脳のダメージへの恐怖感が芽生えた。柔術はやりたいけど、殴りたくない──その気持ちはMMAファイターにとって、致命的だった
【写真】2020年9月、女子フライ級9位のアンドレア・リーと対戦し、判定勝ちしたロクサン。(C)Zuffa LLC
――一時期に比べたら、練習はかなり出来るようになったわけですね。今回の引退試合に向けて、ロクサンの北米でのキャリアを振り返ると、Invicta FCを経て、2017年12月に「The Ultimate Fighter 26 Finale」でUFC世界女子フライ級王座決定戦を戦って、判定で敗れた。
そこから勝ち負けを繰り返しながらも連敗はなく、バーブ・ホンチャック、アントニーナ・シェフチェンコ、アンドレア・リーに勝利した。あのリー戦も息詰まる接戦を競り勝った。あのとき再び、タイトルマッチに行ける手応えを感じなかったですか。
「そうですね。感じたことは……、もっともっと頑張ればもしかしてタイトルマッチができたかもしれないなと思ってるけど……どうだろう。みんなインタビューでいつも聞いてきました。タイトルマッチしたい? と。『頑張ります』と答えるけど、それは目的じゃないですね。私は“勝ち続けたかった”。ただ“次の試合に勝ちたかった”。
タイトルマッチをまたやるか、やらないかは別にいいと思っていて、それは年齢的なものもあったかもしれない。いろいろな怪我があったから、ちょっと筋トレも、強くなる目的じゃなくて、治す、力をキープする練習になっていたから、そこからさらに上げるのは、ちょっと難しかったです」
――その後ビビアニ・アラウージョと戦い、前戦は2021年9月のタイラ・サントス戦。どちらも苦しい判定で、連敗したのは、2013年以来でした。あの2試合の連敗が、ロクサンの今回の引退の決断に繋がったのでしょうか。
「うーん、繋がってないと思う。私は6連敗も経験しているから、もっと頑張れば強くなって勝てるでしょうとも思うから、それが原因だとは思わないけど、そのときに考えたのは、年齢のこともあるし、結婚したいし、毎日起きて、別に殴り合いたくない気持ちが出てきたから……他の仕事をやる時かなと思ったんです。柔術はやりたいけど、殴りたくない。その気持ちはMMAファイターにとって、致命的だから」
【写真】2021年1月、元PANCRASE女王のビビアニ・アラウージョと対戦し判定負け。(C)Zuffa LLC
──……そうだったんですね。それはいつくらいからそういう気持ちが沸いていたのですか。
「どうだろう。1年前かな。自分が思ったように戦えていなくて、1年前、脳のダメージへの恐怖感が芽生えて、気を付けなきゃならないなと思い始めて、それから練習に集中しにくいというか……、スパーリングでハードに頭を打たれたくないと思ったら、ちょっとスパーリングのクオリティが下がりました。ただ、今回はヘッドギアをつけて一生懸命練習したから、しっかり準備ができています」