2021年4月8日(木)シンガポール・インドアスタジアムで開催される「ONE on TNT I」に向け、4月6日にグローバル・メディアデーとして、メインイベントのONE世界フライ級タイトルマッチで、王者アドリアーノ・モラエス(ブラジル)に挑む、GP覇者にして挑戦者デメトリアス・ジョンソン(米国)が囲み取材に応じた。
米国のTNTを通じて生配信される同大会に向け、米国のメディアも参加し、ONEでのデメトリアス・ジョンソン(DJ)および王者に向けて、いささか失礼な質問も投げかけられたが、ONEフライ級GPで優勝したDJは、「まだ学生で若い頃、GPを見続けた。家に帰ってDVDでミルコ・クロコップを見たり、ヴァンダレイ・シウバを見たり、ジョシュ・バーネットや桜庭和志を見たり、DREAMのGPではビビアーノを見ていたから、ずっとGPに憧れていた。GPの魅力は、選手がどれだけ人気かは関係なく、階級のトップ16選手を集め、ただただ強い選手が勝ち抜く。チャンピオンになるためには、全員に勝たなければいけない、っていう形式が好きなんだ。グランプリで無い場合、選手が人気であれば連敗していてもタイトルに挑戦できる。木曜日にフライ級のベルトを獲ったとしても、グランプリのベルトは一生俺の“クラウンジュエル”だ」と、GP王者としての誇りを見せている。
対するモラエスもフロリダのアメリカントップチームでタイトルマッチに向けて調整を続けてきた。
「ジョンソンはトランジションがすごく上手いし、グラップリングは一級で、パワーもあり、コンディショニングもハイレベルで、スマートだ。なんでも簡単にこなしている。戦うのが上手いから、本当に良い戦略が必要だ。(ATTの)カテウ・キビスは一緒に良い戦略を立ててくれているし、コナン・シウヴェイラもアイディアを出してくれるし、もちろんマイク・ブラウンは世界最高のコーチの1人だ。その上、自分には堀口恭司やジュシー・フォルミーガなど、現在の世界最高のフライ級ファイターもついている。だから、この試合は素晴らしいものになるだろう」と自信を見せている。
生後わずか数日で、ブラジルの首都ブラジリアの路上に放置され、孤児院で育ったモラエスにとっても、フライ級のベルトは宝物だ。
「僕はONE Championshipに8年間いるから、ONEの旗を守るつもりだ。DJは既にすべてを手にしていて、自分の前に立ちはだかろうとしている。その対価は払ってもらう。それだけだ」。
日本時間の4月8日(木)朝9時30分からABEMAで放送される「ONE on TNT I」は、北米とは異なる市場を戦場としてきた者たちによる、もうひとつのメジャーの戦いだ。まごうことなきフライ級のトップのデメトリアス・ジョンソンと、ONEで死闘を繰り広げてきたアドリアーノ・モラエスのタイトルマッチは、北米TNT生放送の最初のメインイベントとなる。
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34歳で格闘技を長くやっていること、毎日トレーニングをすること、3人の子どもの父親であること──すべてがチャレンジだ
──DJ選手は、これまで輝かしいキャリアを積んできて、今回、ONEのタイトルに挑戦しますね。“チャレンジだ”と、心底感じることは今でもありますか?
「すべてがチャレンジだって感じているよ。34歳でいること、格闘技を長くやっていること、毎日トレーニングをすることも。それにアドリアーノ・モラエスを相手に戦うことは決して簡単なことではないし、挑戦だよ。この階級では身体が大きくてリーチの長い選手だし、この試合ではトラブルを避けながら、どう距離を取っていくことができるかもチャレンジだね。自分のキャリアの一部分ってだけじゃなくて、僕は父親でもあり、3人の子どもを学校に行かせないといけないし、僕にとっては何でもチャレンジだと思うよ」
──160cmのDJに比べ、対戦相手のアドリアーノ・モラエス選手は172cmあります。身長差は気になりますか。これまでも多くの対戦相手はデメトリアス選手よりも身長が高かったと思いますが。
「北米で戦っていた時もみんな大きかったからね。最近の相手で言うとユウヤ(若松佑弥・168cm)も、タツミツ・ワダ(和田竜光・170mc)も高かった。アドリアーノ・モラエスも細かい身長までは分からないけど高いよね。アメリカでも戦っていて、今はアジアにいるけど、それでもみんな僕より身長が高い。でも僕は身長で戦うんじゃなくて、階級で戦っている、フライ級で。それはアメリカでもここでも同じさ」
──モラエス選手はアメリカ内ではさほど有名な選手ではなく、何となくここのMMAコミュニティでは過大評価されているという意見もあります。次の試合の方がレベルが高くタフだというジョンソン選手からすると、モラエス選手は何番目くらいの選手だと想定しますか。
「彼はレベルが高いよ。彼は僕にとって次の最大なチャレンジであることに変わりない。彼がアメリカで知られていないのは、アメリカに向けて戦ってきていないからだろう。僕の名前がアメリカやアジアで知られているのはそこに向けて戦ってキャリアを積んできたからだ。僕は毎回フィニッシュを狙い、それで自分の名前の評価を上げてきたから」
──モラエス選手はアンダードッグと考えられていますが、ジョンソン選手から見て、彼の強みは何だと思いますか。
「彼の持っているグラップリングスキルは素晴らしいと思う。この階級ではすごく背の高い選手でリーチも長い。バックを取ってチョークを極めてきた。逆に自分は背が低く、和田竜光はバックを取ってトライアングルを狙ってきた。それを解くのに3分使ったよ。和田からダメージを受けていないけど、フィニッシュを狙う時間が無くなったな」
──モラエス選手はこの試合に向けて、トラッシュトークも使いました。(「自分はダニー・キンガッドに1Rで一本勝ちしたが、DJはもう少しで一本勝ちをするところだったができなかった」など)。彼のそういった面は少し意外だと思いますが、今までのトラッシュトークと比べたりもしますか。
「彼のキャリアについてはあまり詳しくないし、試合に向けてどのような態度で準備して行くかも知らない。ただトラッシュトークは経験している。まあでも、ジョン・ドッドソンとぐらいかな」
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毎回試合する度に負けるかどうかは悩まない。負けることはこの競技の一部だ
──ONEフライ級は水抜き禁止の135ポンド(61.2kg)、135ポンドの選手と言えば、ドミニク・クルーズ選手とも試合(※2011年10月にUFC世界バンタム級王座戦)しましたね。ドミニクの最近の試合(※2021年3月にケイシー・ケニーに判定勝ち)をどう見ましたか。
「いい感じに動いていると思った。スタイルは変わらず、ヘッド・ムーブメントが多く、フットワークに拘り、今も試合が出来ていて、健康的に見えるから良かったよ。アナリストとしても成功していて、格闘家は短い期間でお金が稼げるから、未だに頑張っているということは本当に素晴らしいことだ」
──世界最強であったとしても、デメトリアス選手は、自分自身に対する一番の批評者でもあると思います。MMAにおいて、どこを改善したいと感じていますか。
「全部かな。総合格闘技では常に上達できる部分はある。試合するのと練習するのは、全く違う。個人的に、もう少しパンチを活用したい。立ち技では、一瞬の隙間の中で打撃を利用しなければならない。グラウンドなら、相手の体力と体重の移し方などで分かる。立ち技では、一瞬の間を見つけ出さなければならないからね」
──負けることの恐怖に追われたことはありますか? オクタゴンに入ったら怖さを感じますか。
「いや。いま“オクタゴン”って言ったよね(笑)。“オクタゴン”の中には一生入らないよ。まあでも、僕には“負ける”と言うより、(重要なのは)パフォーマンスだね。最後、ヘンリー・セフードに負けた時は、自分の中では一番良かったパフォーマンスだった。毎回試合する度に、負けるかどうか悩まない。負けることはこの競技の一部だ。僕も負けたことはあるし、何も変わっていない。世間から“世界最強”と言われても、それも周りの考えだ。自分は、努力していると分かっているし、フライ級のトップであること、そのために、ただただ頑張って練習し続けているだけのことだ。負けることなどにはこだわらない」
──個人のプラットフォームを利用しながら、社会問題に関して声を挙げることはしますか? 特に米国で起きていることについて。それとも、MMAのみでSNSを利用していますか。
「MMAだけだね。自分のSNSは自分のことだけだ。一人ひとりの個人的な意見など、自分のSNSでシェアすればいい。僕の信念などに対しては、別に聞かれたら答える。何か言い間違えたら、直ぐに“アンチ”が来るからね」
──このフライ級にはたくさんのコンテンダーがいますね。フライ級でベルトを取ったら次のステップとして、バンタム級のジョン・リネカー選手との対戦なども頭の中にありますか。
「僕とジョン・リネカーはかつて同じ団体の同じ階級(UFCフライ級)で戦ってきたね。でも彼は僕のチームメートのビビアーノ・フェルナンデス(ONEバンタム級世界王者)に勝てるとは思わないし、それに僕はビビアーノと戦うことに興味はないかな」
──ONE Championshipのニュースを見ていると、ビビアーノ選手の復帰も近いのかなと思いますが。同門としてどう見ていますか
「月に最低でも3回くらいしか会話しないから、彼が変わらず調子良くやっているのかあまり分からないけど、彼は41歳になるよね。良い選手だ。彼も次の試合を楽しみにしていると思うよ。ジョン・リネカーの次の対戦相手のことはよく知らないけど、彼が勝てば対戦するだろうし、ビビアーノはいつでもオファーが来るのを待っていると思うよ」
──今回の王座戦に向け、何度か試合が延期されたことについてはどう考えていますか。
「フラストレーションは感じたけど、それ(新型コロナウイルスの影響)は自分でコントロール出来ることではないから仕方がなかった。最初は去年、中国で試合するはずだった。それからジャカルタに変更された。そして2月にまた変更され、最終的に4月に試合することになった。モヤモヤな気持ちはあったけど、ただただ、自分の目的に集中し続けてきた。早く試合したいね」
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引退したら、子どもたちに「僕は軽量級の中では史上最強だった」と伝えられるように
──ジョンソン選手のONEでのキャリアといえば、これまでもエディ・アルバレス選手と同じ大会のカードに組まれていました。そして今回もそうですね。アルバレス選手の試合について、どんな展開になると思いますか。
「僕はいつまでもエディの味方だ。彼のファンでもあるし、キャリアを長年見てきた。UFCのライト級チャンピオンになった時も覚えているし、ONEデビューでティモフィ・ナシューヒンを相手にタフなアプセットを経験(1R TKO負け)し、フォラヤンに勝って復帰した(ダウンを喫するもリアネイキドチョークで逆転勝ち)。そして、今回はユーリ・ラピクスに挑戦する。今までと違うのは、他の選手と同じ隔離生活、その中で身体を動かし続けるのが課題だ。エディの相手も、今までのライト級より身体が大きい選手と戦っている。155ポンド(70.30kg)で身長のある選手と試合し、いろいろ新鮮だ。ユーリ・ラピクス戦が楽しみだよ」
──2012年の9月からタイトル保持者として9年間ずっと挑戦を受けてきたと思います。今回は、タイトル防衛ではなく「挑戦者」として試合をしますが、特に精神面で鍛えてきたことなどはありますか。
「何も変わらないよ。3Rの試合ではなく5Rの試合に向けて準備してきたってこと以外は何も変わらない。ベルトの種類が変わってもマインドセットは変わらない。ただ試合が違うってだけさ」──ONEのベルトを獲るのは、自分のレガシーにおいて、またはダナ・ホワイトに証明するためにどれだけ重要ですか。
「そんなのは一切関係ないよ。ONEは僕のスキルを認めている。試合で充分見せた。僕はただやるべきことをやる。ダナ・ホワイトに見せること、証明することなんて一切ないさ」
──数年前よりも良い場所にいると思いますか。
「もちろん、そうだ。UFCではやれることは全てやり切ったと思う。もう少し達成しても良かったなと思うのは、2階級でチャンピオンになること。それか、PPVをより多く売ることだね。その2つだけ、UFCでのキャリアを今振り返って、出来たかもしれないね。最終的には、向こうの方から僕の条件に賛成できなかったから、今ここに立っていて、新しい団体でタイトル戦に向かうってところさ」
──ヘンリー・セフードと2回試合し、未だに決着が付かなかったというのを気にしていますか?
「いや、そんなことはない」
──ONE Championshipの最近のSNSで投稿された動画で、ジョンソン選手が「ワールドグランプリのベルトは“クラウンジュエル(宝石がついた王冠)”だ」と言っていたと思います。 今回のONEフライ級チャンピオンベルトを獲ったら、グランプリのベルトより高く評価しますか。
「それは、グランプリに対する感謝だね。成し遂げたこと。若いころ、学生だったころ、グランプリを見続けた。家に帰ってDVDでミルコ・クロコップを見たり、ヴァンダレイ・シウバを見たり、ジョシュ・バーネットを見たり、皆、グランプリを駆け上がっていた。まだプロになっていなかった頃は、DREAMのグランプリでビビアーノを見ていたり、ずっとグランプリに憧れていた。グランプリの魅力は、選手がどれだけ人気かは関係なく、階級のトップ16選手を集め、ただただ強い選手が勝ち抜く。チャンピオンになるためには、全員に勝たなければいけない、っていう形式が好きだ。グランプリで無い場合、選手が人気であれば連敗していてもタイトルに挑戦できる。木曜日にフライ級のベルトを獲ったとしても、グランプリのベルトは一生俺の”クラウンジュエル”だ」
──この試合は、MMA史上最も大きなフライ級の試合になると思いますが、いかがでしょうか。
「当然自分にとっても、とても貴重な試合だ。もしフェザー級のグランプリがあって、僕の身体がそれに対応できるほど健康で、さらにチャトリ(シットヨートン代表)が僕をそこに入れてくれるなら、まあ誰がそこにいるかによるけど、多分できると思う。でも、ビビアーノからベルトは取りたくない。無差別級グランプリで桜庭(和志)を見てきたから、グランプリは本当に好きなんだ。じゃないとただ次の試合を待つだけ。トーナメント表で誰が参戦するか、誰か勝っていくか、いろいろ楽しいと感じるよ」
──MMAファイターの中では、自分をどう評価しますか?
「いつも言うけど、引退したら、子どもに“俺は軽量級の中では史上最強だった”と伝えるつもりだ」
──今回の大会が米国のTNTで生配信されることになり、シンガポールでは午前で試合するとなります。時差の影響はいかがでしょうか。
「午前中に戦う方がいい。試合をするためだけに練習してきて、アメリカのタイム・ゾーンのままで生活している。例えば、昨日のCTスキャンが午後2時だったけど、アメリカの午後11時頃だったから、身体がクタクタだった。毎日午前8時頃に練習していて、アメリカの時間にできるだけ合わせているよ」
──アドリアーノ・モラエス選手が勝利したら、彼は2つの団体で史上最強の一人と呼ばれると思いますか?
「難しいね。俺も『どうして俺のことを史上最強と呼ぶんだ』とたまに聞くんだ。それは『6年間、圧倒的に勝って来たから』とよく言われる。モラエスのキャリアを見ると、彼はベルトを取って、失って、また勝って、また失って、また勝った。チャンピオンでいる間でも負けている。格闘技ファンの意見にもよるし、彼もアメリカのアスリートと対戦していないから分からないね」
──家族とはZOOM(ビデオ電話)で話していますか?
「話しているよ。イースターを祝って、元気そうにしているね」
──135ポンド(61.23kg)の階級は強い選手が多いです。現在、他団体でタイトルを持っている選手たちの中で、一番タフな相手は誰でしょうか?
「恐らくピョートル・ヤンだね。すごいストライキングだよ。ユニークなファイトスタイルだ。前に出て、コンビーションを利用し、スピードもあって、テイクダウンのディフェンスも優れている、そしてパワーも持っている選手だ」
──久しぶりに試合することは楽しみですか。ONEがアメリカで生配信となることで、格闘技ファンはONEについて新しいことを知ってくれると思いますか。
「試合がとても楽しみだ。TNTで試合の中継があることも。色んな選手が参戦し、見所もたくさんあるよ」
──この試合に向けて、練習する期間が長かったと思います。それはジョンソン選手のアドバンテージになるでしょうか。
「まあ、そうかな。コロナ期間でも練習したし、できなかった時は休んだ。気になることは何も無い。最終的には家族を支えるためにこれをやっているから」
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ONE on TNT I 対戦カード ※変更あり、アラゾフ出場
日本時間4月8日(木)午前9時30分「ONE on TNT 1」
▼ONE世界フライ級選手権試合 5分5Rアドリアーノ・モライシュ(ブラジル)王者デメトリウス・ジョンソン(米国)挑戦者・GP優勝
▼ライト級 5分3Rエディ・アルバレス(米国)ユーリ・ラピクス(モルドバ)▼ムエタイ 61.5kg(キャッチウェイト)3分3Rロッタン・ジットムアンノン(タイ)ダニエル・ウィリアムス(豪州)【リードカード】
▼ウェルター級 5分3Rタイラー・マグワイア(米国)レイモンド・マゴメダリエフ(ロシア)
▼キックボクシング フェザー級 3分3Rチンギス・アラゾフ(アゼルバイジャン)エンリコ・ケール(ドイツ)
▼ヘビー級 5分3R“ログログ”オマール・ケイン(セネガル)パトリック・シミッド(スイス)