若松「すべてをケージの中に置いてくる」
──コロナ禍でのシンガポール大会は2回目となりますね。ホテルでの生活、試合に向けての調子はいかがですか。
「いつもより直前までリラックス出来ている気がします。いつもだと殺気だって試合のことばかり考えてしまうのですが、普段よりそうでもなくて、怪我もないしコンディションはバッチリだと思います」
──普段と違うとはどういうことですか。
「試合時間はたったの15分だけなので、それに全てを全力、注げるために直前までリラックスしようという感じです。体力残しておこう、そういうイメージです。今までは直前まで試合の映像見たり、自分のモチベーションを上げる動画とかを観たりしていたんですが、普段と変わらず、面白いYouTube見たり、家族とテレビ電話したりしています」
――11月の試合後、マクラーレン選手とやりたいとアピールしたことが今回、叶った形です。
「嬉しいですけど、そんなに甘くない選手なので、“組まれたか、よしやろう”と。トップ戦線において倒さないといけない相手だし、世界で見てもトップランクだと思うので指名しました。望んでいた試合なので、そこはONE Championshipが組んでくれたのはありがたいです」
――2020年の10月のキム・キュソン戦の1R KO勝ちから半年ほど経ちました。どのような成長がありましたか。
「まずグラップリングでコントロールしたり、テイクダウン技術が技術的に伸びました」
――グラウンドを武器とするリース・マクラーレン選手を意識しての練習だったのでしょうか。
「トップ選手はやっぱりグラップリングができるので、ずっと練習していて、前回試合で出せなかったんですけど、試合前からグラップリングでも倒せるように、コントロールできるように練習はずっとしてきました」
――週1回、青木真也選手とも練習しているそうですね。
「そうですね。土曜日の朝に技術練習を1時間半くらいやっています」
――青木教室を続けてどんな変化がありましたか。
「それをやる前まではもっといろいろ技術があって、いろいろなことをやらないといけないのかなと思ったんですけど、毎週やっていくにつれて、どんどん反復になっていくんです。前回やった技とかをやったりする。青木選手のようなトップグラップラーでも、1個の技から応用してとか、そういう風に順序立ててやってるんだなという気付きがありました」
――3月の頭には、トライフォース赤坂にも出稽古に行ったようですが、どのような刺激を受けましたか。
「長南(亮・TRIBE TOKYO M.M.A代表)さんから話をいただいて、ちょうど自分もやりたいと思ってたので、いいタイミングだなと。練習時間が朝早いんですよ。自分の生活スタイルと異なるので、そこも真剣な環境なので、それに向けて前の日の夜に寝れなかったりするし、初めて肌を合わせる選手で強いし、そういう意味でも、試合とすごい近いイメージで出来ました」
――精神的にいい経験になることが多かったと。
「技術的にもやっぱりトップクラスなので、直にいろいろ話を聞けて、次戦に向けてのテクニックがまた増えたりして、すごいいい練習になりました。それに、ああいう緊張感ある練習なかなかないです。ちょっと集中切れたら怪我しちゃう。しっかり集中してやらないと」
――朝倉兄弟との練習後にもいろいろアドバイスを求めたようですね。
「2人とも頭いいなって。知能ファイターなのかなという印象で、自分どっちかと言えば、もう考えないで本能で戦うタイプですが、逆に朝倉選手は試合までこうやってと決めて戦うような選手なのかなという印象を受けました。
強い人には興味があります。遊びじゃないし、戦うのが仕事なので積極的にアドバイスを聞かないと。そこをちょっと盗みに行っている感じです。『俺はこれでいい』と思ったらお終い。必要ないと思ったらやらなければいいし。そこも戦いですね」
――さっそく次戦にも活かせそうでしょうか。
「そうですね。朝倉海選手よりは(マクラーレンが)強くないと思うので」
──マクラーレンの強み、弱みについてはどう考えていますか。
「強みは何でもできるっていうのと、一番強いのはグラップリング能力が高いということですよね。弱みは、(試合の中で)自分が調子良い時は強いんですが、(自分の思っている試合の)型にはめられなかった時が弱点だと思います」
――どのような部分を注意していますか。
「気をつける点は、まあ、どの選手もやっぱり一発当たれば倒す力を持ってるので、グラップラーだからといって、自分のほうが強いという見方じゃなくて、そこ(打撃)もちゃんと警戒して、クリーンヒットをもらわないように、よく見て打撃をやろうと思っています。ただ、試合なので、一発ももらわないで自分だけ当てるというのはなかなか難しいので、もらっても前に出てプレッシャーをかけ続けるというのを意識しています。
あと、最近相手が打撃に自信を持ってるというのは、逆に穴なんじゃないかなというのはあって、彼が前回KO勝ちしてるので、逆にそこに自信を持って来て、グラップリング能力が落ちてたりしたら、逆にラッキーかなというのはあります」
――「前に出てプレッシャーをかけ続けられれば」とのことでしたが、若松選手はちょっと遠目からの飛び込みだったり、キム・キュサン戦も、相手の右の入りに右を合わせていました。マクラーレンが圧力をかけてくるなかで、若松選手もプレッシャーをかけたいと思っているということでしょうか。
「そうですね。あれに対して下がったらもうケージに詰められて、タックルを取られたり、押し込まれたりするので、そこをもう、打ち負かすようなプレッシャーですね。なおかつ、自分の得意分野のステップワークを使って、爆発力も出しながら戦います」
――前回のマクラーレン選手の組み際でのヒザ蹴りをどのように見ましたか。
「まあ、あれは不用意に相手はもらったかなと。あそこはヒザが来る位置なので、たまたまじゃないと思うんですけど、もちろんあれで腰引いちゃったら、もらう。そういうのもちゃんと練習してます」
――相手は打撃、グラウンド、どちらで勝負してくると思っていますか。
「あえて打撃で被弾してもいいくらいで倒しに来て、自分が熱くなったところをテイクダウンや寝技を混ぜてくると思います。自分もただ倒そうとはせずに、でも打撃で受けになってしまわない。
あるいは、僕の打撃をいかに一発でも多く貰わないようにするか。それで組みに来て、テイクダウンして削って、そこで勝とうとしてくる。距離を置いて来る場合は、そこで距離を取らせずに、ガンガンプレッシャーかけて、逃げ腰のタックルみたいなのを入らせたところをディフェンスして打撃で勝つ、そういう展開になると思います」
──マクラーレンはブラジリアン柔術黒帯ということですが、寝技の強化で特に取り組んできたことなどはありますか。
「帯の色は自分にはあんまり関係ないですね。試合になれば裸だし、打撃もあるので。純粋に自信を持って、相手が寝技で勝負してきても関係ないって気持ちで練習に励んできました」
――マクラーレンのテイクダウンに対して、グラップリングの練習もしてきたとのことですが、上久保周哉選手との練習で、相手の寝技に対しての耐性はかなり磨かれたと考えてもいいでしょうか。
「そうですね。まあ、テイクダウンに対しても、受けになっちゃうと、入りやすいところで入られるので、自分からぶつかりに行くような感じで。そしたらさっき言った逃げタックルになるので、そういう練習もたくさんしてきました。グラップラーに対して、逆に前に出て入らせるという」
――なるほど。マクラーレン選手は下になっても時々、足関節からカーフスライサーなどからバックテイクも狙ってきます。そのあたりも想定済みでしょうか。
「あれはまあ、自分もやるんで。ああ、やってくるんだと思ったら、その反応はもう対処できますね」
──相手より自分が優れていると感じるのは?
「スピード、パワーです。あとは、反射神経とかですかね」
――練習仲間の和田竜光選手が2018年にマクラーレン選手と対戦しスプリットで敗れていますが、和田選手からアドバイスをもらったりすることもありますか。
「タイプが似てるので、ここは気を付けたほうがいいよとか、こういうことをやってくるとか、どのくらい力があるかとか、そういう点はちょっと聞いたんですけど、(練習でも)和田選手にコントロールさせなければ勝てると思ってやってきたりもしました。もちろん少しアドバイスをもらったりはしたんですけど、特に一緒に研究したりとかはしていないです」
――若松選手の試合はいつもフィニッシュ、特にKOを狙っているというファンの声が多いです。その部分はいかがでしょうか。
「何試合か、判定も考えてやった部分もあるんですけど、それはちょっと駄目だな、自分じゃないなと気付いたので。1Rから倒しに行くくらいの気持ちで行きたいと思います」
――DJとアドリアーノ・モラエスの試合はどのように考えましたか。
「普通に考えたらDJ勝利でしょうけど、勝ってほしいのはモラエスだと。ダニー・キンガットとかも極めてるし、やっぱりONEを背負って、ONEのチャンピオンが世界で通用するというのを見せてほしいと思いました」
――そのONEで勝ち上がってきた選手を、さらに自分が倒したいと。
「そうですね」
――次戦はもうタイトルマッチをコールしたいでしょうか。
「マクラーレンを倒したらタイトル(マッチを)やりたいです。コロナもあるので試合がいつ組まれるか分からないので、早くタイトルマッチをやりたいです。タイトルやって、また防衛とかでキンガットとかカイラット(アフメトフ)とかが上がってくると思うんで、そのへんを倒したいです」
――今回の大会が、米国のメジャーリーグやNBAなどの放送もしているTNTという放送局がプライムタイムで米国で放送をします。北米のファンに向けて、どんなアピールをしたいですか。
「今まででも一番見られるっていうのは、気合入っています。なのでこれを機に有名になろうかなと思います。こんな小さなアジア人でも、スピリットというんですか、そういうのを感じ取ってもらいたいです。アメリカにないような侍魂を見てほしいです」
――最後にファンにメッセージをお願いします。
「今回すごくキツいファイトキャンプをしっかりやって、怪我もなく万全な状態で迎えられるので、当日は何も考えずに、すべてをケージの15分の中に置いていこうという覚悟で挑むので、皆さん、試合を楽しみにしてください!」