみせた場面。バランス良い身体能力の高さとイニシアティブを渡さない気の強さが確認できた。
2R、タナンチャノックの笑みはいつのまにか薄れている。「ウォームアップは終わり」ということか、勝負に集中し始めた証拠か。互いに得意な右ミドルキックを交換する中、小林の左ハイキックがタナンチャノックの顔を叩き、前進の勢いも増していく。ここでもタナンチャノックは、後退しながら小林の攻めを受けるが、段々と受け流しきれずに“下げられる”場面が目立つようになる。
3R、意を決したのだろうタナンチャノックは、小林に頭から首相撲で組み付きヒザ蹴りを連打、ミドルキックの乱打戦、小林の顔面を袈裟斬りにしようという凶暴な右ヒジ打ち。すると突如、小林は叫びながらの蹴り、パンチ連打で対抗する。
4R、タナンチャノックが唸りながら前に出るが、小林は左テンカオを打ち込む。右を蹴り合う両雌の強度は、試合終盤に入りながら上がる一方だ。小林のワンツーが直撃。効いたかと思われたが、タナンチャノックは攻撃を返す。
5R、小林のパンチの連撃にヒジ打ちが混じる率が高まってきた。伊藤戦で無意識に繰り出したという斧ヒジも出る。タナンチャノックは下がりながらも鋭く右ミドルキックや右ストレートを撃ち込む。
判定はスプリット(2-1)となった。新女王即位が発せられると前女王は、小林にハグして手を差し上げた。
小林は「こんな自分に大きなチャンスをいただき、ありがとうございました」と泣きながら四方に深々とお辞儀。「技術もない自分がパワーで押し切って強引に勝てましたが、まだまだ強い選手はいると思います。一歩一歩前進して、このベルトに相応しい芯から強いチャンピオンになります! 本当にありがとうございました」とさらなる成長を誓った。
▼第14試合 有限会社トータルプランニングルミナス presents WPMF世界フェザー級(57.15kg)暫定タイトルマッチ 3分5R
×プレム・T.C.ムエタイ(タイ/T.C.ムエタイジム/IPCCインターコンチネンタルスーパーフェザー級王者/暫定王者)
KO 1R 2分00秒
〇安本晴翔(橋本道場/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/REBELS-MUAYTHAI フェザー級王者、元INNOVATIONスーパーバンタム級王者/挑戦者)
※安本が新暫定王座に就く。
ムエタイ世界戦、トラディショナルな流儀に従いワイクルー(師に感謝を捧げる舞踊)を安本も王者と共に舞う。タイ人トレーナーがいない橋本道場においてこれをどうやって学んだか、安本の競技への敬意と真剣味が伺える。
白面の安本は、緊張があるのかないのか判断しがたい素のポーカーフェイス。赤銅色のプラムは「職業:戦士(タイ語でナックムエ)」の風格。
試合開始のゴングが鳴ると、様子見が定石のムエタイのリズムを毛頭破棄した安本がサウスポーからの右ローキック、更に右ハイキックを叩きつける。しなやかながら重厚な蹴りは痛々しい炸裂音を伴うが、王者は意に介さず堅固に上げた両腕の盾の隙間から上目づかいに若き挑戦者を睨みつける。挨拶返しに放ったプラムの右ローキックは重厚。序章ながらハイレベルな攻防は予告編的緊張感い満ち、空気が凍る。
そして、プレムが棍棒を叩きつけるような右ミドルキックで安本の上腕を叩き、それをリセットする途中、体勢が整う前、吸い込まれるように安本の左ハイキックが側頭部を直撃。意識がフラスコに注がれた水であるなら、その大半が零れ落ちてしまったのではないだろうか。たたらを踏んで後退するプレムに向かって一直線に走り込み、軽快な左のショートフックを叩きつけると、プラムは易々とマットに膝をついて転倒しダウン。プライドか反射運動か、王者は立ち上がり、レフェリーが8カウントまで数えて試合を続行させたのは衝撃の数秒前。
「ピキーッ!」と機械が壊れて音波が耳を刺すに似た破壊。それはいつの間にかオーソドックススタイルにスイッチした右利きである安本の右ストレートだった。
関係者間で「強いタイ人」と噂され、安本は動画を確認し即「強い」と認識したナックムエは、多少残っていたフラスコ内の水を飛び散らしながら粉々に砕け散った。1ラウンド2分丁度のショッキングは、1秒もない完全な静寂の直後、爆発的な驚嘆と賞賛の歓声に変わった。
“黄金”“ダイヤモンド”でも形容したりない故、“The PLATINUM”と呼ばれる新世界王者、安本は岡山で白銀の閃光を放った。
安本のリング上インタビュー「ありがとうございます! 嬉しいです! もっと面白い試合をするので、僕に注目してください! 押忍!」