昔と違うのは、今は誰もがオールラウンダーになってること
──名前の下に「ナイスガイ」って書かれてたんですが、実際に入ってきたときに「ヒゲかっこいいね」って言ってくださって(笑)。あなたは、UFC史上いちばん“いい人”と言われてますけど、オクタゴンの中ではまるで別人のように戦う。これって切り替えてるんですか? それともバランスとして両方ある感じですか?
「うーん、スイッチって言えるのかどうか……。自分はもう27年この格闘技の世界にいて、何をしなきゃいけないかは分かってるんです。オクタゴンに入ったらビジネスですから。もちろん中には、ジェフ・ニールの足をうっかり踏んで倒れちゃったときみたいに、“いや、それは正当じゃないな”って思って“立つ”って言ったこともあるんですよ。でも、ケビン・ホランドに初回で思いっきりもらったときは…そのときはスイッチ入りましたね(笑)。
だからまあ……はい、やっぱりスイッチ入りますね。頭の中には“ここまで一緒に準備してくれた仲間たち”のこともありますし、背負ってるものもありますし。だから、やるべきことをやる、それだけです」
──27年格闘技をやってきて、最年長のUFCファイターとなった今、トレーニングキャンプに対する考え方はどう変わりましたか?
「気持ちは今も変わってないです。でも、練習の仕方はかなり変わりましたね。15歳でキックボクシングの試合に出た頃なんて、何本練習しても疲れ知らずで、ずっとフレッシュでいられたんです。でも今は、自分の体の声をちゃんと聞かないといけない。練習よりもリカバリーに時間をかける。フィジカルセラピー、マッサージ、アイスバス……とにかく“”怪我せずにファイトウィークをむかえる”っていうのが今の目標です。前回、バックリー戦では首を痛めて左半身が効かなくなって、スパーできなかったんですよ。重りも右は110ポンド上げられてたのに、左は40ポンドすら持ち上げられなくて。だから今回は、信頼できる仲間たちと、ちゃんとケアしながらやってきました」
──年齢についての質問もありましたが、どう感じてますか? 特に今も速さを感じることはありますか?
「いやー、正直、自分は年齢のことあまり考えないんですよね。気持ちは25歳の頃と変わってないし、回復は遅くなったけど、スピードもキレもまだまだいける。バックリー戦でも調子は良かったんです。ただ、一発もらっただけで。ただ、昔と違うのは、今は誰もがオールラウンダーになってることですね。昔はスペシャリストが多かった。アンデウソン・シウバは打撃、デミアン・マイアは柔術、みたいに。今は、誰もが全部できる。ローリー・マクドナルドが“全局面強い”って言われてた時代から、今はそれが当たり前になってる。自分もまだ進化し続けてるし、新しい世代とやることで、それを実感しています。でも彼らには“勝ちたいなら、自分に勝て”と思ってます。それだけの価値がある相手になりたいんですよ、自分は」
──ほかのスポーツと違って格闘技は個人競技ですが、それでも“後進にバトンを渡す”意識はありますか?
「もちろんありますよ。オクタゴンの中でも外でも、それはできます。自分は良いファイターとしてだけじゃなく、良い人間だったと思われたいんです。たとえば今回、ガブリエル・ボンフィムに負けたら、それは彼がちゃんと勝ち取った結果だと思うし、それを讃えたい。でも同時に、自分自身を試すチャンスでもあるんですよね。タイトルは今すぐ手が届くところにはないかもしれないけど、常に心の中にはあります。でも一番大事なのは、“自分がどこまで強くなれるか”。そのためにキャンプを積んで、若手と戦って、自分のスキルやメンタルを磨いていく。それが今の自分の挑戦です。そして、その挑戦の中で、彼らに“今の自分”をぶつけることが、自分なりのバトンの渡し方だと思ってます」




