戴冠に涙がこぼれた秋元(C)ONE Championship
これを「快挙」と言わず何と言おうか。
2022年3月26日(土)、シンガポール・インドアスタジアムで開催された、ONE Championship10周年記念大会『ONE X』で、秋元皓貴(Evolve)がカピタン・ペッティンディーアカデミー(タイ)が持つ「ONE世界バンタム級キックボクシング王座」に挑戦。5R判定の末、新王者に輝いた。
試合は、秋元のベースのフルコンタクト空手の下段蹴り、中段突きやヒザ、さらにシンガポールEvolve MMAでも培った前進力が活きた激闘に。
キックボクシングルールのなか、顔面から腹、そして下段の蹴りも前足、奥足と蹴り分けた挑戦者は、カピタンを金網に釘付けにして、ムエタイ王者に反則の掴みのイエローカードも出させたうえで、こかす場面も見せて、5R、判定で完勝した。
秋元は、小学2年時に空手を始め、2007年10月に15歳でプロデビュー。2008年8月の「K-1 甲子園 KING OF UNDER 18~FINAL16~」で江幡睦に判定勝ち。2011年7月に、19歳にして元ルンピニースタジアム認定二階級王者で現役ランカーのピンサヤーム・ソー.アムヌアイシリチョークに2RにKO勝ちを収めた。2012年10月の森井洋介戦では、5R判定勝ちでデビュー以来無敗のままWBCムエタイ日本フェザー級タイトルを獲得。
2014年からフルコンタクト空手に復帰し、2017年のJFKO第4回全日本フルコンタクト空手選手権軽量級で優勝。2018年8月にシンガポールのメガジム「Evolve MMA」のトライアウトを受けて合格。10月には日本から拠点を移し、2019年1月に約6年ぶりのキックボクシングの試合をONEで行って勝利するも3月のヨゼフ・ラシリ戦でプロ21戦目にして初黒星。しかし、前戦で“中国最強”の呼び声高いチュー・ジェンリャンに判定3-0で勝利するなど4連勝をマークしていた。
対するカピタンはルンピニースタジアムおよびWPMFの王座を手にしたムエタイの超強豪の一角。2020年9月のONEデビュー戦では、武林風やEnfusionタイトル経験を持つペッタノンに6秒KO勝利を挙げると、2021年1月にはアラヴァディ・ラマザノフもKOで降し、ONEバンタム級キックボクシングの世界王座を戴冠。同9月にメディ・ザトゥーを判定で下し、初防衛にも成功している。
試合前に秋元は、日本人初のスーパーシリーズ(立ち技)のタイトル挑戦について、「この試合はずっと組まれるだろうなと思っていて、もう1年以上前からしっかりと準備をしてきたので、あとはそれを出すだけ」と語り、カピタンについて、「プレッシャーが強い選手で、早いラウンドでのKO決着が多く、調子に乗らせないようにしなければいけない相手。1Rから強いパンチとローキックでガンガン仕掛けてくると思うので、相手の攻撃で下がったらいけない。そのプレッシャーに負けないように、しっかりカウンターを取っていければ」と、その圧力を警戒していた。
そのお株を奪う前進力は、秋元のこれまでの軌跡が現れたものだった。
フルコンタクト空手からキックへ。しかし日本での試合機会に恵まれないなか、「Evolve MMA」のトライアウトを突破し、家族とともにシンガポールに移住した。
ONEで王者になるために、現地で戦う。その選択のなかに、修斗王者で戦極、UFCでも活躍したシアー・バハドゥルザダコーチとの出会いもあった。
戦前「下がらないという部分では、ずっとやってきた空手が活きてくるかもしれない」と語っていた秋元は、「Evolve MMA」でもシアーコーチのもと、5Rをフルに戦い抜くべく、ノンオーらムエタイ勢との練習とともにMMAチームとも合流。フィジカルの強いMMAファイターとも肌を合わせ、ロックダウンもあったなか、バハドゥルザダのパーソナルトレーニングで王座奪取を目指してきた。
勝利コール後、バハドゥルザダと長い長い抱擁をかわした秋元は、「ほんとうに相手が強くてしんどくて、3R目くらいからパンチも強かったです。世界で一番最初にこのベルトを獲りました。シアーコーチと毎日パーソナルトレーニングをして、週3回、5Rずっと前に出続ける練習の成果が出ました。毎日、しつこいくらいに『お前はチャンピオンになるんだ、その日が来る』と言われ、それを信じて戦いました」と戴冠を語る。
5万ドルのボーナスの獲得も告げられると、「頭の片隅に、今日もKOじゃなくて、インタビューとかで『派手じゃないですけど』と言われたりして、今日もほんとうにKOしたかったですし、賞をもらえて評価されて嬉しかったです」と、判定ながら完勝劇が評価されたことを喜んだ。
試合後のバックステージでは、10周年で新設されたベルト、立ち技ファイターの世界的な強豪が集うONEで、日本人が初めてスーパーシリーズで巻いたベルトを肩に秋元は、「本当に重くて……これが今のこのベルトの価値、この重さが価値だと思うので、さらにチャンピオンとしてこれから防衛戦をしていって、もっともっと重いものにできたら嬉しいと思います」と、新王者として語った。