【写真】撤収作業に入っていた、大会中止の会場。
2020年8月23日(日)東京・新木場のスタジオコーストで開催予定だった『PANCRASE 317』が、出場選手に新型コロナウイルスの陽性者が出たため中止となった。
大会当日の中止という事態を受けて、パンクラスの酒井正和代表と、リングドクターを務める齊藤直人氏が取材に応じ、今回の経緯を説明した。
【写真】パンクラス酒井正和代表(右)と齊藤直人リングドクター。会場内で消毒作業が行なわれる慌ただしい事態の中、取材に応えた。
齊藤ドクターによると、パンクラスは新型コロナウイルスに対する安全確保のため、興行の1週間前に全選手に対し抗体検査(IgM抗体検査:約1週間前までの間にウイルスに感染したかどうかを判別)を実施しており、さらに大会当日にも抗体検査を行うという二重のチェック体制を敷いていた。
今回の場合、1週間前の検査では全員が陰性だったが、当日の抗体検査で出場選手に陽性反応を確認。さらに現在感染しているかどうかを調べる抗原検査を実施した。抗原検査は結果が陰性でも偽陰性の可能性はあるが、結果が陽性の場合は100%陽性で、選手はこの抗原検査でも陽性だった。陽性反応が出た選手は無症状だったという。
会場ではまだ観客の入場前だったが、陽性者が発覚した時点でただちに密な状態を避けるため選手、セコンドを含めてスタッフを外へ出し、保健所へ連絡。
そして保健所の指示を待ちながらも、「陽性の反応が出た選手が会場内を移動していた」ことから酒井代表、ならびにドクター陣の判断で大会の中止を決断したという(※その後のプレスリリースにPANCRASEは「来場した保健所の担当者から『本日の観客、来場者及び関係者は濃厚接触に当たらないので、今後の検査対象には当たりません』との言葉を頂きました事をご報告致します」)と発表。
陽性となった選手は、事前の抗体検査を実施した大会1週間前から当日までの間に新型コロナウイルス感染症を発症した可能性が高いということになるが、齊藤ドクターによれば、選手の多くは試合の1週間前から減量に入るため、その間に免疫が落ち、感染症のリスクが増すという。パンクラスが1週間前と当日に2度の検査を行うのはこうしたリスクを考慮してのことだった。
酒井代表は今回の事態について「誰が悪いということでなく、まず安全第一でなければいけないので、こういう事態になった以上、興行は行うべきではありませんしこ、れが当たり前だと思いますので、パンクラスとしては興行をやるという選択肢はなかったということです」とコメント。
また選手、ファンに対しては「今日試合ができなかった選手には本当に申し訳ないが、これも選手のリスクを考えての最終的な判断なのでそこは理解してもらいたいです。来場予定だったお客様やYouTubeを通して視聴しようとしてくれていたファンの皆さんにも本当に申し訳ないと思っていますが、皆さんの安全のために今回は中止とさせいただきました」と語った。
齊藤ドクターは今回の対応について「迅速な対応をしたのは当たり前だし必然だと思います。なってしまったものは仕方ないが、感染拡大は防がなければいけない。選手は確かに大変だったかもしれませんが、これが最善の判断で、これ以上のものはないと思います」とコメント。
なお、酒井代表は次回以降の大会については開催の意向とし、「今回もコロナ対策を徹底的にやってきて、それが100%正解かは分かりませんがやり続けることが大事だと思っています。来場者・選手・スタッフの安全を担保しなければいけないので、リスクをとにかく減らすということ。今後についてはドクターと相談しながら円滑にイベントを行えるような形を考えていきたいと思います」と今後も新型コロナウイルスへの対策を模索していく方針を示した。
【写真】選手が上がるはずだったケージ。大会では本戦7試合、プレリム4試合、アマチュア10試合の他、7月20日に開催予定だったFighting NEXUS KDC八王子超人祭り!2020(開催場所の八王子市内でクラスターが発生したため中止)の6試合もスライド開催のはずだったが、2回続けての大会中止となり、計27試合54選手が仕切り直しとなっている(今回中止の対戦カードは、今後の大会に振り分けて行われる予定)。
メインイベントに出場予定だった堀江圭功は開催中止について、「(中止を知った時の状況は)右手のバンテージを巻いてもらった時で、戦闘モードに入った時に聞かされました。言葉が出なかったですね。今日もめちゃめちゃ調子よかったのでそういう意味では残念ですが……しょうがないですね。とりあえずは少し休んで次に向けて頑張っていこうと思います」と話し、対戦するはずだった中島太一については「(ワンマッチでなく)次期挑戦者決定戦として決まっていたカードだったので、相手は変わらないんじゃないかなと思ってまた(中島との対戦を)頭に置いてやっていきます」と、変わらず対戦を見据えていると語った。
多くのイベント主催者にとって、各検査をいかに使い分けるのかが悩ましい問題になっているのも事実だ。
今現在、新型コロナウイルスに感染しているかどうかを知るPCR検査を中心とする遺伝子検査は、感度が高い一方、検査時間が長い、専用の機器と検査に習熟した人材が必要、コストが高いことなどが課題となっている。
“比較的感度が高い”一方、「いま現在」以降に感染しないためには、厳密には、UFCのように選手のみならずセコンドや関係者もイベントまで隔離し、安全な動線を確保する必要がある。
ほかイベント主催者は、「PCR検査を複数回行い、抗体・抗原検査と組み合わせる」「事前に抗体検査し、陽性の場合はPCR検査を行う」などの措置を取っているところもある。
人数制限を採っての有観客のイベントでも選手・関係者だけが、検査をすればよいのか、分かっていないことが多いのがこの新型ウイルスで、リスクを減らすためにできることをどこまで行うのかは、そのイベントの体力次第となる。
今回の大会当日中止により、団体の運用コストのみならず、試合に向けて様々なものを犠牲にしてきた選手たちにとっても大きな負担がかかっている。
今後、withコロナのバランスをどのように取っていくか。日々、変化する感染症対策と経済活動維持の最適解を模索していくことになる。
パンクラス酒井正和代表「8月23日パンクラス317参戦予定だった全選手に、ファイトマネー全額支給とチケット全額返金を致します。試合ができなかった選手の場を確実に提供できるように調整しています。今週中に発表できると思います。」#Pancrase317 #パンクラス #新型コロナウィルス
— PANCRASE/パンクラス (@_PANCRASE_) August 24, 2020
【追記】(2020年8月24日20時33分のプレスリリースより)
ファイトマネーの全額支給とチケット全額返金
「選手及びお客様の安全を第一に考え、開場10分前に中止した「PANCRASE317」につきまして、選手及びお客様へのケアとして、下記の通りお知らせさせて頂きます」
パンクラス代表・酒井正和
「8月23日パンクラス317へ参戦予定だった全選手に、ファイトマネーの全額支給と、チケット全額返金を致します。試合が出来無かった選手の場を確実に提供出来る様に調整しています。今週中に発表できると思います」
◆ファイトマネーは当日出場予定でした全選手にお支払いします。
◆チケット代金は返金致します。当日券をご購入の方は以下をご参照下さい。
返券について
1:券を事務所に9月9日(水)までの必着
2:〒160-0023 新宿区西新宿1-22-2 新宿サンエービル14階 パンクラス「返券係」
3:普通郵便以外を推奨
4:券を切ってあるものは無効
5:振込口座をメモしたものを同封
6:事務所到着から1週間以内に振り込み
◆中止の対戦カードは、今後の大会にて行う予定です。こちらは調整次第に改めてお知らせします。