どんな下馬評も自分を信じていれば覆すことができる
そして、それを遂行したのは、PANCRASEからDEEP王者として修羅場を潜ってきた牛久の練習量に裏打ちされたフィジカルとスタミナによるところもあった。
ガードが高めの牛久に、斎藤は左ジャブを突きながら、叩きつける右、さらに右ボディと下にも散らしながら、効果的にポイントを重ねていた。頭を下げ気味に前進する牛久には頭を押さえ、首相撲からヒザ蹴りも突いた。
しかし、この首相撲&ヒザをなぎ倒すように牛久も左を当てて斎藤の腰を落とさせている。牛久は斎藤の打撃をもらっても焦りはなかったという。
「確かに1Rは相手のペースでした。慌てることはなかったです。元々スタミナには自信があって、2、3Rで仕掛けようと思っていました。相手は1Rから飛ばしてくるんじゃないかと思っていたので様子見というか。2R、3Rで仕留めようと思っていました」
アンダードッグとして王者に挑戦の機会を得るなか、挑戦者の実力に懐疑的な声や誹謗中傷の声も聞こえてきた。それでも、これまで力を得てきたチームや仲間に、強さを証明することで、恩返しをしたい気持ちが強かったという。
ゴングが鳴らされ、敗者の斎藤は「出来る! 出来る! まだ出来るよ」とストップに叫び、勝者の牛久も珍しく咆哮した。
「サポートしてくれた周囲のみんなに強さを証明したい、それを一番強く思っていました。“やってやったぞ”って気持ちが強かった。それで思わず叫んじゃいました。試合前に『頭突き合戦か』とか良くないコメントも多かったんですが、自分を信じて、K-Clannやパワーオブドリームのみんなが信じてくれたので、いろいろなコメントがあった中でも力になりました。仲間たちもずっと僕を信じて練習を付き合ってくれたので、日々の練習でパワーをもらってより気持ちも固まりました」と、周囲に感謝の言葉を語った。
リング上ではマイクを渡され、「試合を受けていただいた斎藤チャンピオンありがとうございます。今回、自分が挑戦したいと言って、“いや無理だろ”とも言われましたが、自分を信じて頑張ってればいいことあるんだなと。同じ感じで悩んでいる人がいれば、どんな下馬評も自分を信じていれば覆すことができるんで、そういうみんなの力になれればと思います」と、“夢の力”を持ち続けて得たベルトだと語った。
そんな牛久を見て、古川会長は「“教わろう”という気持ちに長けている子だから。今後も楽しみです」と期待を寄せる。
ドクターストップによる王座移動。試合続行を求める斎藤の声に、牛久は「諦めてない、その強い気持ちを感じました。チャンピオンだなって。チャンピオンになるのは甘い気持ちではなれないと思っているので、そういうのを強く感じました」と、王者の矜持を感じたという。
新王者として、「キッズとか小さい子供たちにも“RIZINの王者になりたい”と憧れられる王者になりたいです。人に影響を与えられる、感動を与えられるファイターになります」という。
中学生のとき、家族に「MMA(総合格闘技)のジムに通いたい」と話したとき、たくさん心配された。「どうしても総合格闘技をやりたいなら自分のお金でやりなさい」と言われ、高校に入ってバイトをしてお金を貯めて地元のジムに入門した。
DEEPに続き、2本目のベルトを巻いた牛久は、「会場を出て何をしたい?」と問われ、「母親が心配して待っているので『勝ったよ』って、帰って顔を見せることによって安心してもらえると思うので、真っ先に家に帰りたいと思います」と語っている。