石井逸人、“憎しみ”を持たない初めてのチャンピオンシップ
──昨年から今年にかけて行われたインフィニティリーグでは見事優勝なさいました。おめでとうございました。
「やはり自分には2ラウンドのリーグ戦は向いていないと改めて感じました。自分は尻上がりに調子を上げていくタイプ。そこを改めて知れたのが収穫かなという感じでした」
──2勝2分という結果でした。戦ってみていかがでしたか。
「うーん……特に無いですね。ただ淡々と目的に向かって戦った感じです。相手云々も何もありません。ただ優勝という結果には満足しています。戦ってきた中で反省点が沢山見つかったので、それを一つづつ修正してきた所です」
──最終戦、野尻(定由)戦後、優勝したのに一切笑わないのも印象的でした。
「嫌いだったってのもあるし、試合が終わってもノーサイドとかねぇからなって思っていました。判定も勝ったと思ってましたし、その思いが顔に出てたのかもしれません。目すらも合わせてないです。基本的に対戦相手のこと全員嫌いですから」
──全員ですか!?
「そもそも試合を受けた時点で自分に勝てると思ってるわけじゃないですか。その時点でまずイラッとします。舐めてんなコイツって。ただ今回の相手が安藤さんなんですけど、仲がいい先輩なんです。嫌いじゃないし、むしろ好きな選手です。だから憎しみを持たない状態で試合するのが初めてなんです」
──試合が決まった時点で入るスイッチが、今回はいつもとは勝手が違うという。
「そうなんですが、今回は自分からお願いしている立場です。憎しみのスイッチは入ってませんが、しっかりと試合へのスイッチは入れてます。その向こうにベルトがありますからね」
──石井選手にとっても、安藤選手にしても複雑なオファーでしたね。
「ですが、使ってもらっている以上、お客さんに馴れ合いを見せるわけにはいきませんから。自分の人生が賭かってますし、そこはシビアに戦いますよ」
──安藤選手とはどんなご関係なんですか?
「安藤さんは元TRIBE TOKYO MMA所属で、自分が移籍してきた時にはもういなかったんで重なってることはないんですが、出稽古先が一緒になることがあって。それで仲良くなって、結構練習してもらっていました。試合が決まってからは安藤さんの方が気を使ってもらって練習場所を変えてもらってるみたいで」
──結構仲がいい間柄なんですね。普段の安藤選手はどんな感じなんですか?
「もうあのままですね。天才というのはこういう人なんだなと思います。修斗では田丸(匠)が天才と言われてますが、天才は安藤さんです。練習しなくたって強いんですから。なんでなんだろうって、練習してていつも感じてました。その安藤さんが今回、海外に行ったりいろんな所で練習してるみたいじゃないですか。そうまでしなきゃいけないって事は、それだけ自分を評価しもらってるって事だと感じています。その評価に対してしっかり応える為に、今しっかり作り込んでいます」
──何もしなくても強いという言葉がしっくりきます。
「生物として強い感じです。まず骨が太い。根本的に骨格から違うんだと思います。それに勘もいい。田丸も一発で終わらされたじゃないですか。勝負に対する鋭い嗅覚……野生の勘でしょうか。それも全て踏まえての天才だと思っています」
──いろんな意味で普段と違うオファーでした。知っている選手との対戦。そして今回は環太平洋タイトルへの挑戦となります。意外にも初めてのタイトル挑戦となります。
「確かにスイッチの入り方は違いましたが、タイトルへの挑戦という事で、また普段とは違う気持ちになりました。やっと来たなという感じで気合が入ります」
──長かったですね。
「他所に出てフラフラしてみたり、階級変えたり。ようやくここまで来たなって」
──環境を変えたり色々ありました。
「そうですね。いろんなことがありました。一度格闘技が嫌で離れた時期もありました。もう格闘技には戻って来ないという気持ちでした。そんな状態にあった自分を変えてくれたのが今の環境でもありました。この環境が自分に合っていたんだと思います。自分には不安だった時に拾ってくれた人や、応援してくれてる人の方が、俺を否定してる奴らより多いんです。その人たちと一緒に喜びたいし、その人たちにベルトを見せて恩返しがしたい。俺はその人達の為にも頑張らなきゃいけないんです」
──今の環境が逸人選手にフィットしたんですね。
「苦しかった自分を救ってくれましたし、今は本当の石井逸人でいられる気がします。そして、ここにいると目標だったり、モチベーションが同じ連中が沢山います。この環境があったから格闘技をまた続けようと思ったし、続けられたお陰でタイトルへの挑戦というところまで来れました。この環境だからチャンピオンになれると自分は信じています」
──ベルトを巻いたら長南代表の涙が見れるんじゃないですか。
「泣かしたいですね。しっかり勝って長南さんにベルトをお見せしたいです」
──だいぶ大人しいインタビューになりました。
「出せと言われればなんぼでも出しますよ(笑)。でも今回は憎しみがないというのは大きいのかもしれません。ただケージで向き合ったら、感情は抜きにして殺す気で向かいます。俺も人生賭かってますから」