「150年に一人の天才」としてWBC世界ミニマム級王者、WBA世界同級王者に輝いた大橋秀行氏。引退後は、大橋ボクシングジム会長として“ラストサムライ”川嶋勝重、“激闘王”八重樫東、そして“モンスター”井上尚弥ら世界に誇る名王者を生み出してきた。「人生そのもの」といわれる拳闘に、40年以上にわたり携わる大橋会長が、「人間」を語る新連載・第1回。
Q.「目標を達成するには?」
Q. 25歳会社員です。みんな努力はしていると思うのですが、井上尚弥選手みたいに目標を思い通り達成できる人と、思い通りいかない人との違いはどこにあるのでしょうか?
大橋秀行会長「尚弥ほど基本練習をやる選手はいない」
「井上尚弥は世界から”モンスター“と呼ばれる前に、何度も挫折しているのを知っていますか?
確かにアマチュア時代から実績があり、世界戦まで最短で駆け上がり、『強い相手としか戦わない』と公言して、実際に世界レベルの強敵を撃破してのWBSS王座につきました。目標を思い通り達成してきた、と思われても仕方ないです。
しかし、尚弥はロンドンオリンピックに出ていません。高校3年生でタイトルも取っていない。それは、決定的な試合で勝てなかったからです。しかし尚弥は負けた次の日から練習したと聞いています。それは、ボクシングでは常識外れかもしれません。負けた、ということは打たれた、ということです。それでなくとも辛い減量、追い込んだ練習、激しいファイトの後、選手は1~2週間、長ければひと月休む人もいます。
しかし尚弥は年に1~2日しか練習を休まないのです。“激闘王”八重樫東もそんな選手でした。彼は厳しい敗戦後、2日で練習に出てきました。
尚弥や八重樫は、正月も練習しています。彼らは空気を吸うように練習する。尚弥は今でも基本のジャブ、ワンツー、ステップワークを恐ろしいほど練習します。
「基本が大事」はみな分かっています。しかし尚弥ほど基本練習をやる選手はいないと思います。彼は “基本練習のモンスター”であり、それが “世界のモンスター”の本質なのです」
A.「努力を努力と思わない」位になれば、人生のチャンピオンになれる
「努力は生きていく上の基本です。尚弥や八重樫は努力を努力と思っていません。好きだから苦しくてもやる。努力と気づかないほど好きなこと。それを見つける“努力”が大事だと思います」(大橋)
※本コーナーは週1回連載です。
◆大橋秀行(おおはし ひでゆき)1965年3月8日、神奈川県横浜市出身。大橋ボクシングジム会長。現役時代はヨネクラボクシングジム所属として、日本ジュニアフライ級(現・ライトフライ級)、WBC世界ミニマム級ならびにWBA世界同級王座を獲得した。現在は大橋ボクシングジム会長として、川嶋勝重、八重樫東、宮尾綾香、井上尚弥、井上拓真ら数多の世界王者を育成。