「似ている2人」──海人は「意地でも下がらんといたろ」
近い距離でヒジ・ヒザも使える海人にとって、K-1のようなヒジ・首相撲無しルールでの戦いは未知数だった。K-1ルールで前に出たときに使える技は野杁の方が多い。その距離を潰して直線的に打ち込む攻撃に、多くの選手は恐怖を植え付けられ後退を余儀なくされる。
その“怪物”を前に、海人は“意地でも下がらんといたろ”と決めていたという。「自分がプレスをかけて、野杁さんがやりにくい、野杁さんのリズムじゃない戦い方をしようと、意地でも下がらないというイメージ」で戦っていた。
いつもの相手のように下がらない海人に対し、野杁は、「別に想定外ではなかったし、驚きはない。(海人は)70kgでもやっていて、僕よりリーチもあるしそこは想定内。それでも全然勝てる自信があったので」という。
相手が下がらなくても、接近戦でのつば競り合いで上回る──ガードを固め、ボディ打ち、ときにワンキャッチワンアタックで首をひっかけ鋭角なヒザを上下に突く。
しかし、海人はそれを「いつもの受けて返す」形だけではなく、「打ち合うスタイル」で真っ向勝負した。
「やっぱり、いつもだったら逆のパターンだと思うんですよね、攻撃受けて細かいの合わせていって倒していく。でも、今回は相手の土俵でその場で打ち合って、しっかり倒したろうと思っていたので、判定もいって、延長もいったけど、その相手の土俵でしっかり戦い抜いて勝とうとしていました」
1、2発で終わらず、3発、4発としっかり返してきた(野杁)
その海人に野杁は、新たな動きである奥足へのインローも当てるが、「思ったとおりに戦えなかった」と振り返る。
野杁の得意な左ボディ打ち、そこに海人はショートのカウンターを合わせて、打ち返しも手数をまとめていた。
「僕が得意としている攻撃に対してのリターンはすごい対策している印象がありましたし、僕が攻撃を出すと向こう陣営のセコンドから『それ、練習でやってたやつだよ』という声が聞こえて、対策をしっかり練っていた印象がありました。しっかりブロックしたうえで、1、2発で終わらず、3発、4発としっかり返してきていた。僕にはそれはなかったかなと思っています」(野杁)
その手ごたえを海人も「パンチは効いたんじゃないかなと。一瞬(相手が)退いてふらつきもしたので、パンチを効かせられたんじゃないかとは思います」と語る。
打ち返し、左ジャブのダブルも当てて前進し、野杁にロープを背負わせた。「スタミナは全然まだ続けられる状態だったので、もっと戦いたかった。しっかり倒したかったので」と、緻密な神経戦のなかでもアグレッシブに戦い、心身ともにスタミナを切らすことはなかった。
攻勢の場面を作るも、本戦は意外にも30-30のドロー。試合は延長ラウンドへともつれこんだ。気持ちが折れそうなところだが、海人は、「正直自分だけの気持ちで言えば、“良かったな”と」と感じたという。
「はっきり白黒つけて倒したかったので、“延長までいって、“良かった、倒せる”と。『本戦で勝っていた』といろんな人に言われるので、それはそれで良かったけど、僕自身は倒したかったので延長まで行って良かった」
延長も一進一退、ひとつのミスが勝敗を分けるマストラウンドの攻防でフィニッシュを狙った海人だが、1Rに腕を傷めていた野杁も応戦。しかし間合いが空いた分、海人が得意の右ストレート、跳びヒザをヒットさせるなど、接戦を制した。