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【空手】「メダル無しでは帰れないと思って畳の上に立ちました」──銅メダルの荒賀龍太郎と同期の堀口恭司、それぞれに生きる空手とは?

2021/08/09 15:08

相手が崩れる瞬間を狙う(堀口)


【写真】荒賀道場での谷竜一(左)と弟の荒賀慎太郎(中央)。後方で父・正孝氏が見守る。

 荒賀の父・正孝師範が開設した荒賀道場は、京都の名門。龍太郎の姉・智子が世界選手権で優勝し、2014年の世界選手権・組手男子75キロ級で金メダルを獲得した谷竜一も、荒賀道場の出身だ。

 空手一家で育った“スピードドラゴン”荒賀龍太郎について、世界王者・谷は本誌の取材にこのように語っていたことがある。

「道場には荒賀龍太郎っていう選手が、ずっと自分よりもはるか上にいたんで……。小・中・高・大学と一緒で、高校に入ってからはもう彼に勝てる気がしないくらいで、ずっと彼のような組手がしたいと思っていたほど、空手家として尊敬している選手です。彼と練習していたら、誰も怖くないんじゃないかと思える。ずっと高校生ぐらいからそう思ってやっていました。“荒賀ほどじゃない”って」

 腕立て伏せも腹筋も背筋もスクワットも「何でも速くやる」という徹底したスピードトレーニングが特徴的な荒賀道場だが、ボクシングの動きなども取り入れ、パンチにスウェーだけではなくヘッドスリップ、高速ダッキングなどでかわす動きも見られている。

 そして、フルコンタクト空手とは異なる飛び込み。

「相手が分からないときに足を着いて、身体ごと、同時に拳を出して飛び込む」という荒賀道場の突きは、ときにフェイントで「半分」入って、もう半分を突くときは、最初より2発目のスピードを速くして飛び込むなど、様々な工夫が凝らされている。

 本誌の取材に、世界王者は「互いに向き合っているときはしっかり構えているから、攻撃は入りにくい。では自分は、相手が何もできないときに、つまり相手が反撃できないときに攻撃を決めよう」と考えたという。

 この思考は、堀口恭司の空手の動きにも通じる部分がある。かつて堀口は本誌の取材に、「順序立てて倒すパンチと身体が反応して倒すパンチ、両方がある。順序立てて倒す時は相手が崩れる瞬間を狙っている」と語っている。

 では「相手が崩れる瞬間」をどう見極めるのか。

 堀口は「自分は左右前後にステップする。その時に一瞬だけ相手の反応が遅れることがあるんです。例えば僕が左から右にステップした時、相手もそれを追いかけて身体の向きを変えますよね。その向きを変えるスピードがこっちのステップについてこれていないのが分かるんですよ。前後のステップも同じで、こっちが前にステップした時、相手のバックステップがちょっと遅れたら“あっ、こいつ俺の踏み込みが分かってないな”って思います」と、突きを当てる瞬間を語る。

 その独特の足運びをいかに養うか。

 堀口は、「ボクシングとか足を止めてやる練習を続けていると、足の動きが自分のイメージについてこなくなるんですよ。人間は脳から信号が出て身体を動かす。だから脳に近い手は思い通りに動かせても、脳から遠い足を動かすことって難しいと思っているんです。だから普段から足を動かす練習が必要で、逆に言えば足がちゃんと動けば理想通りの動きが出来ます」と、幼少時から鍛えたステップについて語る。

 龍太郎を育てた荒賀正孝師範は、道場で子供たちのすぐ隣りで世界王者たちが打ち込みを繰り返す姿を見ながら、本誌の取材にこのように語ってくれた。

「音を聞いているからね。龍太郎が床を蹴る音を。それに跳び込むスピードを、子どもたちは目の前で見ている。イメージが残るんです。右でも左でも好きなように構えればいい。あとはそれをそれぞれが再現しようと思えばいいだけ」と。

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