ぶん投げられるだろうなと。自分は「全部やる」つもりでいます
――白羽の矢が立った。しかし、またもショートノーティスです。
「もう2週間しかなかったので、63kgは僕が指定しました」
――それは躊躇というか、今回は流すということは考えなかったですか。
「いや、考えましたよ、一瞬。キム・ジェウォンのときも2週間前のオファーだったんですけど、オファーをもらったときに怪我していたとかだったら別ですけど、自分、別に普通に練習している状況でここで断るのは──たとえ1年後にできるとしても断るのはダサいなと思って。かっこいい自分でいたいなと思って──たまにそういうときあるんです(笑)」
――しかも相手は、倉本一真、瀧澤謙太を2連続初回TKOに下している元オリンピアンです。
「そうですね。今乗っていますよね。でも、たぶん相手が誰でも、自分が試合を受けれる状況にないわけじゃないから」
――とはいえ、これまで日本で佐藤選手の姿を見るのは主にセコンドが多くて。先日のパク・シウ戦でも相手を打ち気にさせたなかでカウンターのテイクダウンを見事に指示していました。
「最近はそうですよね。セコンドのほうが多くなっちゃって、忙しいです(笑)。でも、格闘技に触れてない日は一日もなくて。日曜日とか、試合のセコンドとかに行ったら動かないですけど、格闘技に触れてはいる。練習は週6くらいではやっていますね」
――いまの練習環境は?
「月曜は、昼にここFight Baseでグラップリングをやって、夜は坂口道場でMMAの練習。火曜日は昼にKRAZY BEEに行って、夕方から指導ですね。水曜日はFight Baseでの練習。木曜日はTRIBE TOKYO MMAに行って、夜は指導です。金曜日は、昼にMMAのプロの選手のパーソナルをやって自分も動いて、夜にMMAコーチ。コクエイ(マックス)のクラスに出て。土曜日は、一日ほとんど指導して混ざりながらやって」
──平日は指導もしながら、日曜日だけ身体を休めると。
「日曜日は、セコンドなどの試合がなければ、午後からFight Baseの会員さんとスパーリングのクラスがあるので、そこのスパーリングに混ざりながら、その前に柔術も出ているんですけど、柔術は流しながらやっているという感じですね」
――佐藤選手、それ休みになっていません(笑)。
「ハハハ、けっこう自分でリズム調整できているので、睡眠時間とかは確保できるようになっています。人と会うことが月に2くらいで入るので、そういうときが休みになっています」
――常に格闘技に触れてきたとはいえ、目標がないとなかなか追い込めないと思ってしまいます。
「僕、練習が本当に好きで、やれるならずっとやっていたいタイプなんです。普通に起きて、めっちゃ身体がだるいな、というときはありますけど、頭の中に、じゃあ練習に行く・行かないって選択がそこにないというか、迷うことはないので」
――キツくても練習に行くのは前提なんですね。
「行けば動く。動けば楽しいので」
――そして出稽古にも。どういう選手と組むことが多いのでしょうか。
「KRAZY BEEは、けっこううちのジムの子たちも連れていって、KRAZY BEEではアーセン選手とか、鬼山(斑猫)くんとか、EXFIGHT勢ですね。もちろん高橋遼伍さんとISAOとは昔からずっとやっています」
――ISAO選手の試合では観客席からもアドバイスを送っていましたね。TRIBEでは?
「TRIBEはもうTRIBE勢ですよね。若松佑弥選手とか後藤丈治選手、石井逸人選手……所属以外でも和田竜光さんや上久保(周哉)くんとか、最近はアキラ選手とか、いろいろなタイプがいて、助かっていますね」
――という中で、今回の対戦相手の太田忍選手というのは、なかなかいない特殊なタイプにも思います。MMA4勝2敗でレスリングに特化して強く、MMAではまだ発展途上という……。
「順応しかけているところというか、まだ完全じゃないですよね、きっと」
――その相手と決まったときはどんな気持ちを抱きましたか。
「どんなもんなんだろうなって。フィジカルとか。クラッチ組まれたら引っこ抜かれるんだろうなみたいな。そういうのはありますけど、どうってことないというか、ある程度想像がつくというか」
――別に投げられても構わないと。
「はい。世界に上がってくる選手たちは、そういうフィジカルモンスターをやっつけてきていると思います。階級は下ですけど、ウチの駒杵嵩大も柔道で元全日本強化指定選手でフィジカルがエグいので、ある程度想像がつくというか、なんとなくイメージはつきますね」
――そして、次の試合は当然、RIZINルールで戦うことになります。
「言われたルールで戦うという感じなので、特に意識することはなくて、僕的にはサッカーボールキックとか4点ヒザとか、あったほうが戦いやすいです」
――佐藤選手の動きはMMAとして、打撃も組みも連動しているから、そこにサッカーキックや4点ヒザが組みこまれたら、より面白くなるなと感じていました。
「ただ、リングは……僕はできればケージがいい。その点、今回はケージなのでめちゃいいんですけど」
――たしかに。ケージレスリングもあるなかで、対太田戦でも、そうそう簡単には組ませないぞという思いもありますか。
「たぶん向こうは必死に組んでくるので、組まれるだろうなと思っています。ぶん投げられるだろうなと。自分は“全部やる”つもりでいます。もちろん組まれないほうがいいし、打撃で行けるなら行きたいなと思っていますが、投げられることもがぶりが強いことも想定しています。もちろん組まれないようには戦いますけど」
――でも組んでたとえ投げられたとしても、そこで瀧澤選手のように慌てて立って、同じ形で組まれて崩されるという動きは、佐藤選手はしなくていい形もあるかと。
「どうだろう……ちょっと動きは固まってるんですけど、今は言いたくないですね(笑)」
――はい。ただ、対戦相手のキャリアは少ないけれど、けして軽視はできない相手ですよね。
「そうですね。もちろん。間違いなく武器はあるから。銀メダリストですからね」
――でも、たとえばアンドラージやローマンの圧力と比べたら……。
「いや、僕は相手を軽視するようなことはないですね。警戒して、警戒して、こう来るかも、こう来るかもと思って作るので。どんな相手でも。そうしないと昔、足元をすくわれたことがあるので」
――ところで今回は63kg契約ではありますが、ONEのハイドレーションテストがある減量とは違いますね。
「そんなに水を抜かないようにしたいんですけど、今たぶん練習終わりで66kgくらいです。練習前で67kgなので、試合前日には66とか65kgくらいまでにはしたいです」
――そうしたらあと2、3キロの水抜きになりますね。
「はい。前回も向こうが落ちなくて68kgだったので、もう3、4年は65.8以下をやってない(※ONEは水抜き無しで実質1階級上の体重)ので、自分でも分からない部分があるので。VTJもキャッチウェイトでしたし」
――VTJ(2021年11月)の河村泰博戦も佐藤選手の強さを再認識させられた試合でした。1R TKOの完勝でした。
「あれもただ“飲み込めた”だけで、そこまで実力差があるわけじゃないと思いますよ。戦い方というか」
――でも「飲み込める」ということは、引き出しの差があるのではないでしょうか。佐藤選手がそういったMMAの強さを探求してきたなかで、今回参戦するRIZINは「ダメージ」の判定割合が50パーセントを占めるという、3R全体を通した独特の判定システムを採用していますし、選手の中にはエンタメ的なアプローチで人気を得る選手もいる舞台です。そういったRIZINで戦ってみようと考えたのは?
「シンプルにすぐに話をもらえたからというのは大きいです。賛否はありますけど、どこにいても自分であればいいというか。別にRIZINに出たからといって、急に僕がYouTubeを始めるとか、そういうことではないし(笑)。自分は自分の価値観でずっと生きてきてるから、意見が合うところは欲しいですけど、僕の要望は、やっぱり一番は自分が出来るタイミングで試合をさせてもらいたい、そこが一番なので」
――一時期は横目で見ていたバンタム級GPのメンバーと戦うことになります。
「あのときは“面白そうなことやってるな”というくらいで、自分ごとではなかった。違うところにいて、出ようにも出られる状況じゃないので、別物というか。単純に他の団体、LFAとかBRAVEとか、そういうのを見ているのと一緒でした。そこにいまはBellator勢も入ってきて、さらに面白くなるなという感じはしますよね。メンツがけっこう固定されてきちゃっていたので、僕もそうですけど、外から入ってくる選手がいたほうがもっと面白くなるだろうなと」