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6月15日(土・現地時間)、中国・上海の宝山(バオシェン)アリーナで開催される『ONE:LEGENDARY QUEST』で、秋山成勲がONE Championshipデビュー戦に臨む。
アジア大会で金メダルを獲得するなど、柔道で活躍した秋山は、2004年の「Dynamite!!」で総合格闘技転向。HERO'S、DREAMに参戦後、2009年からUFCと契約し3度のファイト・オブ・ザ・ナイトを獲得するなど激闘を繰り広げた。
UFC戦績は2勝5敗。2015年11月のUFC韓国大会で秋山はアルベルト・ミナと対戦しスプリット判定で敗れた後、続く韓国大会での出場を希望していたが、その機会は訪れず、2018年年末にUFCを離れ、今回のONE出場となった。
3年7カ月ぶりの試合に臨む秋山のONE初陣の相手はMMA8勝3敗のアギラン・タニ(マレーシア)。2018年7月には後のONE世界ウェルター級王者ゼバスチャン・カデスタムを相手に3Rまで粘り強い戦いを見せている。
23歳の新鋭を相手に、ONEウェルター級(83.9kg)で43歳の秋山は、どんな戦いを見せるのか。ケージではなくリングで行われるONEで秋山はタニをコーナーに詰めることができるのか──試合を16日後に控えた秋山に聞いた。
タレントとして活躍するなか、ファイターとして「フェードアウトしていく可能性もあったのでは?」と問われた秋山は「自分もそう思っていた」と気負いなく語り始めた。
自分より20歳若くタイトルマッチ経験者でもあるタニを相手に実戦感覚を取り戻して戦うことができるのか──自問自答する秋山は、練習後の囲み取材で「不安だらけ」と吐露しながらも、「すごいキツいけど、楽しい」と笑顔を見せた。
フェードアウトしても食ってはいける。でもすっきりしない部分があった
――6月15日に中国・上海でのONEの試合が決まって、実際に本格的に追い込みを初められたのはいつくらいからですか。
「2~3カ月前くらいですね」
――2015年11月のUFC以来、3年7カ月ぶりの試合となります。実際に動いてみての感触は?
「正直、半年前だと動けると思ってやってみたのが、結局、動けなくて、それがずっと続いていて、4カ月前でも全然、動けない。3カ月前になって、ようやくその2カ月分が貯金になってやっと動けるようになって、みたいな感じです。遅かったですね、動けるようになるタイミングが」
――実戦形式に近い形のスパーリングもされたのでしょうか。
「はい。海外に行ってやったり(※ハワイ、タイのタイガームエタイで練習)、それこそ松倉(信太郎)選手とか打撃の上手い選手と一緒に、打撃の勘やタイミングであったり、間合いであったりをやりつつ、思い出しながら、自分で確かめながら確認しながらやってきました。少しずつですけど、確実に持っているポテンシャルが上がっている感覚はあります」
――UFCの次の韓国大会がなかなか決まらず試合間隔が空くなか、正直なところ、秋山選手は現役選手としてはこのままフェードアウトしてしまうのかな、と思っていました。
「ああ、全然、自分も思っていました。(周囲の)みんなもそう思っていたと思いますけど、自分もそう思っていたので」
――それを、今回のような話があって、もう一回、気持ちを持ち上げようと思ったのはどこにありましたか。
「ああ……、けどやっぱり、それは自分の親父から教わった『何でも挑戦しろ』という言葉がずっと頭の中にあったので、それがどっかに引っかかって……そのままフェードアウトしても正直、食ってはいけるんです、全然。だけど、お金ですけど、お金じゃない。お金は自分の価値を決める、単なる数字であって、お金を稼ぐためにという挑戦でなく、自分の中で……あの、すっきりしない部分があって。いろんな偉業を成し遂げた人の話を聞くと、常に何かに挑戦していることが多くて、それはすごく光っていて格好良かったから、親父も自分にそう言っていたんだと思います。
UFCでそのまま終わっても恰好いいし、綺麗だったと思いますけど、新しくこの歳でやるということに対して、自分の中ですごくモチベーションもあり、いい挑戦じゃないかなと思って。それをほかの人が見て、どう思うか分からないですけど、自己満足かもしれませんけど、いいんじゃないかと」
――追い込んでいる途中で後悔はしませんでしたか。
「うーん、ずっとそれ(練習)で育ってきたから。一時期、普通にほかの仕事をしていて、楽な生活もあったんですけど、あの感覚というのは、正直、キツいですけど……もう投げ出したくなる、あの雰囲気はすごいキツいんですけど……楽しいんですよね」
──楽しい?
「最後には、ああ気持ちよかったとか、楽しかった、と思えるのはまだ好きなんでしょうね」
──以前には「水を汲みに行く気持ちがあれば」と言っていましたが、その気持ちが残っていたと。
「はい、そうですね」
──実際、43歳で動いてみて、若い頃と比べて体力回復が遅いとか、動体視力が落ちたとか、そういったことを身を持って感じることはありますか。
「感じます。それって当たり前のことじゃないですか。それをどう自分で受け止めるか、というだけのことなので。それを無理やり鮭のように逆らって行くのもいいんですけど、それを受け容れてきれいに流す方が、人としてうまく流れていくんじゃないかと思うんです。逆らうことも大切ですけど、人それぞれで、私の場合は、それを受け容れた上で、次、どうするかを考えた方が、歳にあった自分の動きができるんじゃないかと思っています。その中で、『本当にあいつ、43(歳)なのか?』っていう動きが出来たら、恰好いいじゃないですか」
──身体を見ると、とても達観した風には見えないです。
「『あいつ、マジか!?』って(笑)。そういうのも自分の中で期待しながらやってます」
──ONEでウェルター級で戦うとのことですが、計量方法が異なります(※ONEは水分値を測定し尿比重を検査、急激な水抜きによる減量を禁止)。
「そうですね。初めてのことなので、大沢(ケンジ・和術慧舟會HEARTS代表)君に聞いて、いろいろアドバイスをもらいながらやらなくちゃいけない部分のひとつです。自分も100%分かっているわけじゃないので、ちょっと面倒ですが、UFCの時の減量(ウェルター級=77kg)よりマシだと思っています」
──いま(試合16日前)何kgですか?
「85~86くらいじゃないですか(※ONEウェルター級は83.9kg)。試合が決まるまでは増えていたというか、脂肪がのっていたのでボテッとしていて格好悪かったです(苦笑)」
娘から『もう試合したの?』ってずっと言われてます(笑)
──お子さん(サランちゃん)は以前、試合をされていたときは物心がついていなかったでしょうけど、いまは……。
「いまは何をやっているのか分かる歳になってきたので、タイミングが合ったらもしかしたら上海に来るかもしれませんし、なんかこう、そういった意味では(試合を)見せてあげたいな、と思いますけどね」
──そういったこともモチベーションになりますか。
「モチベーションというか、嬉しいですよね。単純に見せてあげることができるという。自分の思っていた夢のひとつができてよかったなと思っています」
──試合が近づき、どんな風に言ってますか?
「『もう試合したの?』ってずっと言ってます(笑)。『まだだよ』って言ってるんですけど(笑)。ずっと(家族と)離れてトレーニングしているので」
──ああ、単身でトレーニングに集中しているのですね。お子さんもタレントのお仕事で忙しいのでしょうけど。
「いや、いまはずっと学校と勉強に集中してやっています。妻も彼女に付きっ切りで、自分の仕事をしながらうまくケアーしてもらっています。試合のことに関しては、自分でやっているので、いつ試合をやるということくらいしか伝えていないですけど」
──韓国でのファンの反応も耳に入ってきますか?
「うーん、賛否あると思うので、歳もそうですし、いろんな声も出てくると思うんですけど、そのすべてに耳を傾けるほど自分にも余裕がないので、まずは自分のやることをしっかりやって、勝つか負けるかはやってみないと分からないですし、勝ってどう負けてどうというのは、その後でいいと思っています。まずは目の前のことをしっかりやらないと。そういったことは後でついてくることなので」
──2015年11月が最後のUFCの試合で、それからMMAもいろいろと進化しています。どのように感じていますか。
「面白いな、と思います。また、いい時代になってきたんじゃないかなって。PRIDEがあって、K-1があって、HERO'Sがあった。またいろんなものが出てきて、ONEが出てきた。ファッションとかもそうですが、時代によって回るように、格闘技も回ってきて、ONE Championshipの時代が来たんじゃないかな、と感じています。その波が来たときに、自分がまた乗れているんじゃないかなというのは、ああ、自分にもまだ運があるんだな、とも思いながら……自分が始めたあの格闘技ブームの頃がまた来るんじゃないかという雰囲気はすごく感じますね」
思った以上にみんなデカいけど、自分が納得して試合ができる体重で戦う
──ONEのウェルター級というなかで、アギラン・タニをマレーシアの試合で見たことがあります。思ったより大きくて右のオーバーハンドが強い……そしてそのタニを下したキャムラン・アバソフというキルギスの強豪もいて、その次の試合でアバソフは岡見勇信選手に打ち勝ちました。
「あー、あの力強いヤツですよね。あれ、何なんですか。あれ、ダメでしょう(苦笑)。岡見君が四つに組んで浮いてたんで。岡見君と四つに組んで浮かせられる人はいないですよ、よっぽど力が強くても」
──アギラン・タニも現王者のゼバスチャン・カデスタムと3R戦った選手です。そのタニを秋山選手が浮かせて投げることも可能でしょうか。
「そうですね。彼はどちらかというとレスリング的に下半身がしっかりした選手なので、そんなに柔道技がポンポン決まる選手でもなさそうですが、タイミングを見てできればなと思います」
──王者のカデスタムも含め、化け物ぞろいのONEウェルター級戦線に入っていく気持ちは?
「思った以上に、みんなデカいんですよ。もうちょっとワンサイズ小さいかなと思っていたら、このあいだの(セイジ)ノースカットもそうですし、ノースカットを倒したアイツもヤバいでしょう?(苦笑)。だから、デカいなというのが正直なところです」
──ノースカットを29秒でKOしたコズモ・アレッシャンドリですね。
「あの選手もヤバい(苦笑)。デカいなと見ていて感じましたが、ONEのウェルターで83.9kg、その下が77.1kgで、77kgに行くには減量もしなくてはいけないし、自分の適性体重でしっかり戦えることが、まず第一なんじゃないかなと。変に若い頃のように減量を頑張ってやってというのは辞めて、自分がしっかり動けて納得して試合ができる方が、自分のパフォーマンスもいいんじゃないかなと思ってのウェルター級です」
──その手ごたえはいかがですか。今日は柔道ベースの村山暁洋選手、キックの松倉信太郎選手らとも練習をされていましたが。
「どうですかね……わからないです。さっきも言ったようにもう不安だらけなので(※テレビの取材で「ちゃんと動くのか、ちゃんと打てるのか、スタミナはどうなのか、不安だらけです」と発言)、どうこうと喋れる感じでもなく、ほんとうに頑張れるのかなと。やるからには勝ちたいし、格闘家としてスポーツ選手として負けたくない。そこで不安と行ったり来たりしながら、頑張って練習しています」
──試合でのコーナーマンは?
「大沢君と白川(裕規)さん、韓国からトレーナーがもう一人来て、チームを組んでやろうと思っています」
──20歳違う相手とどう戦いますか。
「そうですね、ほんと。正直、感謝の気持ちでいっぱいです。試合が出来るということは、自分の親にも感謝ですし、この試合を作ってくれたONEにも感謝ですし、パートナーにも感謝ですし、最終的にはやっぱり試合を受けてくれたアギラン・タニ選手に感謝です。それだけしかないです。自分が23のときに43のオッサンが来たら、『なんだよ、コイツ、オッサンかよ』って絶対、言いますもん(苦笑)」
──そのオッサンがびっくりさせる自信もあるんじゃないですか。
「いや(笑)、分からないですけど、こんなオッサンと戦ってくれる彼に感謝します」
──さきほどONEに感謝とも言いましたが、チャトリ・シットヨートンCEOは元ファイターでもあります。チャトリCEOと会って(※「格闘代理戦争2ndシーズン」で秋山が選んだユン・チャンミンが優勝、チャンミンをONEと契約させるために秋山はチャトリと面談した)、どこにシンパシーを感じましたか。
「僕が言うのも失礼ですけど、礼儀正しいです。ちゃんとしています。ファイターに対して感謝の気持ちを持って接しますし、パッションがある。なおかつ人を惹きつける求心力もある。そういった形で選手も取り込んで、ONEが大きくなってきたのが分かります。なるべくしてなった代表だなと思います」
──ファイターとしてONEで骨を埋める気持ちですか。
「そうですね。ONEの試合が日本や韓国で毎週見られるように、スポーツとしてエンターテインメントとして認知される、そのきっかけとなるような存在になりたいと思っています。チャトリとも、韓国、アジアを攻めるためのポストもある程度話をして、リクルート(選手育成)の部分でもやるということは確認しています。アジアを盛り上げる、その役割を担うために、まずはファイターとして頑張らないといけない。これから韓国大会も行われていく予定の中で、自分が出来ることをONEには精一杯、捧げていこうと思っています」