MMA
インタビュー

【修斗】佐山聡に憧れた父と“野生児”西川大和がついに修斗参戦! 父子鷹の壮大な挑戦

2020/05/27 02:05

西川大和「父から一番最初に習ったことはディフェンス」

――さきほどお父様の武彦さんから、大和選手の育成方法を聞いたたのですが、大和選手ご自身にも、ここまでのキャリアをうかがいます。

「お父さんが最初に、打撃もそうなんですけど、身体を使って、総合格闘技のために身体能力を上げながら、パワーもつけるという方針で、小学校に入るまで習い事的に、柔道とかレスリングの道場に通っていたんです。でも、ああいう団体競技で国から支援もある五輪競技って、考えが硬くて……『将来どうしたいの?』と聞かれて、『打撃も含め、競技を絞らずに全体的にやっていって、将来的に総合格闘技で上を目指せれたらなと思っているんです』と言うと、『それは止めてくれ』と言われたんです。それで、仕方ないなということで、父がもともと修斗で佐山聡さんのジムで練習していた知識を生かして、自分を教えるということになって、マンツーマンの練習が始まりました」

――子どもの頃から、自然のなかで身体づくりに取り組んでいたそうですね。

「そうですね。ずっと、自分では何のためにやっているのか、最初は分からなくて、けっこう厳しいこともあったんですけど、楽しい部分もあったので、遊び感覚でやっていたということはあります。それが今になって、意味があることだったんだと、だんだん大人になって分かってきました」

――中でも、山道を裸足でときに目隠しし、耳栓までして感覚を研ぎ澄ませて歩いた話には驚きました。

「人間って足の裏から刺激が入って成長につながると思うんです。背が伸びるときも、足の裏からの刺激があるでしょうし、運動神経の大半も足の裏と繋がっている。裸足で育ったブラジルやタイの人たちって、すごい身体能力が高いように思います。パッキョオの踏み込みとか、本当に足の指が強くてあそこまで行ったんだろうなと思うと、自分も知らないうちに裸足で歩いていたことで、足の指が強くなったとのは、本当にありがたいなと感じています」

――足の指で大地を掴む感覚はありますか?

「はい、すごく分かりますね。足の指は通常でも開いた状態ですし、前に踏み込むときだったり、ステップを踏むときに、足のグリップで床をしっかり押せているなというのはすごく感じます」

――今でも外で裸足でトレーニングすることはあるのでしょうか。

「練習はほぼ裸足ですね。今コロナで道場が閉まっているので、公園とかで身体を動かすことが多いのですが、草むらとかで裸足でやることは多いですね」

――西川選手にとっては今、流行りの厚底シューズは必要なさそうですね。

「もってのほかですね。厚底シューズなんて履くもんじゃないと思います(笑)」

――それに、目隠しの状態や息が詰まる状態というのは、格闘技の試合においても当てはまるように感じます。

「はい、足の指の感覚だけで道を感じとって。人って目が見えなくなると、今度は音でものをキャッチするようになるんです。それで平衡感覚を養ったり、頭が揺れても動けるように神経を発達させる訓練もしました。学校に入ってしばらくやらなくなるとすごいバランスが取りづらくなっていて。ベアフットやバランスも、こうやって大きくなってまたやりはじめると、だんだん身体の動きも変わってきて、どんどん慣れてきましたね」

身体が分かっているので、パニックにならない

――経験があることで、試合中に息が苦しかったり、追い込まれたときにあまりパニックにならないようになるんじゃないかと思いました。

「やっぱりどの選手でも、パンチを食らったら1回はダウン気味なシチュエーションってあると思うんです。頭が揺れてダメージがあって、息切れしてセコンドの声も聞こえなくなっても、身体がその状況を分かっているので、それほどパニックにならなかったりします。

 それに僕は、そこまで息上げするような、すごく激しい練習とかはあんまりしないんです。息上げの練習をするんだったら、反復トレーニングを何回もやったほうがいいんじゃないかというぐらいで。東京にも出稽古に行きましたが、結構息上げとスパーをしますよね。僕は特にここ最近は、少なくとも1日置きには反復練習をするようになりました。

 4月の緑川(創)選手との試合のときもそうだったんですが、コロナの影響で練習不足だった部分をどうやって埋めるかと考えたときに、試合で打撃でも寝技でも総合でも、大事なシチュエーションって必ずビデオで見返すと生まれている。そのシチュエーションスパー的な動きを反復で1分交代でするようにしたら、すごく効果が現れて。動体視力だったり、反応が早くなってきたんです。そのシチュエーションになっても身体がびっくりしないので、ちゃんと相手の動きが見れるようになる。

 結局KOされるときって、自分が見えないところからもらったパンチで倒れるんです。まっすぐ見えている状態で倒す人って、よほどパンチ力が強い人なので。だから、しっかり見ること。

 今回の対戦相手(木下タケアキ)のこともよく、『どういうふうに戦う?』と聞かれるんですけど、実際試合になってみないと分からない。僕もフルコンをやっていたので、空手の選手で顔面ありに転向したら、ああいう柔らかいスタイルになるというのは分かる。そしてセコンドに大沢ケンジさんがつくでしょうし、何をされてもいいように対応をしていかないといけないなと思っています。

『格闘代理戦争』でユン・チャンミン(韓国)と今回の僕の対戦相手(木下)が試合をしていて、(木下が)金網に詰めて左ハイキックで倒しているじゃないですか。この倒している試合を見ていて思ったのが、ユン・チャンミンが途中まで圧倒していて、途中で木下選手を“大したことねえ”と気を抜いたところでハイキックを食らってしまった。

 あの場面がなかったら、ユン・チャンミンが勝っていたと思うんです。でもああいう場面になっても、僕がハイキックをディフェンスできるとわかったら、何をしてくるか。もしかしたら漬けてくる可能性だってあります。僕と長岡選手との試合やパン・ジェヒョクとの試合で僕がタックルを切られた場面を見て、そんなタックルが上手じゃないと思われてるかもしれないですし」

――西川選手はタイミングのいいダブルレッグが強いですよね。コリアントップチームのジェヒョクはあの試合後、キック戦も含め3連勝している強豪です。

「韓国のKTTの選手って、すごいレスリングが強いんです。監督(ハ・ドンジン)がレスリングの名選手で、パン選手もレスリングがしつこかった。もしこれで、僕が逆にタックルに行ったり、寝技に引き込んだら、びっくりするんじゃないですか」

“寝技”をやらないなら柔術をやってる意味が無いなって

――長岡戦でもクローズドガードを取る場面があって、西川選手は下からしっかり作って草刈りスイープから立ち上がりましたよね。下になることはほぼタブーと言われる近代MMAで稀なタイプだと感じました。

「僕が父から一番最初に習ったことって、打撃でも寝技でもディフェンスが最初なんです。当時から父は、将来的に絶対みんなすぐに立って戦おうとしてくるだろうと言っていたんです。正直言ったら、僕からしたら、立つというのも大事だと思うんですけど、じゃあ“何のために立つ”のか──今のMMAの選手って、柔術が不足している気がするんです。実は東京でも何回か、いろいろな道場で出稽古しているんですけど、それこそ今回の対戦相手が所属する和術慧舟會HEARTSさんにも、何回か練習に行かせていただいて、ほかでも出稽古をしていて感じるのは、グラップリングになっても壁に行きたがる。壁を使って立つのが技術でいまの流れだということは分かるんですけど、でも待てよって。総合格闘技って、それこそ大沢さんの時代だったり、長南亮さんの時代って、ただ立つよりも、下から極めることも多かったじゃないですか。長南さんはアンデウソン・シウバを蟹挟みから内ヒールで極めている。

 何のために柔術やってるのかなって。もちろん寝技の防御のために知っておくことが必要というのも分かるんですけど、“寝技”をやらないなら柔術をやっても意味無くないかな、と思ったんです。僕は中井祐樹さんがいた北大柔道部でも練習していたんですけど、あそこの練習がすごく良くて、総合に似ているんです。草刈りでの転ばせ方、パスガードも。要は、相手にパスされなくて、殴られたり、おでこを斬られたりしなければストップされないので、下になってもしっかりディフェンス出来ることが重要で、そこから仕掛けてバックを取れたらいいんじゃないかなって」

――年齢は関係ないとは思いながらも、17歳とは思えない老成した感じも受けます。たしかに足関節などのトランジッションから相手のエスケープの際でバックを奪ったりすることができればよいと。

「そうなんですよ。パウンドが来るときに、道衣の代わりに腕を掴んでラペラの代わりにしてみたりとか、そういう風にやってもいいんじゃないかなと思って。それで、下からも削って、こちらは体力をなるべく温存しながら、本当にラスト数分で立ち上がって勝負をかけてもいいんじゃないかなって。それで草刈りとかはけっこうやりましたね」

――グレイシー柔術のような考えですね。いまの時間制限がある試合のレフェリングで膠着とみなされず仕掛けがあれば可能なのかもしれません。それで道衣ありの七帝柔道にも通っているのですね。

「僕の練習の大半は、やっぱり打撃と柔術ですね。グラップリングも、道衣あり・無し両方をやっています」

――打撃でもタフさを活かした打ち合い上等と思いきや、距離やデフェンスを大事にしているように感じます。

「この間の試合(緑川戦)も、どちらかといえばムエタイ的で、ムエタイって、自分が食らったら返すのが基本じゃないですか。そういう動きを僕はしなかったので、ムエタイの人からしたらなんで? となったかもしれないですけど、僕は基本的に打たれてバカになりたくないので、顔ぶん殴られて返してっていうのは嫌なので、違うアプローチをしたい」

――サウスポー構えの木下選手との間合いをどう崩すかも見ものですね。

「そうですね。本当に試合になったら互いに何をしてくるか分からないと思います。僕も当てられてもそんなにびっくりしたりしないので、練習どおりに相手の出方を見て動きを変えればいいかなと思っています」

親がかけてくれた時間や愛情を忘れずに、裏切らない結果を残していきたい

――今はライト級でフェザーからライト、ウェルターでも戦いましたが、適正体重をどう考えていますか

「やっぱりライト級ですね。ONEも当日計量になっていって、尿比重チェックで水抜きも出来なくなっているので、それを考えたら、やっぱりライトが一番適切ですね」

――今回の修斗は、選手の免疫力の低下を防ぐため、ONE Cahmpionship同様に、水抜きなどによる体重調整を極力排除した「通常階級より1階級上での当日計量」を実施しますから、通常体重であまり増量していない西川選手にとってはやりやすいでしょうか。

「そうですね。今まで通りライトでやっていたほうがいいかもしれないなと感じています」

――お父様が以前習っていた修斗をバックボーンに格闘技に触れて、今回、その修斗本戦にご自身が出ることについて、どのように感じていますか。

「お父さんはプロレスラーのように無差別級志向だったので、佐山聡さんが作った修斗で戦おうとしていました。身体が大きい人たちとそれで戦おうとしていましたけど、やっぱり身体が小さくて諦めたと聞いています。でも、今になってちょっと父と話したりするんですよね。中井さんや朝日さんだってやってるし、やっておけば良かったよねと。でも、その代わりに僕がこうやって活躍できているのも父親のおかげなので、巡り巡っていいのかなと。

 それで今回、こうして修斗の試合に出られるのはすごく光栄で感謝しています。坂本(一弘)代表、長南亮さんらにお世話になってABEMAでも放送される。やっぱり日本でUFCやONEに行きたいとなったら、修斗やPANCRASEに出て活躍しないといけないことは分かっていたので、これまでのGRACHANなどでの実績や、前回の『Road to ONE:2nd』での試合で、ライセンスを持っていなかった自分を修斗に出していただけることに感謝しかありません」

――いい結果を出して、修斗に継続参戦していきたいという気持ちもありますか。

「そうですね。海外でも練習したいです。いまはコロナで動けませんが、フィリピンのチームラカイでも練習をしてみたいですし、結果を残して……いつかタイトルマッチに。できれば来年の初めくらいにはたどり着けるようにやりたいなと思っています」

――大きな目標を抱いていますね。その先に、ONE ChampinshipやUFCという舞台を目指していると。

「はい。行きたいです。世界に行って格闘技で食っていきたい。そういう舞台で活躍して親孝行をしたいです。親がかけてくれた時間や愛情を忘れずに、裏切らない結果を残していきたいです」(※次回、空手家「木下タケアキ」インタビューに続く)

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