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インタビュー

【UFC】死闘から8年、川尻達也が 6.29『UFC 303』出場のカブ・スワンソンと対談「戦い続ける理由は?」「あのとき“仮想・川尻”用に呼び寄せたダンがいまやUFCファイターでセコンドだ。僕もいまだに成長し続けているよ」

2024/06/28 15:06
2024年6月29日(日本時間30日)、米国ラスベガスのTモバイルアリーナで開催される『UFC 303: Pereira vs. Prochazka 2』(U-NEXT配信)のフェザー級戦にて、アンドレ・フィリ(米国)と対戦するカブ・スワンソン(米国)が、U-NEXTでUFC解説を務める川尻達也と対談を行った。  スワンソンと川尻は、2016年8月に開催された「UFCファイトナイト・ソルトレイクシティ」で対戦。互いに打撃を効かせてマウント、バックマウントを取り合う熱戦の末に、2-1のスプリット判定でスワンソンが死闘をモノにしている。 (C)Zuffa LLC/UFC  グラウンドヒザも受け「途中から記憶が無いまま戦っていた」という川尻は、試合後に「残っているのは格闘技が大好きってことだけでした」という言葉を残し、同年年末からRIZINに参戦。強豪アリ・アブドゥルカリコフに勝利後、パトリッキー・ピットブルに敗れ、リングを降りている。  一方、川尻戦後も3試合連続のファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞するなど激闘を繰り広げたスワンソンは、連勝と連敗も経験し、2023年8月の前戦ではハキーム・ダオドゥに判定勝ちで、MMA戦績29勝13敗、UFC14勝9敗としている。  MMAキャリア20年目を迎え、UFC殿堂入りも果たし、40歳となったスワンソンは、いかにMMA世界最高峰の舞台でいまなお戦い続けているのか。U-NEXT対談で川尻が聞いた。 最善の筋書きは殴り勝つことだけど、一番の技術の向上は柔術だ 川尻達也(以下・川尻)カブ、久しぶり! 8年ぶりに会えて嬉しいです! 今週末に試合が迫ったカブですが、40歳になりました。僕はもうリタイアしたんですけど、40歳の頃は練習するたびに小さな怪我をして、その怪我がなかなか治らず、すぐまた新しい怪我をする──その繰り返しでコンディション作りに一番苦労したのですけど、カブは40歳になってみて今コンディションはどうでしょうか? カブ・スワンソン(以下スワンソン)実は今、すごく調子が良くて。というのも、去年背中の手術をしたことがすごく功を奏しています。手術前の数年はかなり痛みに悩まされていたのが、手術で救われました。自分のトレーニングパートナーもここ何年かで一番いいって言ってくれていて。ケージでいかに本来の自分の実力を見せられるかにワクワクしてるんです。だから40歳にはなりましたけど、年齢は感じてないですね。 川尻 背中の手術をしてたんですか。でも良くなっていいですね! 楽しみです。 スワンソン ありがとうございます! 川尻 今回の対戦相手のアンドレ・フィリはリーチが長くてパンチの得意なストライカーだと思いますが、いつものカブのように激闘型で激しく打ち合うのか、それとも組みを混ぜて賢く戦うのか。どういう展開になると思いますか? スワンソン 相手の顔面を殴ってアグレッシブに行ければ、自分にとって最善の筋書きと言えますね。そして過酷な試合に持ち込みたい。だから自分としては相手に距離で優位に立たせないようにする。  ただ、この5年間で自分がやってきた一番の進歩っていうのが柔術の技術の向上なんです。オレンジカウンティのグレイシーバッハ本部に来て柔術が本当にすごく上達しています。だからそれも見せられたらいいなって。まずは相手の顔を打ち抜いてノックアウトできればいいし、もし向こうがテイクダウンしようとするなら寝技で極めに行きますよ。 川尻 なるほど、やっぱり殴るんですね(笑)。でも一本を取るカブ・スワンソンも新しいね! スワンソン 自分のコーチであるフェリペ・デ・モナコはグレイシーバッハ本部のヘッドコーチでもあります。僕はヒーガン・マチャドの黒帯三段なんだけれどグレイシーバッハから授与したものです。彼らのおかげで柔術にまた夢中になりました。自分のスタイルはとてもユニークだと思っているんです、というのはエリック・パーソンとともに過ごしたキャッチレスリングから柔術の年月を経て、ようやくまとまってきて、最近は自分のグラップリング技術にとても自信を持っています。それは本当に柔術の先生であるフェリペのおかげなんです。 (C)Zuffa LLC/UFC 川尻 自分も体感しましたが、殴っても組んでもいけると。何より勝つ姿に期待しています。 スワンソン 最高です、ありがとうございます。自分はずっと川尻さん、あなたのファンなんですよ。 川尻 アハハ、本当? ありがとうございます。僕もあなたの大ファンですから、戦えて本当に光栄でした。 スワンソン ありがとう。試合後にお互いにお辞儀をして撮った写真はお気に入りなんですよ。バックステージに来てくれて、あの写真を撮らせてもらったことはすごく光栄でとても感謝しています。 川尻(合掌して)こういうポーズのやつですね、僕も大事に残しています。 ──2016年の川尻さんとのタフな試合をどのように感じていましたか? スワンソン まず川尻さんと対戦できたことは本当に光栄でした。彼の日本での戦いを長年見てきていましたし。試合の映像を見ていると川尻さんはレスリングやグラップリングでいろいろなことができて、自分は本当に熟考を迫られたものです。だから実際あの試合に向けたトレーニングのなかで自分のグラップリングが進化したと言えますね。  川尻さんと自分のチームメイトのクレイ・グイダが対戦した映像もたくさん見ました。キムラロックをいかにして仕掛けるかとか。たくさん研究して動きを分解してみて、川尻さんの動きに先手を取れるようにと考えていました。だからあの試合で川尻さんが仕掛けた攻撃を止められたことであったり、やりたいことをさせずにいられたことを非常に誇らしく思っています。ただ何より一番覚えているのは川尻さんの頭がとても硬くて(苦笑)、自分が手を痛めたということです。それからとてもタフでしたね。 ──当時38歳だった川尻さんと高地のソルトレイクシティでフルラウンドの死闘でした。あの時の川尻さんのように今のあなたもフレッシュに戦える自信もありますか。 スワンソン とても自信があります。毎朝自分の状態を知るために心拍数を測っているのですが、今朝起きて測ったら35BPMと低くなっていました。そうやって自分の状態を確かめて、調子がいいんだって分かっているし、本当にいいファイトキャンプができて、キャンプ中もずっと調子が良くて。だからまだまだやれると自分を信じています。 [nextpage] 自分が何を成したのかを子どもたちの記憶にとどめてほしい 川尻 カブは2007年から17年間、WECを経て世界最高峰のUFCという舞台でたくさんの強豪と戦い続けてきて、そして結果も残し、殿堂入りも果たしました。Instagramでいつも見ていますが、奥さまと、かわいいお子さんが3人いらっしゃいますね。それからご自身のジムも経営しています。そんなカブが現役で戦い続ける理由が知りたいです。僕はもう引退してしまったので。 スワンソン まだ今でも完璧さを追求していますし、まだ自分が良くなっていっていると感じていますし、自分にとって、目標というのは決してベルトを勝ち取ることにはなくて、“自分がなりうる限り最高の格闘家になること”であり、そのうえで、いまだもって成長し続けていると感じています。いつか衰えを感じた時には絶対すぐ止めますし、その瞬間はもうじきやってくるというのも自分では分かっているんです。ただ、今のところはまだ素晴らしい試合ができると思っています。 川尻 なるほど。もうすでに最高の選手ではあると思いますが、より高みを目指してもっと強くなっていくカブを、僕はUFCのいち解説者として楽しみにしています。 スワンソン ありがとうございます。詳細に話すと、自分はコーチであり選手のマネージメントもしていますが、その点で今回のキャンプは特に素晴らしかったんです。自分の選手たちに期待していることを言葉で伝えるだけではなく、実際に自分の姿を通して、つまり彼らはトレーニングキャンプの中で僕が何をしているかを見ることで、やるべきことは何かを伝えることができたんです。だから今回のキャンプは彼らにとっても非常に特別なものになったはずです。自分がどう準備しているかを知ることによって、彼らはより良い準備ができるようになりますからね。 ──あなたのジムの「Bloodline Combat Sports Agency」には、そういった若い選手が多いかと思います。UFC参戦中のダニー・シウバ(9勝1敗・8.24 デニス・ブズカ戦)、ダン・アルグエタもいる。その環境で鼓舞されることも? スワンソン そうですね。自分の周りにいつも20代の若い選手がたくさんいるから、自分も若さを保てていると思います。そういえば、面白いことに、ここにいる(今回のセコンドの)ダンは、実は川尻戦の対策のために練習を始めたんです。ダン、ちょっと来て!(ダンを指して)ね、ほらこの体格だから、彼に川尻役をやってもらいました。あの頃のダンはまだ試合経験がなく、その後アマチュア戦をやってプロ戦を経験して、今やUFCにいます。川尻さんがきっかけだと思うと、まったくもってすごいことだと思いますね。川尻役のためにキャンプに呼び寄せたのですから。 川尻 なんという偶然! 当時の“仮想僕”がいまUFCで戦っているんですね。それにしてもカブは選手で、コーチで、マネージャーであり、忙しいですね。 (C)cubswanson スワンソン はい、そして3人の子どもと妻がいるから、確かに忙しい。ただ、幸い自分は選手みんなが自分でキャンプを組み立てるように教えているから、つねに自分がつきっきりで面倒を見るというよりも、メンターのような存在なんです。幸い、彼らにちゃんと自己責任を持つっていうことを学んでもらえているからそれは非常に助かっています。 川尻 なるほど。Instagramを見ていると、お子さんたちはサッカーをやっているようだったけれど、格闘技もやっているのですか? スワンソン ええ。子どもたちは柔術と、レスリングを少し習っています。ただプレッシャーはかけたくなくて。子どもに何かを押しつけるような父親にはなりたくないんです。いつも楽しくて、オーガニックで、無理やりではない形で格闘技と寄り添って成長していってほしいと思っています。だから子どもたちは柔術も習っているけど、サッカーもやってほしいって思うし、できるだけ多くのものやことに触れてもらって、自分で自分の道を選ばせてあげたいんです。父の背中を見て育つ、みたいのはなかなか難しいと思うから、自分らしい道に進んで、学んでいってほしいです。 川尻 もしかしたらいつかカブJr.がMMAの世界を選んでUFCのケージに上がってくる可能性もありますね? スワンソン まあもし自分たちでその道を選ぶのならもちろん可能性はありますよね。それなら支えになるし助けはするのですけれど、あんまり応援したくはないなあ(笑)。 川尻 うちの13歳の娘は格闘技にまったく興味がなくてテニスに夢中になっていますよ。 スワンソン いいと思います。テニスは自分も高校の頃やってましたけど、自分の子にはできれば顔を殴られるような競技以外をやってほしいものです(笑)。 川尻 2戦前、ジョナサン・マルティネス戦の際にバンタム級に下げていましたね。自分は39歳の時に1回バンタム級に挑戦して、散々な思いをしたのですが、カブはバンタム級に落とした時のコンディションや、試合に向けてのメンタル面がどうだったのかを知りたいです。 スワンソン 自分を試すこと、挑戦するということ自体は楽しんでいたのだけれど、ただちょっと減量のタイミングが早すぎて落としすぎてしまって。もうちょっとサイズもキープするべきでしたね、というのも減量期が長かったために、ちょっとモロくなってしまった。  それで試合の序盤のグラップリングの攻防で肋骨を折ってしまいました。そんな状況で自分のほうが試合をフィニッシュするというのは難しいことでしたね。もっとうまくやれると思うからもう一度バンタム級にチャレンジしたいとは思うんですけど、自分のキャリアを鑑みたら、フェザー級でキャリアを積み重ねてきたその記録を更新していくことのほうがいいと判断しています。 川尻 自分もバンタム級よりフェザー級のカブをこれからも見たいですね。 スワンソン はい、残りますからね(笑)。 (C)Zuffa LLC/UFC 川尻 そういえば前回の試合後、家族をケージに上げてかなりエモーショナルになっていましたね。 スワンソン 試合前後は感情的になりやすいんです。エネルギーを注ぎ込んで戦って、それに勝つと言うことは本当に喜びに溢れています。でも子どもができてからは、子どもたちの記憶に残るのに十分なだけの長さでこのMMAをやっていたいと思って、それをいつも大事にしています。この段階にあって、自分にとっての幸せというのは、自分が何を成したのかということを子どもたちに覚えていてもらうことだし、子どもたちが将来大きくなったときに、ファイターとしての父の話題があがったとして、それが誰かから聞いたストーリーではなく、自分自身の思い出として語れるように記憶にとどめてほしいんです。 川尻 なるほど。今週の試合も子どもたちの記憶に残るでしょうね。楽しみにしています。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。 スワンソン 日本には2回行った事があって、大好きで、また行きたいと思っています。ご存じのとおり友人で練習仲間のフアン・アーチュレッタが日本で戦っていますね、だから一緒に来るように誘われるのですが、家族がいるからそれはなかなか大変です。日本の文化も、日本の格闘技文化も大好きだから本当にまた行きたい。日本のファンの皆さんからの愛も常に感じています。だから、必ずまた来日すると約束します。今週末の試合はU-NEXTで見てくださいね。
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