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20201年9月25日(日本時間26日)米国ネバダ州ラスベガスのT-モバイル・アリーナにて、『UFC 266』が開催される。
今大会のメインイベントは「フェザー級タイトルマッチ」アレクサンダー・ヴォルカノフスキーvs.ブライアン・オルテガ。さらにヴァレンティーナ・シェフチェンコが5連勝中のローレン・マーフィーを迎えうつ女子フライ級タイトルマッチも組まれている。
このダブルタイトルマッチの見どころをWOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”こと高阪剛氏に語ってもらった。
今回ばかりは蓋を開けてみないとわからない(高阪)
――『UFC266』のメインイベントは、ヴォルカノフスキーがオルテガを迎えうつフェザー級2度目の防衛戦です。この試合のポイントを髙阪さんはどう見ていますか?
「この試合は、タイプ的に対照的な二人の戦いですよね。王者ヴォルカノフスキーは、どちらかと言うと、いわゆる“ゴリゴリやる”タイプ。フィジカルが強くて、自分からどんどんプレッシャーをかけていき、たとえ打たれてもどんどん前に出てきたりする」
――UFC屈指のタフガイですよね。
「一方のオルテガは、自分からバンバン前に出ていくタイプではないんですけど、カウンターの打撃でしっかりとダメージを与えることができる。また、小技を使って相手を前に出させないような技術を駆使して、タイミングとチャンスを見計らって、倒しにくる。そういうクレバーなタイプの選手ですね」
――オルテガはもともと柔術家ですが、前回は昨年11月、コリアンゾンビ(ジョン・チャンソン)の打撃を封じて、持ち味を出させなくしてフルマークの判定勝ちを収めましたから。そうなると今回は、闘牛とマタドール(闘牛士)のような戦いになりそうですね。
「まさにそういうイメージですね。ただ、オルテガに関しては、ちょっと懸念材料もあります。カウンターを当てるのがすごくうまいんですが、これまでの試合を見ると、カウンターさえも取らせないくらいのプレッシャーを受けると、ちょっとモロさが出ていたんです。(2018年12月の)マックス・ホロウェイ戦なんかは、まさにそういう試合でした」
――壮絶な一戦でしたが、最終的には打撃でボコボコにされてのドクターストップ負けでした。
「だからヴォルカノフスキーはどれだけプレッシャーがかけられるか、オルテガはそれをいなしながら、ポイント、ポイントでしっかり打撃を当てられるかでしょうね。ただ、もしオルテガが勝つとしても、KO勝ちはちょっと難しいと思うんですよ」
――ホロウェイの強打を浴びてもどんどん前に出てきたヴォルカノフスキーがKOされる姿は、あまり想像しにくいです。
「前回、ヴォルカノフスキーはホロウェイとの再戦で2度ダウンしているんですよね。1ラウンドに右ハイキック、2ラウンドはアッパー。どちらもフラッシュダウンしてるんですけど、ヴォルカノフスキーはダウンしながらも、パニックになることがないんです。これは相当屈強なメンタルの持ち主なんじゃないかと思いますね」
――あの後半めっぽう強いホロウェイが、後半攻め込まれて逆転負けを喫したくらいですからね。
「だからオルテガのKO勝ちというのは、よっぽどいいタイミングで打撃を当てるか、ヴォルカノフスキーがミスしないかぎり、なかなか難しいと思います。それはオルテガ陣営も当然わかっているだろうから、しっかりポイントを取って、判定勝ちを狙ってくるんじゃないかな。それも、なんとかテイクダウンして、グラウンドでコントロールすることで各ラウンドのポイントを取りにくるんじゃないかと思うんですよ」
――オルテガは、もともと生粋のグレイシー柔術家ですからね。ホリオン・グレイシーの息子、ヘナー・グレイシーの弟子で。
「オルテガは柔術家らしく、グラウンドで餌撒いて最終的に極めにいく。それがダメなら、すぐに自分の安全なポジションに戻るという寝技をしますからね。だから、そうやってオルテガがグラウンドで常にいい状態を保つことができれば、チャンスは広がっていきますけど、ヴォルカノフスキーのフィジカルは、それをも潰していくんじゃないか、という気がするんです」
――ただ、ヴォルカノフスキーにも懸念材料があります。本来、このフェザー級タイトル戦は3月に予定されていたのが、ヴォルカノフスキーが新型コロナウイルスに感染したため延期になりました。本人曰く、けっこう大変だったそうで、ひどいときは大量の吐血をしたらしいです。
「じゃあ、いつものヴォルカノフスキーと同じような仕上がりかどうかは、蓋を開けてみたいなわからないかも。でも変な話、それによってこのタイトルマッチは、より面白くなりましたね。両者がこれまでどおり万全なら、正直、ヴォルカノフスキー有利だと思っていましたけど、ちょっとこれでわからなくなりましたから」
――たいぶオルテガに勝機が傾いてきましたか?
「ヴォルカノフスキーのプレッシャーが少しでも弱まるなら、オルテガはだいぶ有利になります。オルテガは、腕をたたんだ状態からジャブなどで手を出して、距離で相手を惑わすことができる。だからアッパーとかが入りやすいんですよね。ジャブという自分の距離を保つ打撃があるからこそ、距離を詰めてきた相手にカウンターのアッパーもいれることができる。ジョン・チャンソンとの試合でもアッパーを何度か出していましたが、得意技なんでしょうね」
──死角から入れる打撃がうまいですよね。アッパーにしてもバックエルボーにしても。
「体の入れ替えだったり、相手に対して微妙に外側にポジションを取ったりするのもすごくうまいんですよ。そういうことも含めて技術力が高いので、ヴォルカノフスキーがフィジカルで勝ちきれないような試合になったら、また面白くなる気がします」