2006年3月のプロデビューから、15年間の現役生活の引退を発表した石渡伸太郎(CAVE)が7月20日、自身のYouTubeであらためて、引退の経緯と現役時代の思い出、今後などを語った。
2021年9月19日(日)にさいたまスーパーアリーナで開催される「Yogibo presents RIZIN.30」にて引退セレモニーに臨む石渡は、その後、引退興行を行う予定だという。
21日の会見では、引退の理由を「これまで蓄積したダメージや怪我がずっとありまして、特に首がずっとよくない状態で練習が満足にできない状態でこれ以上、上位陣を倒していくような自分の姿を想像できなかったので、引退という区切りをつけることを決意しました」と語っていた石渡。
YouTubeでは、具体的な首の状態について、「ヘルニア自体は一応完治しているんですけど、それに伴う麻痺みたいなものが身体にずっと残っていて、(首を傾げてみせて)これで痺れるんですよ。筋力的にも麻痺によって、60パーセント、70パーセントみたいな感じですごい低下しちゃってる。そういう状態で組み技の練習はほぼできない、MMAが出来ないなかで試合に挑んで、その中で最高の状態でどこまでやれるか、っていうところで負けてしまったので、これが限界でした。普通は練習や試合が出来ないコンディションだったのをケアーしてくれた、城間(出・MSPトレーナー)さんのおかげです」と、麻痺が残ったまま戦っていたことを明かした。
また、引退を考えた時期については「(井上直樹に)負けた瞬間からです」と言い、「40、50(歳)でもやりたかったんですけど。けじめをつけることで指導をきっちりやっていく。これまで応援してくれた方に、モチベーションが落ちているのにやっていき、高いチケット買ってもらうのは違うと思い、きっちり線引きしました」とあらためて語った。
「本当は一番最後に勝って終わりたかったけど、本当にいい格闘技人生でした。幸せ者です」と、15年の現役生活を振り返った石渡。
会見では、「最後にもう1試合とは考えなかったのか」と聞かれ、「それに関しては本当に毎試合、大げさに聞こえるかもしれませんが、『死んだらしょうがない』と思ってリングに向かっていたので、“引退試合”ではそういう決意は出来ず半端な試合になってしまうので、そういうのはしないという気持ちです」と、納得のいく試合が出来ないからやらないと答えていたが、ファンに向けて最後に挨拶するために「動いている姿は見せたい」という。
「引退興行か引退パーティーか、なにか最後に自分が動いている姿を見せたい。『試合』とは言わない、エキシビションかなにか、最後に動いて皆さんにご挨拶できれば」と、時期は未定ながら、自身の出場と、縁のある選手を集めて引退興行的な場を設ける予定だ。
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とんでもなく強い選手とばかり戦ってきた。「ファイターやってて良かったあ」と思った試合も
セカンドキャリアについては、「格闘技のおかげでここまで人生楽しく過ごせてきたので、恩返しのつもりで格闘技を盛り上げていこうと思います。これからは指導者としてやって行きたい。RIZINにいろんな選手を送り込んで。結構ハードに鍛えているので、生き残れれば強い選手が出てきます。今後も斎藤裕選手のサポートもしっかりやっていきますし、アキラ(PANCRASEライト級4位)を送り込みたい」と、後進の育成に取り組みたいとした。
米国ではアルバカーキのジャクソン・ウィンクMMAや、シカゴのイジーレスリングへも出稽古を行ってきた。
「グレッグ・ジャクソンさんにも指導を受けましたし、現役中にアメリカの指導環境とかも見てきた中で、自分が日本で歯がゆい思いをしたところを、後進にはそういう想いをさせないように繋げていきたい」と、日本格闘技の底上げをするつもりだ。
生涯戦績26勝9敗4分、会見では15年間のキャリアの中で最も印象に残っている試合を問われ、「堀口恭司との戦いですかね」と、2013年6月22日と2017年大晦日の2度にわたって激闘を繰り広げた堀口恭司戦をあげた。その理由を「勝てなかったな、という。堀口恭司さえいなければ、みたいな」と笑った石渡。
YouTubeでは、そのほかの試合についても触れ、「一番は堀口選手、二番はハファエル・シウバ選手との試合。あまり知られていないけど、Bellatorでタイトルマッチも経験した選手です」と、2017年5月にPANCRASEで、5度目のバンタム級王座防衛に成功したシウバとの5Rの死闘を挙げた。
続けて、「コリアンゾンビも強かった(2009年3月に戦極フェザー級GPで現UFCファイターのジョン・チャンソンと激闘の末、一本負け)し、イ・ギルウも強かった(2010年8月のSRC14で石渡が一本勝ち。2017年にギルウは朝倉未来に判定勝ちしている)し、外国人はやっぱり、ラウンドの前半がめっちゃ強い」と激闘の数々を振り返った石渡。
マネージャの遠藤氏はチャンソン戦前に「コリアンゾンビとは打ち合わないほうがいい」とアドバイスしたものの、石渡が「何、言ってんですか、やるに決まってる」と答えたことも明かしている。
石渡は、「あのときはフェザーだった。あの当時、本気で自分が世界でも喧嘩が強いと思ってた。若いってそれだけで強いから。チャンソン選手は、日本にセコンドで来ると挨拶しにきてくれて、『最近の活躍を拝見してます』って言ってくれるけど、『こっちのセリフだよ』と。『あんたジョゼ・アルドとやってんじゃん』と。そういったとんでもなく強い選手とばかり戦っていることを分かってほしい」と笑顔で語った。
また、対日本人で堀口戦のほかに印象に残る試合として、2012年9月に2年4カ月ぶりの参戦となった修斗で、宇野薫に判定勝ちした試合も挙げ、「あの試合も忘れられないですね。会場の熱気がギュッとリングに向かってきていて、試合中に“ファイターやってて良かったあ”と思ったんですよね」と振り返った。
さらに、プロデビュー戦でカットによるTKOで敗れた石澤大介との試合も挙げ、「デビュー戦でもらったハイキックの傷がまだ残っています。初めての生スネが当たって、思わず“痛ッ”って言ったのを覚えています」と苦笑し、「気持ちが弱い選手もちょっとずつ積み重ねれば強くなります」と、“漢塾 塾長”も最初から漢気が強かったわけではないとした。
このライブ配信中には、対戦相手だった石澤からもコメントがあり、「その節はすみません。僕もその後、眼窩底骨折しました」と、互いにタフな試合だったことを語り合っている。
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日本の格闘技史上最高傑作である堀口選手と戦えたことは財産
会見では、石渡と試合を行った大塚隆史、扇久保博正もコメントを寄せ、大塚は「石渡選手は2度対決(2014年と2017年)して負けているんで、トーナメントでまた巡り合わせでやれたらいいと思っていましたが、引退と聞いて仲間ではないけど、同じ世代を生き抜いたという思いがあるので寂しい、残念な気持ちはありました」と寂しいと表現。
2019年12月のバンタム級王座挑戦者決定戦でスプリット判定の接戦を繰り広げた扇久保は、「『兄弟』って言ってもらったりして、自分的にはすごい親近感がある選手。ほんとうにお疲れ様と言いたいと思います。もう対戦することはないので、機会があれば、YouTubeでかめはめ波、一緒にしたいと思います」とコラボをリクエストしている。
石渡は両者のコメントを聞き、大塚には「もう戦おうなんて言わなくていいですね。終わったんだから。頑張ってほしいです」とエール。扇久保については、「あの試合は自分では最悪のパフォーマンスで、根性で頑張るしかなかった。結果的に見てる人は面白かったのかも」と判定にもつれこんだ激闘を振り返った。
また、扇久保からのかめはめ波対決については、「本物見せてやるよっていう。あの、扇久保のかめはめ波がどれだけショボいか証明してやりますよ(笑)」と受けて立つつもりであることを語っている。
そして、「もっとも印象に残る」とした堀口恭司からも労いの言葉が届いたという。
2017年10月にRIZINに初参戦した石渡は、アクメド・ムサカエフ、ケビン・ペッシ、大塚隆史を破り決勝進出。決勝では堀口恭司と約4年半ぶりに再戦し、3日間で3試合目という死闘のなか、KO負けを喫した。
「本当に、堀口選手と戦えたことは財産ですね。本当に強い。ここ(目の前)でガッって戦ってるじゃないですか。次見たらリングの全然端っこにいる。速いし、しかもぶつかったら鉄の塊みたいで身体も強かった。日本の格闘技史上最高傑作。そんな堀口さんに言ってもらえて光栄」と語ると、「堀口選手と話したいことがいっぱいあるし、みなさんにも聞いて欲しい」と、YouTubeで対談したいとした。
現役後期は、「ボロボロの状態だったので誰とやりたいという気持ちはなかった。ただ、できるところまでやりたいと思っていた」という。「朝倉海と対戦したかったか」と問われると、「この首のコンディションでは勝てないと思いますね。YouTubeで君たちは稽古をつけてもらいなさい」と、CAVEの後輩の原虎徹、雅駿介に語っている。
そして「最後に戦わせていただいて、ありがとうございました」と言葉を送られた井上直樹について「本当に強い」と語る。
バンタム級トーナメントで優勝するのは「井上直樹選手か朝倉海選手だと思っています」という石渡は、なかでも直に手合わせした井上に対する評価は高い。もしバンタム級王者の堀口恭司と、井上が戦ったらという質問に、「海選手と堀口選手は一度やっているけど、井上選手はまだ堀口選手に触れていない強豪。でもいまやったら全然勝負にならない」と言いつつも、「堀口選手はいま30歳で怪我もあり、少しずつ落ちてくる頃で、24歳の井上選手は上がってくるところ。面白い試合になると思う」と、GPを勝ち上がった場合の対戦は「面白い試合になる」と評した。
井上戦では慢性的な怪我はあったものの、「僕は仕上がっていて“強い石渡”で臨んだけどあの負け方をした。本当に井上選手は強い。『俺が井上を倒しますよ』って言ってくれるやつが、僕の周りにまだいないんですよね」と、周りの雅、原の成長に期待をかけた。
現役生活で唯一、心残りがあるという。
「フィジカルのピークと技術的ピークがうまくクロスしなかったこと。技術的ピークは今。フィジカルのピークは27歳くらい。そこから怪我が続いて、2つがうまく交差せず、RIZINの盛り上がりのピークと重ならなかった。だから、過去の映像を見てもらいたくて。RIZINで見た人は歳が行った僕を見ているので、若い頃も見て欲しい」
心技体とともに充実した姿を、全国地上波では見せられなかった。バンタム級で世界ランクは「180位くらい。ちょっと打たれすぎたんで」と苦笑するが、格闘技をやってきたことについては、「自分が戦っていることで誰かを勇気づけられるというのは一番嬉しいですね。やりがいのある仕事です」と胸を張った。
スパチャとともに「現役生活お疲れ様でした! これからもよろしくお願い致します」とコメントした斎藤裕には「こちらこそ」と返答。ファンからの「斎藤チャンプがクレベル・コイケに勝てるよう、よろしくお願いします」のメッセージには「任せてください。分析済みです」と、自信の表情を見せた。
今後は、指導者として、後進を育成する。
「RIZINのYouTubeのなかで『石渡コーナー』を作ってほしい」とのリクエストには、「必要とあればスキンヘッドにして袴着て、『石渡伸太郎である!』(「ワシが男塾塾長、江田島平八である!」のオマージュ)ってやります(笑)。キャリアの後半までずっとキャラがない感じで、堅物だと思っていたと思う。表現する場もなく、YouTubeでやっと少し表現できて、やっと最後に『男塾・塾長』というキャラをつけてもらったので、しばらくメシのタネにさせてもらいます」という石渡の今後に注目だ。
このほかにも石渡と妻とのなれそめや、プライベートや愛犬など、70分にわたり語られているYouTubeライブは、見どころ満載。アーカイブとしても残されており、視聴が可能だ。