『あの時、あの1秒を頑張れば良かった』という気持ちはないように試合をする
──なるほど。そんななかで、今回の相手のアライジャ・ジョンズですが、8勝2敗。サウスポー構えで、左ストレートを伸ばし、首相撲&ヒザ蹴りも強い。どちらかというと組みたい選手のように見ました。
「これまでMMAの試合でレスラーとやったことが無かったので、レスリングが出来る選手とやるとなったときの、特にスクランブルで絶対に譲らない、譲ったら負けだと思うので、レスリング勝負になったら、勝つしかないという気持ちでやります」
──相手は振って金網を背負わせてダブルレッグと下で組むことも多いです。その対策も八隅孝平ロータス世田谷代表と練ってきているでしょうか。
「もともと足を触られることに抵抗は無いので、入られたら切ってがぶってバックとか、自分のポジションが作りやすいので、触ってくれればいいなと思っています」
──河名選手の言うようにジョンズは相手によって戦い分けられる選手です。触らない場合、サウスポー構えの左の攻撃についてはいかがですか。これまでもサウスポーとは対戦していますね。
「狩野(優)選手、山本選手もサウスポーでしたし、試合に向けての練習は常にサウスポーの相手と続けてきたので、そこに対しての抵抗はあまり無いです」
──6月のグラップリングのPROGRESSでは森戸新士選手の引き込み、サブミッションの仕掛けを剥がす試合もして勝利。ここまでほぼ2カ月スパンで試合を行っています。ハイペースで試合を行う意味をどのように考えていますか。
「やっぱり、どれだけ練習をしても、実際の試合での斬るか斬られるかっていう緊張感は試合でしか味わえないものなので、その意味では試合でしか成長できない部分もあると思うので、そこを良いペースで経験できたのは良かったなと思います」
──2021年7月のプロデビューから1年1カ月。「良いペース」のなかで、UFCに繋がるLFAという舞台で戦うことになったのは、理想的な流れですね。
「半年ほど前のMMAPLANETの取材で『UFCには早くて2年半』と言っていたのですが、そのときには、まずは口に出してみようという感じで言っていたのが、いざ、こうして目の前に北米のフィダーショーがあって、自分がそこの場に立つことでだんだん現実味を帯びて来るというか、だんだん目標に近づけているんだなと感じます。ただ、戦う場所が日本から米国に変わりますけど、目の前の一戦であることは変わりないので、自分のやるべきことをやろうと思います」
──プロフィールの欄に、「人生をかけた五輪予選で負けた直後の率直な気持ちは、びっくりするくらい悔しさがありませんでした。特に何かを捨てることもなく、やりたいことを全部やっていた自分には、何かを捨てて競技に取り組む覚悟がなかったのだと気付かされました」と記されているのを見ました。いまMMAに取り組むなかで、そこに変化はありますか。
「特に私生活で自分に何かを制限することはありませんが、結局、MMAって──レスリングは試合は絶対、毎年決められた日にあって、勝とうが負けようが試合はある。MMAは勝てば次の仕事、次の試合が決まってどんどん自分の人生が変わっていくのを、自分自身が目の当たりにして経験しているので、かけているものは変わらないけれど、試合への集中力というか、さっきの『クラッチ離したら終わる』じゃないですけど、『あの時、あの10秒を頑張れば良かった』とか『あの1秒を頑張れば良かった』という気持ちはないように試合をしようと思っています」
──それは、しんどいことやるぞ、という覚悟が無いと出来ないことですね。
「はい」
──6月には『THE MATCH』が行われ、格闘技が大きな盛り上がりを見せましたが、河名選手がLFAでやることに影響は無さそうですね。
「『THE MATCH』があろうが無かろうが、今回のLFAを見る層というのは変わらないと思うので、海外MMAを見ている、そもそもMMAが好きな人っていうのが、今回も見て下さると思います。とはいえ、自分がそこに刺さるかどうかは分からないですけど(苦笑)。結局、自分は自分のできることをするしかない、そこは変わらずやろうと思います」
──河名選手は広島・三次高から専大に進んだのですよね。地元の方もABEMAの配信を通じて応援できる、その姿を見せることになりますね。
「そうですね……この試合が行われるのは日本時間の8月6日で、広島県民の僕にとって、特別な日です。自分自身が被爆3世で、おじいちゃん、おばあちゃんが広島で被爆していて、自分の祖先に限らず、広島で、植物が育たないと言われていた場所で、たくさんの人が命を繋いできたおかげで、自分がこうして好きなことをやっていられることに、あらためて感謝しています。この試合が誰かの力になるのであれば、その好きなことをやっている意味もあるんじゃないかなと思いますし、その気持ちを忘れずに戦いたいなと思います」