やられた技は絶対に自分のものにする。それが一番手っ取り早く強くなれる(朝倉)
10歳からレスリングを始め、全日本レスリング選手権を3度制している宮田代表は、土浦日大高校時代の米国遠征で初めてカレッジレスリングに触れたという。
「上位入賞者だけが行く高校生の米国遠征で、1カ月間ほどミシガン州に行って、日本選抜対ミシガン州の強豪との試合を続けて、そこでの練習でカレッジレスリングの動きに興味を持ちました。ルールがころころ変わることなく、いつまでも見ていられるルールだし、米国ではすごく人気が高い。コントール重視でスクランブルがMMAに向いていました」
オリンピックレスリングとの大きな違いは、エスケープ・ポイントが設けられていること。
下になっている選手が上になると、テイクダウンと同じだけポイントが入るため、テイクダウンされても抑え込まれず立ち上がることが有効となる。またパーテルポジションで下を選んでも立って向き合い、離れるとポイントが入る。
さらに抑えている時に腕をクラッチすることが禁じられているため、ボディで相手をコントロールする必要があり、MMAになれば、相手の腕をクラッチする代わりに相手の胴などを抱え、空いた手でパウンドを入れることが出来る。そういった点が、MMA向きと言われるゆえんだ。
上半身だけのグレコローマンよりもフリースタイル、フリースタイルよりもカレッジレスリング=フォークスタイルレスリングが、よりMMAでは重視されている。
そのなかで宮田代表は、「MMAはフリーとグレコの狭間、“グレコ・フリー”が出来ると良い」といい、そこに打撃とサブミッショングラップリング(寝技・関節技)、カレッジレスリングのスクランブルなどが「融合」しているのがいまのMMAだ。
もちろんレスリングのみならず、ボクシング、ムエタイ、空手なども同様に個々の競技で通用するハイレベルな技術・武器を持たないとトップに上がれないのが「世界」で、その割合が選手によって異なるところが多様なMMAの醍醐味と言える。
朝倉がその習得を望むのは、GPで勝つためだけではなく、海外勢との戦いを見据えてのものでもある。
「海外でやるなら米国はレスリングが標準装備だから、米国に行って戦うときに、もし打撃で互角や劣勢になったとき、ラウンドマストのジャッジのなかでテイクダウンは必須」と、宮田代表は語る。
この日の練習でもシングルレッグでの足の抜き方、離れ方などもカレッジレスリングの動きをMMA用にアジャストさせてアドバイスした宮田代表。
朝倉は、「宮田さんに教えていただけるようになってからレスリング力がかなりつきました。身体の力だけでやっていたのが、理屈として分かるようになった。スパーリングとかを見てもらって、その都度教えてもらえる。すぐに修正して強くなれる」と、BRAVEでの練習の成果を語る。
宮田代表も「このあいだ教えたがぶりとかもすぐにやっていて驚いた。久保(優太)君もそうだけど、教えがいがある。やったことを反復してから(出稽古に)来てるのか、ほかで試してから来てるのか」と朝倉の取り組みを評価する。
2020年4月の『Road to ONE』では、現LFAファイターの田中路教とのグラップリングマッチで、上からのみならず下からの仕掛けも見せて周囲を驚かせている宮田代表との直の練習も、朝倉の引き出しを増やしている。
「宮田さんにやられてから、帰り道でずっと反省して、なんでやられたのかを考えて、動画を見直して、やられた技は絶対に自分のものにしようと思っています。それが一番手っ取り早く強くなれる。かなりレスリングの技術も向上してきました」と手応えを語る朝倉に、宮田代表も「やりこんでるからね」と目を細める。
「自信を持って戦えます。同階級の日本人だったらまず負けないなと」という朝倉に宮田も「テイクダウンできないものね」と同意。「ほぼされないです」と朝倉は自信を見せた。