「こんなに激しい引退エキシビション見たことない」と声が挙がったメイン。最後はパンクラス大阪稲垣組・稲垣克臣代表とがっぷり組んだ。(C)前田吉朗引退興行
PANCRASE、DEEPのタイトルを獲得し、常に日本軽量級の最前線で闘ってきた前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)が2022年4月10日、若手時代の思い出の会場「梅田ステラホール」にて引退試合を行った(有観客&ツイキャスPPV配信)。
「『過去』『現在』『未来』の3人と戦う」と語った前田。
最初に登場したのは、砂辺。ボクシンググローブをつけたまま、ロープワークならぬケージからケージまで折り返し走ってケージイン。砂辺とは2003年5月のプロデビュー2戦目と2021年11月の現役最後の試合でいずれも前田が判定勝利している。
▼前田吉朗引退エキシビションマッチ
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)
砂辺光久(reversaL Gym OKINAWA CROSS×LINE)初代スーパーフライ級&フライ級&ストロー級キング・オブ・パンクラシスト
1試合目は砂辺とキックボクシングルールで対戦。ゴングでグローブを合わせ、いきなり跳びヒザ蹴りを見せた前田。左ストレートを突いて思わず組んでバックテイクも、身に沁みついた動きで前田は苦笑。
二―サポーターとシンガードありながら、強い右ミドルを打つ砂辺に、脇を空けて打って来いと挑発。前田も踏み込んで左ハイを当てる。互いに跳びヒザから、砂辺も思い切り殴り合い、ゴング。軽くハグをかわし、砂辺は前田に拍手を送った。
▼前田吉朗引退エキシビションマッチ
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)初代フェザー級K.O.P. 第3代DEEPバンタム級王者
北方大地(パンクラス大阪稲垣組)第2代ストロー級キング・オブ・パンクラシスト
2番手に登場は同門の後輩、北方。2019年7月に砂辺から奪取したPANCARSEストロー級のベルトを肩に花道を進む。
2試合目はグラップリングルール。がっちり握手し、ゴング。組んで脇を潜りバックから持ち上げてテイクダウン、バックコントロールする北方。速攻でリアネイキドチョークを狙う。
亀になる前田の正対を許さず、フェイスロックからリアネイキドチョークを狙うも前田は極めさせず。亀になりダブルレッグも、そこに北方はギロチンチョークで後方に回してマウント。前田も極めさせず。ゴングに握手した北方を前田はすぐに抱き寄せた。
メインイベント
▼前田吉朗引退エキシビションマッチ
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)
稲垣克臣(パンクラス大阪稲垣組)
最後に登場は、パンクラス大阪稲垣組の稲垣克臣代表。2000年5月に地元香川から大阪で格闘技を始めた前田にとっての師匠が、グッドシェイプで、素手にショートタイツ、レガースをつけてケージイン。
PANCRASEのロゴ入りの白のレガースを着けた40歳の前田も蹲踞の姿勢で腰を落とし、52歳でバキバキの身体を作り上げてきた稲垣をにらむ。
掌底あり、ヒールホールドもOK、エスケープ、ダウンカウント無しというルール。先に右ミドルは稲垣。さらに右の掌底もそこにシングルレッグを合わせた前田がバックテイク、スイッチを狙う稲垣に、両足をフックしリアネイキドチョークを狙う。
正対する稲垣に右の掌底を落とす前田。顔はかわした稲垣の首もとにバチンと音を立てて当てる。亀からの立ち上がりのバックに付く前田にスイッチ狙いからキムラに組んだ稲垣が後方に回そうとするが、その際で足を掴みヒザ十字は前田。
ヒザを抜き立とうとする稲垣を抑え込む前田はバックマウントを奪い、リアネイキドチョークへ。左右で腕を入れ替え、最後は左腕をアゴ上から食い込ませて後ろ頭で組んで絞るが、指を入れていた稲垣が凌ぎ、ゴング。
全力を出し切った前田はマット上に大の字。しばらくしてから起き上がり、跪いて握手を求めると、稲垣はその手を引き上げ、両者は立ち上がってハグ。前田は涙を流した。
全試合終了後、砂辺と北方もケージに上がると、砂辺は「20年前からライバルだと思っていた彼が僕より引退してしまうのはすごく悔しいし、でも沖縄で対戦し、今日ちょっと殴れてせいせいしています(笑)。彼が選ばなかった未来を僕はまだまだ歩いていきます。彼はこれからの未来を自分の力で明るくしていくと思うので、今後の前田吉朗の応援、よろしくお願いします」とマイク。
続けて、北方は「吉朗さんの自分に対する厳しさ、格闘技に対する姿勢、それに周りの人に対する優しさを、すぐそばで背中で見せていただけて(目を潤ませながら)……ほんとうに感謝しています。僕にとっては稲垣さんと吉朗さんが『稲垣組』なんですよね。僕はこの2人のほんとうに尊敬する漢が、つくってくれた、残してくれた稲垣組の魂をしっかり受け継いで、世代を超えて、格闘技を通じて継承していきたいと思います。前田吉朗がいなくても、明日から僕や金太郎、三村亘、木下憂朔を筆頭に未来をしっかり作っていくんで、どうぞ皆さんよろしくお願いします」と挨拶。
そして最後は、稲垣代表がマイクを握り、「格闘技人生を一緒にやってこれて無茶苦茶楽しかった。ありがとう」と語り、前田を向いて一礼した。
記念撮影では、ケージのなかで長南亮TRIBE TOKYO MMA代表、北岡悟パンクラスイズム横浜代表、坂本靖PANCRASE広報、佐伯繁DEEP代表らが花束贈呈。最後に家族とともに記念撮影を行った前田はマイクを握った。
PANCRASEのベルトを腰に、DEEPのベルトを肩にかけた前田は「本日はご来場いただきありがとうございます。今日を持って格闘家・前田吉朗は引退します。デビューから今日まで、しっかり支えてくれて温かく見守ってくださった皆さん、ほんとうにありがとうございました。いろんなことを……あれを話そうとか考えてきたんですけど、やっぱり格闘技を通してすごくいろんなものを学び、今日、こうやって、皆さんの顔を見て『ありがとうございました』と、この言葉を言えることを誇りに思います。こういう幸せな最後を迎える人間にしてくれた稲垣さんをはじめ、ずっとお世話になった皆さん、ほんとうにありがとうございました」と語り、四方に礼。
「吉郎!」の声が挙がるなか、前田吉朗はマット上で10カウントゴング。コールに両手を挙げると、稲垣組の面々がケージイン。胴上げで5回、大きく宙を舞った。
◆前田吉朗(まえだ・よしろう)
香川県高松市/1981年10月31日生/生涯成績39勝19敗3分
船木誠勝vsヒクソン・グレイシー戦(2000年5月『コロシアム2000』)に触発され、総合格闘技を学ぶべくパンクラス大阪へ入会。アマチュア大会、パンクラスゲートで実績を重ね、2003年2月パンクラスプロデビューを果たす。デビュー以来、持ち前の思いきりの良さと天性の運動能力を発揮し、近藤有己の8連勝を抜くパンクラスデビュー12連勝という驚異の記録を樹立。2003年『ネオブラッド・トーナメント』では、圧倒的な強さで優勝し、一躍パンクラス軽量級エースの座に昇りつめる。2006年8月にはパンクラス初代フェザー王者決定トーナメントを制し、初代王座を獲得。活躍の場は海外にも及び、2008年6月には『UFC』の軽量級部門であった『WEC』においてバンタム級王座に挑戦。敗れはしたものの、当時バンタム級世界最強と呼び声の高かったミゲール・トーレスと互角の激闘を繰り広げ、アメリカで大きな反響と高い評価を受ける。
2009年からは『DEEP』『DREAM』に主戦場を移し、2010年12月『戦極 Soul of Fight』ではDREAM代表として初代SRCフェザー級王者の金原正徳と闘い、右フックで衝撃的なKO勝利をおさめる。2012年2月には大塚隆史を破り第3代DEEPバンタム級王座を獲得。2017年からは『修斗』を主戦場とし、ランキング1位まで昇りつめる。2020年には前人未踏となる三冠王を目指し、福田龍彌とフライ級暫定王者決定戦で対戦するもベルト獲得ならず。2021年には『RIZIN32』に参戦し、若手時代からの好敵手砂辺光久と対戦。大会ベストバウトとの呼び声の高い内容で勝利し、前田吉朗の存在感を示した。“浪速のヒットマン”として、20年近くパンクラス大阪稲垣組の先頭に立って闘ってきたが、近年は北方大地や金太郎といった稲垣組の後輩らの成長と活躍もあり、自身の肩の荷が下りたとの思いから引退を決意した。