2025年8月16日(日本時間17日)米国シカゴで開催された『UFC 319: Du Plessis vs. Chimaev』(U-NEXT見逃し配信)で、朝倉海(JTT)が古豪ティム・エリオット(米国)に2R ギロチンチョークで一本負け。帰国した朝倉はYouTubeに『UFC319試合を終えて』を投稿し、「1R終盤に眼球を潰され、2Rに打撃の距離感がおかしくなった」こと、フィニッシュは「自分のミス」と語り、今後についてバンタム級転向を示唆。リリースの可能性も語った。
「今回の作戦は普通にもう打撃勝負、やっぱりティム・エリオットはレスリングだったり、寝技の部分が得意なんで、あえてそこで勝負する必要ない」と、1Rから右ジャブを突いて左ハイをクリーンヒットさせた朝倉だが、被弾しながらもその蹴り足を掴んで倒すのが得意なエリオットは、右足首を掴んで左で腰を抱えてテイクダウン。そのままサイドを奪い、左で朝倉の首を抱えて枕に。左肩を朝倉のアゴ下に入れて圧力、右手で腰抱き、背中を着かせた。
残り30秒、エリオットは、右で脇を差し、ニーオンやクルスフィックスも狙いながら、左枕を解除して左ヒジを朝倉の顔面に落とすと、朝倉のブリッジに、再び左枕と脇差しの右手をクラッチして押さえ込みに。
朝倉は残り時間を考えてか、マウント防御のために右足を左足にかけて立てて、マットへの接地は左足のみに。
この際でエリオットは、アゴを朝倉の顔左半面につけて、右に向かせて頭をマットに着けさせている。顔を横に向けられ、首を殺され、起き上がりにくい朝倉。細かいが理にかなった圧力。それを嫌った朝倉は下から右手でこつことエリオットの側頭部を叩くと、両手はクラッチしたまままのエリオットは、アゴを使って朝倉の顔面へのプレッシャーを強めて寝かせて、残り10秒の拍子木に声を上げてのエルボー。そのスペースで朝倉は上体を立てて両手を着いて立ち上がっている。
この際の攻防で、朝倉は左目を傷め、2Rに「ちょっと見えづらくなっちゃって。2R目からちょっと打撃の距離感がおかしくなっちゃった」と吐露する。
「残りが1分ぐらいだったのかな。だからそこは普通にもう体勢をキープして終わろうみたいな感じだった。それも良くなかったんだけど、しっかりそのフレーム作って戻してとかもやれば良かったんだけど、そこは凌いで。その時に顎で眼球を潰されたんよね。ティム・エリオットの技術というか、テクニックなんだけど、そこで左目がちょっと見えづらくなっちゃって。2R目からちょっと打撃の距離感がおかしくなっちゃって──それを言うとなんか言い訳みたいな感じになるんだけど、(かなり結膜炎で腫れてた)そう。そこで少しリズムを崩されたなっていうのがあったけど、1Rは自分のペースでできたのかなっていう印象だし、2R目から少し倒そうとしすぎて、攻撃を力んでいた部分は多かったけど、基本的には自分のペースで進められてたかなっていう感じだった」「でもやっぱり後半ちょっと力みが大きくて、そこに合わされてタックル入られちゃったから、そこももうちょっと冷静に戦えてたらなっていうのは、すべて“たら・れば”なんだけど、やっぱ(相手が)上手かったかなって」(朝倉)
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ギロチンは何回も口酸っぱく言われてた
1Rのジャッジは3者ともに朝倉を支持。しかし、1R終盤にテイクダウンで押さえ込まれ、左目の影響もあり距離感が狂った朝倉と、テイクダウンプレッシャーもかけるエリオットは初回で間合いを掴んだか、2Rに距離は近くなっていた。
フィニッシュは、半身のエリオットが誘い込こんだところに、朝倉が左フックを前がかりで強振。そこにエリオットがカウンターのダブルレッグで、マット中央でクリーンテイクダウンを奪った。ここで立ち上がりに行った朝倉、その際をエリオットが得意のギロチンチョークを狙うことは研究済みで、セコンドの柔術家・竹浦正樹と極められないように「何十回、何百回ってやってきた動き」だったという。
「2R目、ガードから起きてくるところで、ティム・エリオットがギロチンが得意なのも知ってたし、本当に竹浦さんとかもすごい分析してくれて、あの練習も本当に何十回、何百回ってやってきたところで、何回も口酸っぱく(注意点を)言われてたところで、本当に練習ではもうできてて絶対に……だけどなぜか本番で失敗してしまったというか、完全に自分のミスというか、そこはセコンドが悪かったとかじゃなくて、もう純粋に自分がミスしたなっていう、そこでやられたなっていう、それに尽きるかなって思います」と振り返る朝倉は、打撃トレーナーの小倉將裕の分析も「100%じゃないけど、ある程度できてて、実際にほとんどもらってはいない。自分がちょっと大振りに少し単調になっちゃったりしていた」とし、「コーチたちが叩かれるのは違うかなって」とセコンド陣を庇った。
一方のエリオットは、試合後、「全体的なプランは、1R目を突破できれば、この試合は勝てる。そして、2R目でサブミッションを極めることだった。そして、まさにそれが起こった。いつもそうなるわけじゃないし、特に俺にとってはね。俺は計画が上手い方じゃない。俺は“ファイター”だ。楽しんでいるし、ミスを犯すこともある。俺はコーチにとって夢のような存在で。あなたの言うことを聞き、信頼し、何でも従う。でも同時に、コーチの悪夢でもあるんだ。なぜなら、俺は戦うことが大好きで、馬鹿なことをしてしまうから。それはただ、俺がそうしてしまう。
それにもう一つ、俺はそれほど上手じゃない。俺はファイターで、戦うことが大好きだけど、技術的にはそれほどしっかりしていない。俺には何か違うものがあり、この試合でそれを示すことができたと思う。そして、海は俺よりも優れたマーシャルアーティストで技術的なファイターだが、MMAは“誰が最も優れているか”ではなく、“誰がより上手く組み合わせられるか”、“誰がゲームプランを機能させられるか”だ。俺は土曜日にそれを全て実現することができた」と、アスリートとしては朝倉が優れていたものの、MMAファイターとし、いかにゲームプランを遂行し、様々な要素を“組み合わせるか”が重要だと語った。
朝倉は一時は、格闘技を続けることに疑問も抱いたという。
「正直、自分の中ではもう本当に勝てる自信があったし、まあ“ここで落とすか”と、もう自分の中で本当にがっかりしたし、自分に対してがっかりしたし、本当に情けない気持ちでいっぱいです。本当に試合終わった瞬間はなんだろう……もう“このまま格闘技続けてもいいのかな”とか、“本当に自分にもう才能がないんじゃないかな”とか思った」と吐露するが、「でも自分の格闘技人生を振り返っても、ずっと勝ち続けてきたわけじゃないし、大事なところで負けることも多かったと思うし、それでも色々考えたり修正して何度も立ち上がって勝ってきたんで、諦めずに続けていくしかないかなっていう風に今、心を決めてまた頑張ろうと思ってます」と、現在は前向きになっている。
2012年にDEEP浜松でプロデビューしてから、今回がキャリア初の連敗になる。
「格闘技始めてプロになってからは連敗したことなかったから本当に落ち込んだ。でも、ここで諦めたらもう終わっちゃう。挑戦し続けて、また勝っていけば失敗が失敗じゃなくなる」という朝倉は、今後について、「階級の話もちょっと考えないといけない」と、フライ級からバンタム級に戻すことも検討していくと明かす。
「自分の身体で感じてることもすごいあるんで、フライ級でこのまま行くのか、バンタム級に上げるのかっていうのもちょっと考えて、チームのみんなとも相談しながら、しっかりそこをまず決めたいなと思ってます」と、フライ級が適正階級なのか、バンタム級時代と比べて「出力」が落ちていないか、検証して考えたいとした。
UFC2連敗となれば、リリースの可能性も出てくるが、朝倉は「UFC連敗でリリースされてる選手もたくさんいるし、俺も最悪リリースされちゃう可能性も全然あるから、そうなったらしょうがないというか、また考えるしかない。階級をもし変えるってなるとその(リリースの)確率も上がっちゃうと思うし。そうなったらまた(UFCに)戻るためのことを考えるしかないし、そこはちょっと、UFCが決めることなんで何とも言えないけど、その可能性も全然、頭に入れとかないといけないなって」と、必ず3試合目があるとは考えていないと気を引き締めた。
「練習環境とか練習内容とかも含めて、早速今、竹浦さん、オグちゃんとかとも話し合ってる最中で、方向性をしっかり決めて、もう本当にもっと成長していかないと、もっと強くならないと勝てないと思うんで、しっかり強くなって、戻ってきたいと思いますんで、また、応援してもらえると嬉しいです」と、復活を語った朝倉海。10月に32歳を迎え、MMAファイターとしてはこれからがプライムタイムだ。
朝倉の盟友で元RIZIN王者のマネル・ケイプも、フライ級に転向したUFC初戦で当時5位のアレッシャンドレ・パントージャと対戦し、判定負け。2戦目もマテウス・ニコラウにスプリット判定で敗れ、2連敗を喫している。しかし、そこからUFCにアジャストして実力を発揮し、4連勝。連敗後に6勝1敗で1位ブランドン・ロイバルとの試合を決めていた(※怪我でキャンセル)。
朝倉に、UFCで「3度目の正直」のチャンスは来るか。そしてその階級は? フライ級、バンタム級のライバルたちは以下の通りだ。
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UFCフライ級とバンタム級ランカーとは?
◆UFCフライ級ランキング(8月21日付)※選手名から前戦
王者 アレシャンドレ・パントージャ1 ジョシュア・ヴァン2 ブランドン・モレノ3 ブランドン・ロイバル4 アミル・アルバジ5 平良達郎6 カイ・カラ・フランス 7 マネル・ケイプ 8 アレックス・ペレス 9 アスー・アルマバイエフ10 ティム・エリオット11 スティーブ・エルセグ12 タギル・ウランベコフ13 ラマザン・テミロフ14 ブルーノ・シウバ15 チャールズ・ジョンソン
(※以下、主なUFCフライ級ランキング外選手)堀口恭司朝倉 海ジョセフ・モラレスマテウス・ニコラウネイト・マネスアンドレ・リマアラン・ナシメントパク・ヒャンソンオデー・オズボーン鶴屋 怜ロニー・ カヴァナクレイトン・カーペンターフェリペ・ブネスホセ・オチョア
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UFCバンタム級ランキング(8月21日付)
王者 メラブ・ドバリシビリ1 ショーン・オマリー2 ウマル・ヌルマゴメドフ3 ピョートル・ヤン4 コーリー・サンドヘイゲン5 ソン・ヤドン6 デイヴソン・フィゲイレード7 マルロン・ヴェラ8 マリオ・バティスタ9 ロブ・フォント10 エイマン・ザハビ11 ヘンリー・セフード12 ヴィニシウス・オリヴェイラ13 マーカス・マギー14 カイラー・フィリップス15 モンテル・ジャクソン
(※以下、主なUFCバンタム級ランキング外選手)パッチー・ミックスブライス・ミッチェルペドロ・ムニョスジョナサン・マルチネスクリス・グティエレスペイトン・タルボットフェリペ・リマジェアン・マツモトシャルル・ジョーデインデイビー・グラントハオニ・バルセロシュファリド・バシャラートリッキー・シモンサイード・ヌルマゴメドフダニエル・マルコスダモン・ブラックシアマイルズ・ジョーンズムイン・ガフロフコディ・ガーブラントベクザト・アルマハンビクター・ヘンリーハファエル・エステバムブレイディ・ヒースタンドセリー・シディエイドリアン・ヤネス中村倫也風間敏臣