あの体勢でのチョークのディフェンスはとても上手いと思っていたのだけど──
これまでフロントからのチョークや腕十字をキャリアの中期に極められたことはあったが、ホイス・グレイシーの弟子ジョン・クラウチのもとでブラジリアン柔術を学び、黒帯を授かってからは、プライベートでUFCの試合後にも柔術大会に参加するほどの柔術家であるヘンダーソンは、バックチョークで極められたことは一度もない。
その瞬間を振り返ったヘンダーソンは、嗚咽をもらした。
「それで……バックを取られた後は、彼が足を交差してかけてきて、“その足を組むなよ、捕まえたいんだから”なんて思ってたんだけどうまくいかなくて、彼がリアネイキドチョークをかけようとしたとき、自分はあの体勢でのディフェンスはとても上手いと思っていたのだけど……」と振り返りながら涙がこぼれ落ちた。
涙をぬぐうヘンダーソンが泣きやむまで、待つ報道陣を前に、ヘンダーソンは言葉を続けた。
「とにかくバックを取られてもディフェンスには自信があったけれど、ウスマンはバックテイクを確固たるものにした。彼が自分の胸を、俺の背中に押し付けていたから、ディフェンス方法である、肩をグラウンドのほうに回すっていうことが上手くできなかった。そしてそのまま“もうだめだ”というところに行ってしまった」
リアネイキドチョークの防御のひとつは、腰をずらすこと。このときいったんはヌルマゴメドフはの下の足に腰がのりかけて、腕の極めがずれかけたかに見えたが、そのとき上半身をタイトに絞めたヌルマゴメドフに、ヘンダーソンの肩は内側に向くことが出来ず、正対のチャンスは摘まれ、足を巻き直したヌルマゴメドフが、アゴ上から徐々に腕を喉下に滑らせ、タップを奪っている。
王座を防衛し、準決勝進出を決めたウスマンは、ヘンダーソンとハグをかわすと、マット上で「応援ありがとう。この勝利はとても意味があること。ベンソンは危ない相手だった。25分間、戦うつもりだった。これまでの努力が認められた結果だ。両親に感謝したい。みんなサポートをありがとう。次? 僕は誰も選ばない。誰でも構わない」とコメントし、セコンドのUFC世界ライト級王者のイスラム・マカチェフとハグをかわした。
続けて敗れたヘンダーソンにもビッグジョン・マッカーシーがインタビュー。
このサンノゼのSAPセンターは、UFC時代にヘンダーソンが妻マリアに公開プロポーズをした会場だ。
そこでヘンダーソンは「サンノゼ、愛してる。サポートをありがとう。ここにはいい思い出ばかりで、辛いこともあったけど、過去4試合のなかで『負けたら引退』と周囲には言っていたんだ。いまがその時だ。世界中のみんなありがとう」と語り、オープンフィンガーグローブをマットに置いた。