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インタビュー

【PANCRASE】伊藤盛一郎、衝撃の失神ワンハンドチョークの真実「今が一番強い、まだまだ強くなっている」=王座防衛インタビユー

2024/07/25 16:07
 2024年7月21日、東京・立川ステージガーデンにて『PANCRASE 346』(U-NEXT見逃し配信)が開催され、メインイベントのフライ級王座戦で、王者の伊藤盛一郎(リバーサルジム横浜グランドスラム)が、挑戦者のムハンマド・サロヒディノフ(タジキスタン)を3R、リアネイキドチョークで極めて一本勝ち。初防衛に成功した。今号の本誌『ゴング格闘技』(NO.333)のフライ級特集の締切後に行われた試合で、そこに入るべき勝者にインタビユーした。  試合翌日も横浜グランドスラムジムに足を運んでいた伊藤は、衝撃のワンハンドチョークでの一本勝ち、田中路教、所英男、菅原美優らとの練習、父との邂逅、そして師・勝村周一朗への思いとともに目指す今後について、語った。 十字も首も「参った」しないかも── ――フライ級王座防衛成功、おめでとうございます。前回の戴冠後は、翌日の朝に走っていたと聞き、驚いたのですが、今回はカナダからお父様も駆け付け、ゆっくり過ごしていますか。 「昨日寝れなくて、朝5時半くらいに寝たんですけど、それでちょっと朝起きたらもう10時とかになっちゃったので、のんびり洗濯とか家のことやって、犬にご飯をあげて、ジムに行って、練習はしなかったんですけど、後輩とかのセコンドで声出してあげて」 ――ジムに行った!? あの熱闘の翌日にさっそく……。 「そうですね。勝村(周一朗)先生とも試合後ちゃんと話してなかったので会って。昨日の試合も自分も映像を見てこう思いました、とか、横浜グランドスラムの髙城(光弘)の試合、あと同日の修斗の上原平も不戦でしたが環太平洋(フェザー級のベルト)を巻いたので、ノリ先輩(田中路教)とも話したりました」 ――翌日にジムで試合の振り返りをやったんですね。そのサロヒディノフとの試合ですが、先に組みに行ったのは伊藤選手からでした。伊藤選手が左を突いて、その打ち返しの左を掻い潜ってダブルレッグに入った。レスリング強者のサロヒディノフと組んでいかがでしたか。 「最初はやっぱり力がすごい強い、組みがすごい強いイメージがあったんですけど、試合が始まって、自分が先にタックルに入ったときに意外と軽いし、自分があのとき上を取れちゃったじゃないですか。“あっ、これ全然自分のほうが強いな”と思って」 ──ダブルレッグテイクダウンでそのままサイドになりかけて押さえ込まずにすぐに脇をすくいにいって驚きました。仕掛けが速くて……。 「両足タックルっぽい感じで入って、少し足をかけてこかして、その後、上取ってアームロックの形になって、腕をクラッチしてきたので、横三角(絞め)に入りましたね」 ──あのときサロヒディノフが横三角を組まれたまま立ち上がった。伊藤選手は自から外してスラムを避けたのでしょうか。 「そうです。持ち上げて、たぶん青コーナーのほうに持っていって投げてくるかなと思ったので先に外して、離した瞬間、足関に行こうかなと思ったんですけど、ちょっとそれはできなくて、下になっちゃったんですけど。で、その後バック取られて、アームロックに切り替えて回して、腕十字に行ったんですね」 ――あの十字は極まったと思いましたが、サロヒディノフも前方に返らず、またいで縦になって外しました。その後のスクランブルでも再三、バッククリンチで投げては崩してきましたが、伊藤選手にとってはアームロックがあるから、あまり気にしなかったのでしょうか。 「やってても別にあの先ないなと思って。ただ後ろにしがみついてくっついてくるだけで、たまに殴ってはくるけど、自分も避けたりとか、腕で防いでやらせないようにしていました。ノリ先輩とやってたら、あそこから手首取られたり、回されて崩されて背中着けさせられたりするんですけど、その心配もなかったので、全然やられる気はしませんでした。ただ、2ラウンド目はちょっとそれをやらせすぎちゃったなと反省しています」 ――あの試合で勝村さん譲りのニンジャチョークが、スタンドで仕掛けて、ラバーガードからも狙っているように見えました。 「ラバーからも狙ってました。下からも狙ったし、片足タックルに対して、杉山(しずか)さんがやったみたいにニンジャも狙ってました──さきほど仰った1Rの腕十時のときに、あれけっこう伸びてたんですよ。でも逃げられちゃって、インターバル中に勝村先生から、『ちょっと十字だと参ったしないかもしれないから、絞めで落としにいこう』と言われて。  2R目、首とか狙いにいったんですけど……アゴの引きと首回りが分厚くて、首が全然無くて(腕が)入らなくて、2Rが終わったインターバルのときに、『ちょっと首も難しいかもしれない』って言ったら、『アームロックだったら腕十字みたいに引っこ抜けないし、組んだまま行けるから、ちょっとアームロック狙ってみるか』と話して、3R目に行ったんですけど。上手いこと首取れました」 ――あの太い首を……。バックにつくまでの流れも内股での投げからでした。でもあの距離にどうなったのでしょうか。 「自分が最初、縦ヒジで行ったんです。そうしたら相手のほうが先に組んできて、首相撲みたいに頭持ってきたんです。そこに一発、右アッパーを入れて、その後柔道の内股で投げて」 ――サロヒディノフの首相撲に対して右で差して、左手で相手の右手=引き手を取れた。そこで内股で投げて、巻き込まれずに放して、相手のスクランブルにサイドバックから脇をすくって前転した。 「はい。相手が亀になってきたのを回って、サイドバック取って、いつもやる、足を入れて腹固めから前転してクルスフィックスの形になったときに、向こうがちょっと今まではずっとバック取ったときとか、首を守ってたんですけど、腕を外そうとしてちょっと首を上げてすり上がるように登ってきたんです。その瞬間にフッて左腕が入って、手が先に入りました」 [nextpage] ワンハンドチョークは元谷選手の動きから研究して自分のモノに── ――足は絡んでいなかったけど、先に手を入れましたね。 「はい」 ――でも肩しか抱けなかった。ワンハンドで極める自信はあったのですか。 「もう肩を持って、左腕の前腕を頸動脈に当てているんですけど、ここがしっかり密着していれば行けるなって自信があったので、そこがブレないようにだけしっかり持ったまま、足もフックして。でも、最初はワンハンドだけで絞めてたんですけど、やっぱりちょっと首強くて、ちょっと片手だけだとどうしても絞まりきらないかなと思って、右腕をここで入れ直した感じです」 ――あのとき、左手で肩を抱いて頸動脈は離さず、右手は上から押さえるような形でした。あれは……。 「もう一方の手で押さえることで、ワンハンドの左手を相手に剥がされないんです」 ――なるほど。ワンハンド自体は昔、PRIDE武士道でデニス・カーンがアマール・スロエフを極めたシーンが有名ですが、伊藤選手は相手から絞め手を隠して、さらに上から押さえ込んだと。この形を使うようになったのはいつからですか? 「昔、DEEPで元谷(友貴)さんがやっていて(2021年2月の昇侍戦)、自分もその映像を見て、こんな感じで極まってるからなんで決まるんだろう? と思って、研究して練習して、オリジナルな部分を加えて自分の独特の取れる感覚があるんです。そこから、もう試合で3回、極めてますね。RIZINの橋本薫汰戦と、あとPANCRASEに最初に出た上田将竜選手との試合のときも実はこの形でした」 【写真】元谷が昇侍を極めたチョーク。右手で肩を抱き、左手は頭後ろに回さず、右手の上から押さえている。 ――「首は難しいかもしれない」という中で、最後はセコンドからも声があったのでしょうか。ワンハンドのときに「行っていい」と? 「入りは完璧じゃなかったんです。自分の中ではちょっと浅くて。でももう1回組み直しちゃうと、外れちゃうかもしれないし、どうしようかなというときだったんですけど、セコンドからは『もう締めろ』『組み直すな、外すな』というのは聞こえて、そのまま頑張って絞め続けたら相手が落ちました」 ――なるほど。IMMAF王者相手に見事な一本勝ちでした。試合前には田中路教選手と、所英男選手とも練習をしている動画を拝見しました。一昨日、所選手に話を聞いたら、「試合前の盛一郎さんにとってそんなに練習にならないはずなのに受けてもらって力になった」と言っていましたが、引退を賭けて戦う所選手の取り組みにも刺激を受けることもありましたか。 「いや……自分、所さんに取られましたもん、一本。普段練習じゃ全然取られないですけど、やっぱ強烈ですよね、所さんの技って。こんな形で取るんだって」 【写真】横浜グランドスラムの先輩の田中路教と後輩の髙城光弘と。 ――田中路教選手との練習も、「相手に作らせてからじゃ遅い」と仰っていて、今回の最後のチョークはポジション的にはズレていても何より首を獲りに行った、普段の練習が活きていると感じました。そして立ち技も……。 「はい。ありがとうございます。打撃はノップ先生(ノッパデッソーン)のミットでやっているのが出た感じですね。もうちょっとやりたかったんですけど、相手がけっこう近くてすぐ足を持ってくる。それで、タックルが来るところに縦ヒジとかをミットで練習していて、初めて本格的にヒジを教えてもらって出してみようかって、裏のアップのときとかもイメージは出来ていたんです。3R目、相手が疲れてたんで、最初始まるときに腹を効かそうと思って、三日月を蹴ってちょっとすっぽ抜けちゃったんですけど、その後にヒジを出しました」 ――ノッパデッソーンさんのところには、菅原美優選手とも行くようですね。 「はい。週1で一緒に行っていて、美優は今回裏(控え室に)入ってくれてたんでアップも見てもらって、『距離感とか、立ち位置ここで大丈夫かな』って聞きながら、裏でアップして。『ここならもらわない』位置とか、『ここだったら近くない、大丈夫だよ』みたいに確認しながらアップしていました」 ――立ち技の部分では、菅原選手からそんなアドバイスも受けていたのですね。そして、今回の一本勝ち後、ケージを飛び出して、お父様と勝利のハグをかわした姿も印象的でした。カナダから来日したのですね。 「自分はカナダのトロントで生まれて、3歳まで向こうにいたんですけど、そのときに母親がバセドウ病というストレスからなる病気になってしまって、カナダにいたら友達もいないし、いろいろストレスで治らないからといって、両親は離れて、自分と母親だけ日本に帰ってきたんです。父は沖縄出身なので、3年に1回とか帰ってきたときは沖縄に一緒に行ったりもしていたのですが、それがコロナのせいで帰って来れなくなって……今回7年ぶりくらいに会うことができました。6月に、7月8日から2週間くらい沖縄の実家のことで日本に急遽行きますと連絡があって、“2週間の滞在だったらギリギリ、自分の試合に間に合うかも”と思って、伝えておいたら駆け付けてくれて、ほんとうに嬉しかったです」 ──これまで伊藤選手の試合を直に見てもらったことはあったのですか。 「試合は初めてです。YouTubeに出ているRIZINの試合とかはたぶん見てくれていたようで、お父さん、けっこう格闘技好きみたいで、昔のPRIDEの動画も観たりしていて、昨日もピーター・アーツがいて、テンション上がってました(笑)」 ――カナダに帰る前に、直に試合を見てもらうことができて良かったですね。 「ほんとう、奇跡です。お父さん、ふだんカナダのオンタリオ州のリッチモンドヒルでみやびというお寿司屋さんをやっているので、ぜひカナダに行かれたときは寄ってみてください!」 [nextpage] 来年『ROAD TO UFC』にチャレンジしたい ──カナダのサーモンも食べられる! いいですね。さて今回、最強挑戦者を下し、あらためてこちらとしては『ROAD TO UFC』のなかで伊藤選手が戦う姿を見たかった、と感じました。PANCRASEでの防衛戦も含め、今後をどのように考えていますか。 「ベルトを防衛して、海外の選手とやったり、あと自分が海外行って試合もしたいです。(内藤)由良がコンテンダーシリーズに出場が決まってるじゃないですか。もしそういうのもフライ級とかがあるんだったら興味がありますし、それが『ROAD TO UFC』なら、来年もチャレンジしたいです。まだ海外に挑戦したことがないので──もっと早くしろよという話なんですけど、やっとPANCRASEのチャンピオンになって、先輩が目指すUFCに自分もその資格を得て、見えてきたと思うので、いつまでもやれるわけじゃない現役生活のなかで、やらないで後悔するより、最後やって行くところまで行ってみたいなというのが、今の気持ちです」 ――2024年のRTU出場はならず、後進の育成も口にしているなかで、まだUFC挑戦は諦めてなかったのですね。 「そうですね……。勝村先生は自分の所属選手のセコンドとしてはUFCに行っていないので、僕がそうして連れて行きたいという思いがあって『グランドスラムから世界へ』って言ってたんです。だから、勝村先生と相談しながら、決めていきたいと思います」 ――6連勝。グランドスラムイズムの動きもあるなかで、立ち合いの安定感と、組みでも最後は伊藤選手がいいポジションを取って極めているという、強さを増しているように感じます。 「最近怖いくらい調子いいですよね。でも毎試合毎試合“過去一番調子いい”というのを更新している気がします。今が一番強いという、まだまだ強くなっているという実感があります」 ――菅原選手という生涯のパートナーも得て、格闘技が常に生活の中心にある。ともに今回のタイトルマッチに臨んだ菅原選手は試合後、どんな言葉をかけてくれていますか。 「自分が本当に今回、全然緊張してなくて、バックステージの入場でも、相手の入場曲鳴ってるときでもみんなでいい雰囲気だったんですけど……、美優はけっこう緊張してたみたいで、1回控室からいなくなったんです。ちょっと緊張しちゃって半泣きになってたみたいで。ジムの後輩の子が声をかけに行ってくれて、『盛一郎だから絶対大丈夫だから』と。だから、勝って本当にホッとしてましたね。やっと少し家族でゆっくりできます。犬と3人でお出かけするんですよ。犬も泊まれるグランピングに行って、7月13日が犬の誕生日だったんで、ちょっと遅れた誕生日パーティーをしようと」 【写真】インタビユー後、旅先での家族写真を送ってくれた伊藤。カノア君もしっかりカメラ目線でした。 ――ということは勝利を確信していたのですね。 「ここで手こずってるようじゃ、これから海外に行っても話にならないと思っていました。向こうはIMMAFの王者でしたけど、こっちはPANCRASEのチャンピオンなんでナメられちゃいけないと。だから、勝って。これから行ってきます!」 ――いいですね。お気をつけて。試合翌日にありがとうございました!
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