『もののあはれ』や、侘び寂び・渋みは非常に重要な考え方だし、元々本作のコンセプトは『葉隠』だった
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――映画の最後に追悼の意が表されますが完パケ前ということで本編中に何か変更した点はあるのですか?
「それはありません。彼がここにいたとして、そんなことをしたら怒り出したと思います。ランスは本当に……そうですね、『ジョン・ウィック』は『キャスト1=キアヌ・リーブス。以上』という状態から始まった。そんな作品にキアヌ以外で最初にキャスティングした人です。その次にミカエル・ニクヴィスト(ヴィゴ役)だったかと」
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――特別な想いがあることでしょうね。
「まず、おそらく『ジョン・ウィック』の脚本の初稿を読んだら“酷いな”って思うはずなんですよ。ジョン・ウィックという主人公が犬を殺されたからって80人も殺す話って何? っていう。今となっては作品のカラーやアクションを通じて現代のファンタジー映画であり“現代のサムライ”というような世界観が通じているけれど、一番初めは絵的な情報が皆無で読まなくてはいけないからとてもダメなものに見えてしまう脚本でした。
僕が描きたかったものというのはギリシャ神話であり『イリアス』と『オデュッセイア』だったのだけど誰にも伝わらなくて。キアヌも『そうか』という感じで(笑)。会社側は作ってほしくなさそうな感じでしたね。それで僕はランスとビデオ通話で簡単に話したのだけれど、彼は即座に理解していました。これは暗殺者の映画だ。彼は結婚し、妻は死ぬ。『イリアス』と『オデュッセイア』みたいなもの。そして『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなファンタジー映画でもある。故郷への旅を描いているがダンテの『神曲』のように地獄から出られないと。
ランスはピンと来たっていう感じで『わかった!』って。彼は僕が最初に電話した人で他にもたくさんの人と話をしたんだけど、彼以外は僕のことを少し(日本語で)“バカ” だと思っている感じで、ちょっとクレイジーな奴だと思われたけど、ランスだけはただ理解してくれたのです。彼が演じたシャロンはとても愛情深く、思いやりがある。あのキャラクターが大好きです。シャロンとはカロンのこと。つまりギリシャ神話に出てくる冥府の河の渡し守の名前なのです」
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――とても重要なロールだったと思うのでかなり早い段階でああいう形で作品を離脱したことは観ていてびっくりしました。
「ランスが撮影にあたって『何だよクソ! 何で死ななきゃならない』って言うものだから自分は『いやあ、ごめんよ』って言うしかなくて。ただ彼は非常にスマートな人だから『嫌だけど、理解はした』と。観客にショックを与えてやろうと企んだわけではないし、映画のために必要なことでシャロンの末路はああせざるを得ない。ジョン・ウィックは自分の行いに責任を感じる必要があって、つまりヒーローがただ人を殺し続けるだけではとても共感できるものではない。
彼らがそうしなければならないように、『4』の一部は贖罪について描かれていて自分のやったことを受け入れてもらわなくてはいけなかったのです。因果応報を描いているから。ランス本人はというともうすぐ60歳とは思えないグッドシェイプだし元気でした。彼の奥さんから急死したと連絡を受けて、ちょっと乱暴な結末だなと思うけれど、ランスは本当に超ハッピーな人だったし『ジョン・ウィック』シリーズにとって重要な存在でした。しんどいシーンであっても理解して演じてくれていましたし」
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――本シリーズではとんでもない人数を殺すのはもちろんですが、主人公に近しい人間が命を落とすことも多いなか本作のシャロンに対しての描写はとても丁寧です。演じているご本人が亡くなったことを知った上で観ると、どうしても重ね合わせてしまいエモーショナルになりますね。結果としてそうやって映画が違う見え方を持つという点についてはどのようにお考えですか?
「ちょっと変な気分ですね、作品を見なくてはいけない時は。登場人物の死によってニュアンスが変わる。だから実際に見ていてこうなります、“はあ……”って。ちょっとキツいけれど、でもとても重要なことだと思っています。ランスとはとてもよく知る仲で、もし彼がここにいたとして僕たちと同じようにそれを理解していたはず。そうですね、不幸な偶然ではあるけれど、この映画をより強力なものにしたとは思います。実際にその人は亡くなったけれども少なくとも彼は本当に愛されることをして亡くなっていった、それこそが真実です」
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――前作の劇中で生きようとする理由を問われたジョン・ウィックが「亡くなった妻のことを語るため」と答えていたことを思い出しました。亡くなった彼は見ている我々の中で生きている、と。
「公開を楽しみにしてくれていた彼の姿も見ていたし、彼と仕事をして演出させてもらったことは誇らしいです。今の気持ちとしては日本語の言葉が合うと思っています。“ビター・スイート”というような意味の言葉ですね、『もののあはれ』。日本の影響がテーマ的にもある作品なので、『もののあはれ』や、侘び寂び・渋みは非常に重要な考え方ですし、元々本作のコンセプトは『葉隠』でした。副題にすることはできなかったのですが、武士の掟や心得を記したものです。キアヌと話していたのは、こういう内容の映画だからと言って『善人/悪人』の二項対立にしたくないということです。違った立場の人間が同じ掟を重んじている。そういう物語にしたかったのです」(※インタビューの全文は『ゴング格闘技』NO.328にて掲載)text by YUKO
◆『ジョン・ウィック コンセクエンス』
キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋に扮した大ヒットシリーズの第4弾。ジョン・ウィックは、裏社会の頂点に立つ組織・主席連合から自由になるべく立ちあがる。ケイン役でドニー・イェン、シマヅ役で真田広之が出演。チャド・スタエルスキ監督・製作。
2023年9月22日(金)より劇場公開
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◆監督:チャド・スタエルスキ CHAD STAHELSKI
ダン・イノサントに師事し数々の格闘技を経験したのちスタントの道へ。スタントダブルとしての代表作は『マトリックス』(99/スタントダブル:ネオ)。アクション/スタントコーディネーターとして『マトリックス リローテッド/レボリューションズ』(03)、『300〈スリーハンドレッド〉』(07)、『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)ほか。『マトリックス レザレクションズ』(21)では俳優としても出演。『ジョン・ウィック』シリーズ全作を監督。