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ウクライナに留まる者、母国を出て戦う者、帰国足止め、入国禁止──ロシア「ウクライナ侵攻」のなか、ファイターたちはいま

2022/03/01 15:03
「ウクライナに手を出さないで」(モロズ)  2022年2月24日にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続くなか、世界のファイターたちが反応。格闘技大会出場への影響も出始めている。  3月5日に米国ネバダ州ラスベガスのT-モバイル・アリーナで開催される『UFC 272: Covington vs. Masvidal』に出場予定のウクライナ・ヴィルノヒルズク出身のマリナ・モロズ(ATT)は28日、各国メディアのインタビューに応じ、「ウクライナに手を出さないで」と訴えた。 “アイアン・レディ”の異名を持つモロズは、ウクライナでボクシングとキックボクシングの「マスター・オブ・スポーツ」の称号を得て、ウクライナ ボクシング代表チームメンバーから、MMA転向を果たした。現在は堀口恭司と同じ、フロリダのアメリカントップチーム(ATT)で練習を続けている。 「私は自分の国を愛しています。ウクライナに手を出さないで」と語るモロズは、母国について、「ウクライナにとって大変な時期です。私は自分の国、大統領、ウクライナの全軍を応援したいし、戦争はしたくないと言いたい。今は家族のことが心配です。故郷の状況があまりにひどく、父は家で手榴弾を作っています」と、首都キエフに続き第2の都市ハリコフも砲撃を受けている状況に、心配の表情を浮かべた。 (C)Buda Mendes/Zuffa LLC  MMA10勝3敗(UFC5勝3敗)のモロズは5日、カザフスタンのマリヤ・アガポバ(10勝2敗・UFC2勝1敗)と女子フライ級で対戦する。  2019年にサビナ・マゾ、2020年にマイラ・ブエノ・シルバに判定勝ちし、2連勝中のモロズは、同じくマゾに一本勝ちしているアガポバとのフライ級サバイバルマッチに向け、「私はウクライナの人々が強いことを示し、オクタゴンの中で私の旗を掲げて戦います」と語っている。  5日の『UFC 272』には、モロズと同じプレリミナリーで、ダゲスタンのイーグルスMMAからウマル・ヌルマゴメドフ(13勝0敗 vs.ブライアン・ケレハー)、タギル・ウランベコフ(14勝1敗 vs.ティム・エリオット)の2選手も出場を予定しており、すでにハビブ・ヌルマゴメドフとともに、ラスベガスのUFCパフォーマンス・インスティチュートで調整をしている姿がアップされている。戦時下の両国の選手のパフォーマンスに影響が無いように主催者も務めている。 [nextpage] 「私たちは本当の戦争の中にいます」(アモソフ) (C)Bellator  一方、Bellator世界ウェルター級王者のヤロスラフ・アモソフ(ウクライナ)は、故郷を守るためにウクライナに留まることを表明している。  UFC世界ライト級王者のハビブ・ヌルマゴメドフの29戦全勝に次ぐMMA無敗連勝記録26戦全勝を保持しているアモソフは、5月13日のBellatorロンドン大会でマイケル・“ヴェノム”・ペイジを相手にウェルター級王座の防衛戦に臨む予定だが、この試合がどうなるかのアナウンスはまだされていない。 “ダイナモ”の異名を持つパワフルなアモソフは、アメリカン・トップチーム所属でもあるが、現在はウクライナにおり、自身のInstagramに投稿した動画で、「家族を安全地帯に避難させたが、ロシアとの紛争が激化する中、祖国のために戦うためにウクライナに留まる予定」と説明している。 「おそらく多くの人は、私が逃げた、隠れているとか、そんな風に思っているでしょうが、そうではありません。私は家族を連れて安全地帯に行きました。そして今、私は戻ってきました。私にできることで、この国を全力で守ります」  28歳のアモソフは、首都キエフに近いイルピン出身。近郊で激しい銃撃戦があったとも報告している。 「私たちは本当の戦争の中にいます」とアモソフは語る。 「ロシア軍がウクライナに侵入したことを信じない人たちを理解することはできない。私はこの目で見て、この耳で聞いている。恐ろしいことがここで起きている。私たちにはできることがあります。  私はこの国、私たち自身の国を愛しています。ロシアが私たちの家にやってきて、ここで戦争を始めました。罪のない人たち、女性や子どもたちなど、多くの人が亡くなっています。私たちはこの国を守らなければなりません。“友よ、団結せよ、助け合え、そうすれば全てはうまくいく ”。なぜなら真実は我々のものであり、勝利もまた我々のものである」 [nextpage] 英国大会にロシア人ファイターは出場できるか (C)Zuffa LLC  ロシアがウクライナに本格的な侵攻を開始した後、米国や英国などの同盟国からロシア、そしてウラジーミル・プーチン大統領に対していくつかの制裁や罰則が課せされた。  格闘技界にもその影響は出始めている。  ウクライナの元ヘビー級ボクサー、ウラジミール・クリチコとヴィタリ・クリチコは、後者が現在のキエフ市長であることから、早い段階から直接的に関与してきたといえる。プロボクシング元3団体統一ライト級王者で世界最速の世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコと、WBAスーパー、IBF、WBO世界ヘビー級統一王者オレクサンドル・ウシクは、ウクライナに帰国する前に反戦声明を発表。首都キエフの領土防衛隊に入隊したことを発表している。 (C)olympic_ukraine  スポーツ界では大会開催禁止や出場停止など“ロシア・ベラルーシ外し”が広がっている一方で、ロシア出身アスリートへの誹謗中傷も問題視されている。ロシアのアスリートたちも、自国への制裁に生活を脅かされているのだ。  英国議会の議員がソーシャルメディア上で、「英国は、プーチンのいわれのない違法なウクライナ侵攻に加担する国の代表スポーツチームを歓迎しない」と発表するなか、ベラルーシの男子バスケットボールチームのビザが取り消されたことも伝えられている。  UFCは3月19日にロンドンの02アリーナで「UFC Fight Night: Volkov vs. Aspinall」の開催を発表済みで、ロシア人ファイター4選手が出場予定とされている。  ヘビー級コンテンダーのアレクサンダー・ヴォルコフ(ロシア・6位)が、UFC4連勝中のトム・アスピナル(英国・11位)を相手にメインイベントを務め、さらにティムール・バリエフ、シャミル・アブドゥラヒモフvs.セルゲイ・パブロビッチらも名を連ねている。また、ウクライナからニキータ・クリロフ(vs.ポール・クレイグ)、ルドビク・ショリニアン(vs.ナサニエル・ウッド)の2選手も参戦予定だが、影響が危惧される。  Bellatorロンドン大会でも、メインのアモソフ(ウクライナ)のほか、ロシアのアンドレイ・コレシュコフがポール・デイリーと対戦予定だが、どうなるか。 [nextpage] 新型コロナウイルスと戦火のファイター  解決策を模索している各格闘技団体だが、選手の渡航には別の問題も発生している。  欧州各国がロシアの航空機に対して制裁を科したことに対し、ロシアが欧州の航空会社の「領空飛行禁止」で対抗しているため、欧州とアジアを結ぶ便に大きな影響が出ている。  欧州の航空会社はロシア上空を避けるため、アジアと行き来する便で南回りの代替航路を取り始めており、選手によっては、出入国、そして帰国出来ない選手も現れている。  23日にロシアのエカテリンブルクで行われた「RCC: Intro 19」に出場した元BRAVE CF王者のルアン・サンチアゴ(ブラジル)とヘッドコーチのクリスチアーノ・マルセロは、一部空港が閉鎖されていることをInstagramで語っていたが、ようやく帰国便を得たことを報告している。  また同大会に出場したホセ・マルコスはモスクワに戻ったが、ポーランドが新型コロナウイルスの流行により、ブラジル人の入国に制限があるため、その後の乗り継ぎ便から引き上げられ、足止めを食らったことが「MMA Fighting」の取材で明らかになっている。 「AMC Fight Nights 109」に出場した「TUFブラジル2」出身のマーシオ・サントスは、ロシアとウクライナの国境近くに位置するソチでの大会後、ホテルから合宿を続けてきたダゲスタンに戻りたいと記し、同じブラジルのブレンドソン・ヒベイロとヴィニシウス・クルスは、試合数時間後にソチの空港が閉鎖される前に街を出て、モスクワまではたどり着いている。  23日の夜、ロシアで行われた素手のボクシングの試合に負けた元UFCのファビオ・マルドナドは、モスクワからブラジルに戻る飛行機に乗ることができたことがSNSで確認された。  今後、選手・団体たちは新型コロナウイルスのみならず、ロシアのウクライナ侵攻の影響にも悩まされることになりそうだ。 (C)ONE Championship  多くのファイターたちが不安定な状況のなか、2月25日には、シンガポールでONE Championshipが大会を開催。バンタム級の新星で母国ブラジルから中国、タイへと移り住み、世界各国のファイターたちと交流してきたファブリシオ・アンドラージは、試合後、「僕の心は、今、ウクライナにいる皆さんと一緒にあります。何年も前から現地で起きてしまっている悲しいこと、こんなことは起きてはいけないです。僕たちに戦争はいりません、必要なのは平和と愛、それだけです」と、サークルケージの中で語っている。
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