MMA
インタビュー

【Bellator】“なんか見えないんだよな”と思って──2度の網膜剥離から復帰戦の菊入正行「やっと“仕事”に出来た格闘技を簡単には辞められなかった」

2024/09/07 09:09
 2024年9月7日(日本時間8日)米国カリフォルニア州サンディエゴのペチャンガ・アリーナで開催される『Bellator Champions Series: San Diego』(U-NEXT配信)に、菊入正行(NEVER QUIT)が出場し、ハーマン・テラド(グアム)と対戦する。  2023年4月のBellatorデビュー戦で、アレクセイ・シュルケヴィッチを右ストレートでKOに下し、海外メジャーでのステップアップが期待された菊入だが、試合後、網膜剥離を2度発症し、2度の手術を経て、1年5カ月ぶりにサークルケージに復帰する。  目が見えなくなるなか、何度も格闘技を諦めかけた菊入を再びマットに向かわせたのは、格闘技を職業にした、意地だった。 手術から3カ月後にグラップリングの練習から始めた ――サンディエゴの今は練習後ですか。 「今ちょうどちょっと動いて終わったところです。夜7時半頃で。現地入りしての調整で、安藤(晃司)代表にミット持ってもらったり、ちょっと打ち込みやったりという感じで。安藤さんがずっとファイトキャンプ中も持ってくれました」 ――サンディエゴだと直行便か、ロサンゼルス経由ですか。 「いえ、ハワイで乗り継ぎをして、ハワイまでが7時間とか8時間とかで、そこからサンディエゴまで4、5時間という感じですね」 ――結構かかりますね……。そちらがいま水曜日で現地の土曜日(日本時間日曜日朝7時)に試合で計量もある、時差はもう治りそうですか? 「いや、けっこうキツいですね。今日とかもめっちゃ眠かったですね(苦笑)。体重はもうあと4kgなので、部屋に湯船があるので、ちょっと動いて、動いた後に半身浴で落とそうかなと思っています」 ――時差ボケもあと3日で戻るといいですね。さて、菊入選手にとってBellatorに1年5カ月ぶりの復帰戦となります。その間、Bellatorの状況も変わり、怪我もあったと聞きました。ここまで、を教えていただけますか。 「去年の7月に試合が決まりそうだったので、タイに練習行こうと思ったんですよ。旅立つ2日前くらいに髪切ってたら、“なんか見えないんだよな”と思って。それでもう自分は1回、網膜剥離を経験してたので……分かったんですよ。あれだって」 ──いつやったのかは思い当たりましたか? 「いえ、何でなったとかはまったく分からなくて……いきなり本当に“なんか見えにくいな”みたいな感じで最初気づいて。網膜剥離だと分かってたんで、そこから手術をして、練習に復帰したのが9月の終わりくらいだったと思うんですけど。そこで練習してたときに“あれ? パンチ見えないな”と思って。それでまたやってるかなと思って、1回近くの眼科に行ったら『剥離してない』って言われたんですけど、ちょっとあまりにもおかしいなと思って、ちゃんとした有名な先生に見てもらったら、『いや、網膜剥離してますね』という感じで、すぐ手術みたいな感じになって、で、1月に手術しましたね」 ――それは、大変でしたね……。網膜剥離の手術というのはどんなやり方なんですか。剥離しているわけだから……。 「2種類の手術方法があって、一つがバックリンク手術といわれている、シリコン素材のバックリンクのベルトかぶせて網膜を一緒に縫って治すというやり方で、もう一つが硝子体手術といって、中の硝子体を全部取って、そこにガスを入れて、そのガスの力を使って網膜をくっつけるみたいな。それはもう両方やってるんですけど」 ──2つの手術方法を同じ目に……。手術後は対人でコンタクトする練習はやらずに? 「そうですね。硝子体手術をして1カ月間はもう絶対安静で、2週間はもう下向きの生活を送ってないといけないんですよ。だからずっと下向きで寝てました」 ――ガスを入れると上向いてしまうと問題がある? 「重力の関係で、網膜にガスをあてるために下を向いてないといけなくて、寝る時も穴あき枕を使って、座っても下を向いていて……」 ――ずっと地面を向いて暮らしていた。うつむき姿勢が続くと何というかちょっと暗い気持ちになりそうですね。 「なりますね(笑)。もうちょっとあれは経験したくないです」 ――安静期間もあって練習もできない。しかもあまり目を酷使するわけにもいかない。見取り稽古などもできないわけですね。 「そのときは、いったん格闘技のことは忘れて、もう一切触れずに過ごしてました。手術をして1カ月後に、一応筋トレとかはできるようになったんです。少しフィジカル的なところから最初はやって。やっぱり(網膜剥離は)2回目だったので、練習でも打撃が顔に当たったりするのがどうしても自分的には怖かった。なので3カ月経ってからグラップリングの練習だけ始めました」 ――組み技から再開した。そのことで菊入選手にとって良かった点は? 「ノーギをやっている人とMMAファイターのグラップリングってちょっと違う部分があるので、そういうところで寝技の勉強ができました。たとえば、普段自分はあんまり足関とかに触れないんですけど、そこに触れてみたり、下からもやって下の技術が身につけたり、どこかで役に立つことがあるかもしれないと」 ――そして、打撃練習を再開できたのが……。 「本当に今年の7月くらいからなんです。そこに試合のオファーがきた。なので、試合が決まるまで打撃の練習はほぼしてなかったという感じですね」 ――怖さもありながらも再開し、初代Krushミドル級(75kg)王者のブハリ亜輝留選手との練習模様も拝見しました。 「はい。もうずっとやらせてもらってます。元々、自分の出身が千葉でキックボクシングをやっていたので、その千葉のプロ選手のキックのコミュニティの縁で、亜輝留くんとスパーリングさせてもらって、体重も近いし、もう身体もすげえ強いので、同じくらいの打撃ができる人たちって少ないから、試合前はとくに亜輝留くんとスパーリングさせてもらってますね」 ──MMAではNEVER QUITのほかにも出稽古も? 「試合前はいつもアライアンスに行かせてもらって、ほかにはCARPE DIEM青山で世羅智茂さんたち、普段の柔術では頂柔術で礒野元さんから教えてもらってるという感じですね」 [nextpage] 自分のやるべきことをやる ――ストライカーのイメージが強い菊入選手ですが、NEVER QUITは組み技の猛者揃いで、寝技もやり込んでいるのですね。今回のハーマン・テラドは、分厚い身体から繰り出すフック系のパンチャーですが、バレット・ヨシダの黒帯ですし、腕十字、チョークなどの極め技も持っています。どう捉えていますか? 「テラドはもちろん寝技はできるとは思ってるんですが、まずやっぱり下にならないことを一番に考えていますね。あとは、力が強いので、極め力があるなという感じで、しっかり相手がやってきそうな技の対応をファイトウィークのときは考えてやっていました」 ――スタンドでもオーソですが、左の前手のフックなどけっこう振って来るイメージです。 「ただ、どれくらい打撃が速かったり重いのかというのは、向かい合ってみないと分からない部分もあるので、それはもう試合で探り探りでやるという形でいこうかなと思っています」 ――この試合が決まるまでの間、PFLがBellatorを買収して、選手たちの行き先も不透明な時期もあり、菊入選手の試合もなかなか決まりませんでした。ちょうど怪我をしていた時期でもあったのですね。その両方の要因で「待たなくてはいけなかった」時期をどう感じていましたか。 「試合自体のオファーは主催者側からは『いついける?』 みたいな感じのはあったんです。でも、ちょうどタイミングが悪すぎて、試合が決まりそうとなったときに入院してしまうというもどかしさというか、試合はもう目の前にあるのに自分が怪我で遠ざかっていってしまうという……だから、途中でもう、ちょっと格闘技を続けるのはキツいかなとも思ったんです。もちろん生活的にもキツかったというのもありました」 ――話せる範囲で構いませんが、ほかにもお仕事をされたりしているのですよね。 「普段は……何て言えばいいんだろうな。普通に正社員で働いてるんですけど、だいぶ優遇させてもらって、本当に格闘技に集中できるような環境で仕事をさせてもらってるんです。でも、そこで試合が決まらないってなると、やっぱり助けてもらっている人に対してすごく申し訳ない気持ちにもなりますし、周囲に本当にすみません、とずっと思っていました。あとNEVER QUITでも指導員として働いているので、そういう仕事もやっぱり網膜剥離になると出来なくできなくなってしまう。ダブルパンチというか、このままではキツいな、と考えていました」 ――このまま格闘技で、ファイトマネーも入ってこなくて、しかも怪我も続く中で、どうやってモチベーションを保って次に向かおうとやってきましたか。 「半分意地みたいな感じですね。うまく表現できないですけど……これが“仕事”だと、やっと格闘技を仕事にできた、趣味から仕事にできたというか。なので、仕事って、たぶん普通の人、そう簡単に辞めないじゃないですか──まあ、今のご時世すぐ辞める人もいると思うんですけど──でもやっぱり、好きでやってた趣味を仕事にできているので、それはなかなかないことだと思うので、やっと仕事に出来た格闘技を簡単には辞められない、そういう思いが湧いてきたというか」 ――プロフェッショナルファイターで生きていると。 「生活できるほどではないんですけど、それでもやっぱり、メインが格闘技で勝てば多くのお金が入ってくるわけで。収入の一部、安定はしないけど、これで稼いでいるので」 ――前回がKO勝ち。PFLのシャミル・ムサエフについて投稿しているのを見ると、Bellatorで連勝して、PFLリーグ戦のなかでも戦ってみたいという気持ちもありますか。 「PFLのリーグ戦は……難しすぎて(笑)。あのポイント制というのが、どれだけ早く試合を決められるかというか。出られるんだったら出るかもしれないですけど、いまは決まった試合を勝つことが大事で」 ――Bellatorでまだメインカードクラスではないなか、勝ち星を積み上げていけば、ウェルター級で上でやっていくチャンスも生まれてくるかと。 「そうですね。しっかり今後も勝てばいいカードを組んでくれそうな気もするので、落とせる試合なんてないですけど、必ず勝って次に繋げようという気持ちでいっぱいです」 ――さきほどテラド選手にインタビューしたんですが、「あいつはNEVER QUITだけど、俺もNEVER QUITだから」って言ってました。 「間違いないですね、それは俺も(笑)」 ――互いに辛抱合戦になるかもしれないですが、後手には回りたくない相手ですよね。 「そうですね。ちょっと後手に回っちゃうとガツガツこられるのかなと思うので、なるべく自分からペースを掴みに行きたいですね」 ――ズバリどんな試合になるでしょう。 「おそらく打撃戦にはなると思いますね。彼も振ってくると思うので。俺はそれを避けて、自分のリーチでしっかり戦うという、自分のやることをやる感じの試合になると思います」 ――日本から応援するファンにメッセージをお願いします。 「ここまでたくさんの周りの人たちに助けられました。前回の試合が終わって、僕に期待してくれた人たちも多く、その期待に応えたいという気持ちです。やっと戻って来れたので、しっかり俺のKO勝ちをU-NEXTで見てください。よろしくお願いします!」
全文を読む

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.334
2024年9月21日発売
UFCデビューの朝倉海をビリー&エリーHCと共にインタビュー。またUFC6連勝で1位ロイヴァルと戦う平良達郎、DJの引退インタビュー、期待のプロスペクト、格闘技の新しいミカタを特集!
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア

関連するイベント