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2024年7月28日(日)さいたまスーパーアリーナ『Yogibo presents 超RIZIN.3』の第7試合・59.0kg契約 5分3Rで、ヒロヤ(JAPAN TOP TEAM)を1R3分20秒、右ストレートでダウンを奪ってのヒジ打ちTKOで破った所英男(リバーサルジム武蔵小杉 所プラス)。
試合前に所は本誌に、セコンドの勝村周一朗と金原正徳、さらに野木丈司トレーナーとの練習のこと、“4人目のセコンド”のこと、そして『ロード・トゥ・代々木第一』の意味について語っている。試合前の本誌インタビューで掲載しきれなかった部分も含め、ここに、勝利後のインタビューと併せて掲載したい。
試合前に所英男が語っていたこと「奥さんが今回、『1週間前でもすごい元気だよね』って言ってくれて」
――バンタムの61kgとフライの57kgの間、今回の59.0kgという契約体重は、所選手としてはいかがですか。
「フライ級の選手とやるので、自分ができれば、ちょうど(両階級の)間なので、問題ないですね」
──ヒロヤ選手もここ2試合こそフライ級でしたが、バンタム級から6試合は58kgでしたので、力が出せる体重だと思います。
「そうなんですね。身体大きくしている感じも見えますね。やっぱりすごい身体はしていて、公開練習のとき柔軟をしていて、“ああ、いいな、軟らかいな”と思って、羨ましい気持ちはありましたね。エリーコーチとのミットでもキレッキレで、凄いなと思って見てましたね」
――26歳のヒロヤ選手と46歳の所選手の対戦ですが、ところでこの前、PANCRASEの計量と調印式だったんです。チャンピオンの伊藤盛一郎選手は会見で、「所さんの試合が同じ時期に決まって、寝技の強い所さんと、レスリングの強い田中ノリ(路教)先輩とずっとスパーリングをしてきました。だから大丈夫です」と言い、会見後には「所選手に頑張ってほしい」とエールを送っていました。自分の試合前なのに。
「いや……嬉しいです。ヤバい、ヤバい、泣けてきちゃう」
――感情が高ぶるのはまだ早いですよ……。
「ほんっとに盛一郎さん、自分の練習にならないのに、もう毎週。週1でやらせてもらうんですけど──週2でやったら僕が壊れちゃうので──行くともう、向こうから元気に挨拶してくれて『今日もお願いします!』って。こっちの疲労が溜まっているときは、『今日ごめんなさい、2ラウンドのみで』というときもあって、本当は向こうの練習にならないから申し訳ない気持ちがあって……」
――伊藤選手は「あの年齢であんな風に動けるなんて」と。練習では一本と取ることもあったそうですね。「滅多に取られることなんてないのに」と言っていました。
「いやいやいや、練習なんで……盛一郎さんにはもっとやられてますし」
──勝村周一朗さんも伊藤選手とのスパーリングでは、声をかけるのは所選手の方ばかりという。
「ほんと、勝村さんにも感謝しかないです。盛一郎さんとの練習は、僕と勝村さんの関係で受け入れてくれているんですけど、2人から言ってもらえて嬉しいです」
――今回の試合が決まる前に、まずタイに行ってきて、金原正徳さんとも合宿をしましたね。
「タイへ行って、タイ行く前に身体作っておかないと金原さんに怒られちゃうんで、練習ついていけなかったらヤバいんで。だから、もうタイへ行く1カ月近く前から身体つくって、タイに行きました」
――そこでは置き引きも追いかける羽目に。
「泥棒を追いかけて。ゼエゼエになったら、金原さんがバイクで追いかけてきて。あれはやっぱりすごいですよね。いろいろなことをしてきた人の強さというか」
――いやいや、バイクで逃げられてるのに走っていくほうがヤバいです(苦笑)。所選手らしいですが。でも現地でのトレーニングで成果があったようですね。
「はい、そこでクロスフィットトレーニングというのを知って自分の中で“これだ”と思うものがあって、スパーリングの動きも変わったんです。それで金原さんに紹介してもらって、日本でもHALEOに行かせてもらって」
──金原選手はRIZIN参戦前から通ってましたね。
「そうなんですよ。『僕は10年前からやってます』って金原さんに言われて、“もっと早く教えてくださいよ”と思って(苦笑)。新しいことはそれくらいで、あとはいつもどおりの練習をしてきましたね」
――いつもどおりの練習というのは、所プラスもそうですし、変わらず出稽古も?
「はい。今所プラスの選手がけっこう試合が多くて、その子たちと練習をすると、けっこう追い込められたりして、自然と負けてらんないで、やっぱり先生として踏ん張りますし、あとはやっぱりロータス世田谷で、強い人たちに混じってやること。それに、野木(丈司)さんとのボクシングと、走ることという感じですね」
――野木トレーナーの階段ダッシュは欠かさずやっているのですね。
「そうですね。15年くらいやってますね」
――傾斜が30%以上ある地獄の階段登り、あれをやらなくなったらもう駄目?
「あそこについていけなくなったら、もう選手として潮時だなというのはあります」
――ということはついていけているんですね。
「同じメニューをやっています。ただ、トップ戦線にいられるかといったらいられてないんで、もう後ろからみんなの背中を追っかけてる感じです。自分のジムの子たちにも頑張れと言って、他の選手に負けるなと思いながら」
──坂道トレーニングは、野木トレーナーによると心肺機能を使うということもありますが、登りだと故障が少ないことも挙げていました。坂道に「行きたくないな」と思うことはないですか?
「ああ、思わないですね。やっぱキツい練習する前、“今日も憂鬱だな”とか思うし、所プラス行くときも、やっぱり自分先生なんで、だからってなんか教えれるわけじゃないしな、とか思いながら行って。そういう意味で桜庭さんいてくれるともうめちゃくちゃ元気もらえて」」
――桜庭選手がそこにいるというのも……。
「そうですね。ありがたいですね、本当に」
――そういった中で、今回引退の話があってちょっと驚きましたけど、考えてはいたんですね、どこかで。
「どこかで言わなきゃな、という気持ちで、それはやっぱり、負けたら。だから勝てばそこは続けられる。そのつもりでずっともう本当にやってきたんで。勝ちたいですね。負けたくないです。負けたらもう自分じゃなくなっちゃうッスね、格闘技を取ったら」
――……ここ最近の試合、特にドッドソン戦の57.0kg契約試合では、正直、所選手の減量の身体を見ると、相手が世界の強豪とはいえ、あまりダメージ負ってほしくないという気持ちもありました。
「……ちょっと何もできずにでしたね」
――でもあそこからヒロ・ヤマニハ戦の61kgのバンタム級戦は悪くない動きもありました。
「それでもやっぱりヒロヤマニハのときはうまく戦えなくて、自分の思っていたヒロ選手と実際組んで寝技やったときの選手の差がけっこうあって。そのペースでずっと意地になってやっちゃったという悔しさはあるんですね。上手く戦えなかった」
――その中で今回、結果が出なければ……というふうに言おうと思ったのはどういう気持ちからでしたか。
「やっぱりもう3連敗してますし、僕ホームリングがなかったので、すでに9年目になる、このRIZINという舞台で、RIZINでやっていた選手として、RIZINで引退したいという気持ちがやっぱりあるので、口にしたということですね」
――たしかに一番長いのですね。
「ZSTかと思ってたら、全然RIZINのほうが長いらしくて、ビックリしました。2002年から5年間、やっぱりもう自分をつくってくれたのはZSTなんで、格闘技の母ですよ」
――その当時からともにZSTで戦った今成正和選手が摩嶋一整選手にMMAで一本勝ちし、金原選手がクレベルに勝ち、伊藤選手を育てた勝村選手が金原さんとセコンドにつくと。
「いやあ。すごすぎるっすね。金原さんとタイで合宿して、勝村さんのところに出稽古に行かせてもらって。この間も──最近、今成さんのところに練習行かせていただいているんですけど、強いっす。もういまだに強いです。海外でもイマナリロールの名前もあって、若い選手の挑戦を受けてやり合って、本当かっこいいなと思います。尊敬しかないです」
――今成柔術に出稽古ということは、所スタイルも深化していそうですね。相手が慣れるまで時間がかかるという所スタイル。今回、ヒロヤ選手に出せそうですか?
「出さなきゃ終わっちゃいますし。もう本当に僕やることは一つで、もう所スタイルを貫くだけで、ヒロヤ選手、やっぱりすごい意気込んでくると思うんです。大きな大会で、師匠の朝倉未来選手と出るので気合入ってるなと思いますけど、僕は僕で背負っているものがあるので、そのぶつかり合いですよね。僕はもう貫き通します」
――MMAは最初に立ち合わなくちゃいけない。そこからの引き出しは所選手の方が多いんじゃないですか。
「どこまでやれるかというのが正直見えてないので、ヒロヤ選手も、僕自身も、どこまで練習どおり動けるかも分からない。JTTで素晴らしい練習を積んでいると思うので、日々進化していると思うんですけど、そういう“今のMMA”をやろうとしている人と、僕の“所スタイル”が噛み合えば、ヒロヤ選手とはすごいいい試合になると思います。ヒロヤ選手は攻めるし。組んで倒して終わりじゃなくて、やっぱ攻めるから、いい選手ですよね」
――そうですね。しんどいことをやり切るいい選手だと思います。その選手に勝たなくてはいけません。
「もう絶対勝ちます。いつものお2人、勝村さん、金原さん、そしてジムの萩原一貴くんと。もう本当に僕の本当一番信用している3人がついてくれるので」
――奥さまの闘病で、あらためて様々なことを頼っていたことにも気づいたのではないですか。
「本当にもう奥さんいなかったら、そもそもジムもやってないですし。たぶんファイトマネーを食い尽くして今頃何やってんだろうって思うことはよくあるんです。感謝しかないのに、いつも奥さんには素直になれなくて……今回も僕はもう不安でしかなくなっちゃって。治療も生きるため、子どものためだからって(自分に)言い聞かせてる感じなんです。いろいろやってくれますが、でも試合に関しては何も言わないんです」
――好きなように。
「はい。ただ今回、『1週間前でもすごい元気だよね』って言ってくれて。『ああ、自分は元気なんだ』と思って。もうすぐ忘れちゃうんで。けど、奥さんが言ってくれると、『ああ、そうなんだ』って。だから……4人目のセコンドですよね」
──4人目のセコンドが所家にはいる。総力戦ですね。セコンド勢と戦い方は見えていますか?
「もうここを勝たないと駄目なので。もう何度も一緒に会って、練習見てもらって、ランチもして、勝村さんと金原さんと、もう心から信用しきっているので、“言われた通りに動く”というのと、きっと試合になったら僕が好き勝手やるんで、2人がああしろ、こうしろって帳尻を合わせてくれるはずなので。自由に戦います」
──勝てば、新たな目標も見えてきますね。
「はい。あの『ゴング格闘技』さんの表紙にもしてもらった、2005年7月のノゲイラ(アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ)との試合が、僕の格闘技人生を変えて。あの会場が代々木第一体育館だったんですね。6月にRIZINが代々木第一で大会をやったじゃないですか。僕ももう一度代々木第一のリングに立ちたいと。あの場所で引退するまでに試合をしたい。その目標を達成するまでは辞められないなって」
──誰と対戦したいのですか。
「その時は(山本)アーセン選手と対戦したいです」
──それは実現しなかった試合の続きを、その血を継ぐ選手と再び世代を超えて戦いたいと?
「はい。KID(山本“KID”徳郁)さんとだけは試合が出来なかったので、自分の人生を変えた代々木第一で、KIDさんの甥っ子のアーセン選手とやりたいです。だから『ロード・トゥ・代々木第一』が目標です。負けたらそれも無くなっちゃう話なので、やっぱりあそこで最後アーセンとやって格闘技人生を終わりたい。だから今回の試合、必ず、勝ちます」