「いま僕はダウンタイムを噛み締めようと思う」
「敗北が愉快なわけもなく、しばらくは心につき刺さるものだけれど、それがこのビジネスの恐ろしいところ。全ての試合に勝つことはできないし、負けることも勝つことと同じようにこのスポーツ(そして人生)の一部であるということを理解することが最も重要だ。神は常に、その瞬間にいるべき場所に我々の身を置いてくださるのだということを忘れてはならない。もっとこうすればよかったと思い悩むことはできないけれど、そこから学びとって改善して、次はもっと準備を整えて戻ってくることはできる」
2010年からクリーブランド郊外のバレービュー消防署でパートタイムで働くミオシッチは、プロ格闘家である現在も消防士としての職を続けている。フルタイムファイターではない理由を元王者は、「消防士を辞めようと思ったことは一度も無い。辞める理由がないんだ。人助けが好きだし、ファイターとしてのキャリアがどうなるか分からないし、仕事が大好きで、忙しいのが好きなんだ」という。
ESPNの動画で消防署の同僚たちは、救急隊員として働くミオシッチが、地元の女性の命を救った話を紹介している。
ミオシッチが消防署に入って1年も経たないうちに、胸の痛みを訴える女性からの通報を受け、彼ともう一人の消防士が状況を確認するために彼女の職場を訪れたが、現場に到着すると彼女は「気分は良くなり、病院に行く必要が無くなった」と言う。しかし、状態を確認したミオシッチはそれを許さず、少なくとも検査を受けるように説得。救急車の後部座席に共に座り病院に向かったが、その間に女性が心停止。声をかけても返答が無く、ミオシッチは心肺蘇生を開始し、AED(自動体外式除細動器)でショックを与え、彼女を回復させた。その後、心臓切開手術を受けた女性は回復、退院することができたという。
ニュース動画のなかで消防署長は、「医療コールに対応する彼の仕事は下っ端のように見えますが、署内で最も重要な役割を担っています」と、救急隊員としてのミオシッチについて語っている。
オクタゴンから消防署に戻るミオシッチの最初の仕事は決まっている。
「試合後の最初のシフトでは、トイレ掃除をしてもらうようにしています。私たちは彼のためにそれを取っておくのです」(消防士仲間のジェイミー・メクレンバーグ)
心身ともに疲弊したミオシッチが緊張感の高い職場で働き過ぎないように、そして初心を忘れないように、同僚たちは彼に仕事を用意し、“人類で2番目に強い男”は、今回もブラシを片手にトイレ掃除に励むだろう。その腰にベルトが巻かれていない悔しさを噛み締めながら。
「最後になるけれど、フランシス・ガヌーと彼のチームの皆に、十分に勝ち取った勝利を祝福したい。土曜の夜は君たちの夜だった、勝利を味わってくれ! 今は、僕はダウンタイムを噛み締めようと思う。仲間や家族との時間を過ごし、この夏にはこの世界に息子が訪れる……乞うご期待だ。神の御加護を」。
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