2020年11月の試合で拳の脱臼による靭帯断裂で手術、4月25日の『KNOCK OUT』での復帰を目指しているREBELS-BLACKアトム級王者ぱんちゃん璃奈(STRUGGLE)が、自身のYouTubeで「水抜きのプロ:女子キックボクサーの半身浴でのダイエット比較」を公開。ファイターの計量前の減量における「水抜き」で、1日前から「塩分抜き」をした場合と、「塩分抜きをしなかった」場合の比較を行った。
アマチュア時代は「一切、塩分抜きをせずに生ハムとかパスタとか食べた直後に水抜き2kgしていた」というぱんちゃん。プロになってからは、「塩分を摂ると水抜きは出来ないと言われ、塩分をカットして2.5kgとか水抜きをするようになった」という。
今回は、減量をしていない状態でいきなり半身浴をして、塩分を摂っている状態と、塩分をカットした状態とで、どれくらい減量の差があるのかを検証した。
まずは最初に、「昨日、すごく巨大なベーコンとかお菓子とかを食べて、塩分をめっちゃ摂っている日」に、30分程の半身浴で何キロ落ちるかを確認。
ぱんちゃんは、塩分抜き・塩分摂取のいずれも、「コップ1杯の水とブラックコーヒー」を飲んでから半身浴に向かっている。「水抜きするときしかブラックコーヒーは飲まない。半身浴をする前にブラックコーヒーを飲むと代謝が上がって、利尿作用もあるし、便も出やすくなるので、体重が落としやすくなる」という。
ブラックコーヒーは、脂肪分解酵素を活性化すると言われており、ぱんちゃんは実際の減量期にも、このルーチンを行っている。
「水抜きは身体に良くないのでオススメは出来ないんですけど、過度でなく適度な半身浴なら、一瞬体重を減らすためにはありじゃないかと思います。食べ物で500g抜くより、水分で500g抜いた方が早いし、すぐ戻るから楽。身体も小さくならずに済む」と、さっそく半身浴に向かった。
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「長期の体脂肪コントロール」と「短時間での水分カット」
これらのファイターによる試合前の減量は、何人かの選手が実例を挙げて紹介している。「7日で5kg落とす」という堀口恭司も自身のYouTubeで、1日目は水を5~6リットル飲み、2日目は4リットル、3日目は3リットルと、水分を入れながら1日1リットルずつ減らしていく減量方法を公開。「計量翌日の試合までに回復する必要があるため、筋肉を落とすのではなく水だけを落とすとリカバリーが早い」と語っているが、大事なのは「普段から自分の体重をコントロールしていくこと」とも語っている。
堀口が指摘する通り、注意が必要なのは、ファイターの最後の「水抜き」は「体脂肪」が減っているわけではないこと。
水抜きによる体重減は、身体に必要な水分が抜けているだけで、脂肪が減っているわけではない。そして、日常の生理リズムを健康に保つためには、必要量の水分が減ったら、速やかに補給することが、代謝のいい健康な身体を維持する基本と言われている。身体に必要量の水分が不足すると代謝が下がってしまい、水分補給を怠ったり、遅れたりすとリバウンドを起こしてしまうこともあるからだ。
「長期の体脂肪コントロール」「短時間での水分カット」
この2つを併用しながら、ファイターは減量を行っている。筋肉は水を多く含むが、脂肪に水分は少ない。普段の節制が無いと、水抜きの効果も薄い。食事は、低脂肪で良質のたんぱく質を適量摂っていくが、食事面でも注意すべきことがある。「塩分」の摂取だ。
一般的に、塩分は「脂肪燃焼の敵」と言われる。塩分濃度が濃くなると、身体は水分を溜め込み、身体を浮腫ませることで体内塩分濃度を薄めようとする。
また、体内の水分においては、女性にとってはホルモンの分泌によっても変化がある。
ぱんちゃんは、「女性の場合は、生理前と生理後では水分の(身体の)含みやすさが全然違ってきます。数百gくらいは差が出るかなと。一番痩せやすい生理後に(減量を)持ってこれるといい」と、生理時期によって、浮腫みが異なるという。
実際、生理前に分泌が高まる女性ホルモンのプロゲステロンには、水分を体にため込む作用があり、生理後に多く分泌されるエストロゲンは体脂肪の燃焼に関わるとされている。
ぱんちゃんは、初回の「塩分を抜かない」の状態での半身浴前が52.45kgと重め。「生理前で一番太っている時期」と言いながら、バスタブにエプソムソルトを投入している。
「汗の出やすさが全然変わる」と言う通り、エプソムソルトには、経皮吸収されるマグネシウムが含まれており、体内の酵素の活性化と血管の拡張効果により、代謝を活発にすると言われている。ファイターによっては、これに無水エタノールを組み合わせる選手もいるが、過度の水抜きは、身体へのダメージが大きいことが危惧されている。
たとえば、ONE Championshipでは、身体への負担を減らすために、脱水状態となる水抜きを禁止し、北米MMAより実質1階級の体重を上限としている。計量では、体重チェックと尿比重チェックをクリアすることが必要で、尿中の水分値を計るハイドレーション・テストが、試合の2日前と前日に行われている。1日でもパスできないと試合当日の朝に再計量が必要になっている。
塩分を抜いてどれほど力が出るか。水抜きをする時間をどのくらいにして計量をパスし、リカバリーするか。
半身浴は、通常40~41度で行う選手が多いというが、ぱんちゃんは「私はバッと汗を出したいので、いつもの計量前は43度くらいで入っています。常に口の中に水を入れてた方が汗が出やすい気がします。今回はご飯を抜いてないのでしんどい。いつもは汗は水みたいな感じでしょっぱくないのですが……」と、「塩分カット無し」の汗は「しょっぱい」と語り、体重計に乗った。
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減量時の身体のダメージは、選手寿命にも関わってくる
半身浴前に52.45kgだった体重は、51.35kgで「1.1kg」減。「私の場合、塩分を摂っていても意外と抜けるんだと感じました」という結果に。
湯上りに経口補水液を飲み、バナナを食すぱんちゃん。 この動画後、「生理日の半身浴」「生理後で体重が減っている時期に1日塩分を抜いた後の半身浴」を行い、それぞれの数値を検証したぱんちゃん。その結果は、動画にて確認が可能だ。
数値とは別に体感として「塩分抜き無し」と「塩分カット」では、「塩分カット」の方が「そんなキツくない。1日塩分抜いてやったのが一番辛くないですね」と語るぱんちゃん。「やった後の喉の渇きが違う。塩分を摂っていると無理やり水を出しているような感じ。水抜きしてから、計量が終わるまで4時間くらい水を飲めない。(実際の減量では)その4時間の苦しさの差がめちゃめちゃあります」という。
本番の計量時は「3日間くらいかけてちゃんと水抜きをする」とぱんちゃんがいう通り、ファイターたちは、それぞれの年齢や身体やコンディションにあった減量を模索し、計量に臨んでいる。
生理も含め減量に向かうコンディション、食物、排尿・排便、半身浴やサウナの温度や時間、新陳代謝による減量の落ち幅、リカバリー時に身体に入れる食べ物の順番や種類、体重の戻し幅、試合時のコンディション……それらを克明に記録し、データとして蓄積させ、ベストの状態を探るファイターは少なくない。そして、減量時の身体のダメージは、選手寿命にも関わってくる。
どんな選手生活を送り、結果を出すか。ファイターの減量動画は、格闘技にいかに向き合うかを伝えている。