堀江戦でも極めたシングルバック&サイドからのチョーク
朝倉の手を着いた立ち際、無防備だった首に腕を巻き、右足を外からかけていたケラモフ。朝倉も普段から練習を行っているトライフォース赤坂でのフルケージであれば、背後にスペースを作らず、相手に背中を譲らずに立ち上がっていたであろう、ケージレスリングの攻防。そこには互いに利点と難点があった。
ロープがたわむなか、ケラモフは左手を朝倉の背中ごしに回して、朝倉の右ヒジを押し込んで正対し辛いようにしてから、首に巻いていた右手とセット。肩から二の腕に組み替え、定石通り左手を朝倉の後ろ頭に差し込み、“真後ろ”に着かずとも、サイドから、最初はアゴ上だったが、組んだヒジを相手の胸に押し込むつけようにして、朝倉の頭を下げさせ、喉もとにリアネイキドチョークを絞めにいった。
朝倉は腰をロープとロープの間のスペースで逃がしてエスケープを試みるが、レフェリー陣が尻が逃げないように、あるいは落ちないように両手で壁を作ると、ケラモフは最初はアゴ上から、そして徐々に首もとに右腕を絞め込んで、朝倉からタップを奪った。
「タップするしないっていうのは、タップしないこともできるけど、タップせずに落ちるのは容易いこと。前回(クレベル戦)の時もタップしないことは良くないことだっていう世の中の風潮もあり、格闘技業界的にもそうなのかなと、あそこで“どう足掻いても落ちるしかなかった”のでタップしました」(朝倉)
この形は、ケラモフが前戦でも見せた、ほぼサイドバックからの得意のチョーク。堀江戦では相手の片足に外足をかけて両足で組むシングルバックだったが、朝倉戦では、中腰の朝倉に右足だけをかけて斜め後ろからチョークを極めた。
前戦に続く、シングルバックでのチョークに、朝倉は、「ケージだったというか、リングでも一緒だと思うのですけど、足も多分こっち側(左は)入ってなかったと思うんですよね。そのまま立てると、立つ準備をしていたのですけど、だんだん(首が)絞まっていって、そこが想定外でした」と、フィニッシュの展開を振り返る。
ケラモフは、シングルバックの形について、「全く心配はなかった。自分はあの状態でも相手をコントロールしていた。もちろん左足は自由だったけど、万が一、あのとき朝倉選手が立ち上がったとしても、彼をコントロールして勝てる自信はあったし、グラウンド状態で相手がブリッジしたりしていたけど、自分は常に彼の体をコントロールできていた自信があったので、勝てる自信がありました」と語る。
このサイド気味のチョークはなぜ極まったか。その際の動きを、ケラモフは本誌の取材に語ってくれた。
──なぜサイド気味の位置からチョークを極められるのでしょうか。
「別に秘密はないよ。アサクラを極めたチョークは、僕が得意とする形さ。真後ろにいなくても極められる。チョークを極められそうになったら、君ならどうする?」
──腰をずらして、肩を内側に向けて正対して相手の脇を差そうとしますね。
「その通りだ。でもこうすればどうなる?」
ケラモフが実演してくれた形は、相手のヒジを巧みに押し込んで右肩を内側に回させず、腰も動かすことができないタイトなものだった。そのバリエーションを相手の動きによって、ケラモフは自身のレスリングのなかに組み込んでいるという。
実は、ケラモフは試合直前に、このフィニッシュの形を放送で露わにしている。控え室でルスラン・エフェンディエフコーチを相手にシングルレッグテイクダウンからのバックテイクを、朝倉戦と同じ動きで、シミュレーションしていた。
今回のRIZINはリングでの戦いで、ケージであれば異なる部分も出て来るが、「ケージならもっとやりやすかった。今回リングでしたが、自分自身はあの場所であのチャンスを逃してはダメだと思っていたので、必ずやりきる自信があった」と、ケラモフはいう。
「朝倉選手と対戦することが分かったときから決して楽な試合にならないと分かっていた。自分としても丹念に準備してきたし、自分がひとつでもミスすれば決してそのミスを逃すことなく攻めてくる相手だから、これまでの選手と比べても2倍も3倍も用意周到に練習してきました」